それぞれの球技大会一回戦
期末テストはつつがなく終わり、恐らく皆が待ちに待っているであろう冬休みがやってくる――その前に。
日付は期末テスト最終日の翌日。年末の学校の大型イベント『球技大会』の日がやってきた。
男子はサッカー、バスケットボール、ソフトボールの三種目。女子はバレーボール、ドッヂボール、キックベースの三種目となっている。
俺が出る予定のサッカーは一試合目までまだ時間があったため、先に始まっている加茂さんの方のキックベースの応援に来たのだが……。
「うーん、グロい」
秀人は渋い顔で試合をそう評した。球技大会でその言葉を使うのはどうなんだと思わなくもないが、秀人が言いたいことは何となく分かる。
まだ1回裏にも関わらず、得点は0対9という大差がついていた。しかも、時間短縮のためにコールドは10点差と決められており、あと一点で試合が終わってしまう崖っぷちに立たされているのだ……相手が。
「キックベースってこんなに差つくものなんだな」
初戦負けはしないだろうとは思っていたが、ここまで大差をつけるとは。この大差の要因は加茂さんの個人技が大きいように思う。いや、彼女贔屓している訳ではなく。
というのも、加茂さんの守備範囲が異様に広いのだ。野球で例えるとセンターの位置にいる彼女だが、何故かショートとセカンドの位置に飛んできたボールまで、持ち前の反射神経と素早さでキャッチしてしまっている。サッカーのゴールキーパーをやらせたら鉄壁の守備性能を発揮するのではないだろうか。
これにより、一回表、相手側の攻撃が即行で終わってしまったのである。
そして、一回裏、うちのクラスが攻撃側となり……ここでも加茂さんは怪物染みた運動能力を発揮。変化球も何もないこのキックベースにおいて、加茂さんがホームランを出すのはあまりに容易だった。球技大会一発目の満塁ホームランである。
その後、全体的に蹴る力が強いらしいうちのクラスは順調に得点を重ねていき、0対9という大差がつくに至ったのだった。
お相手の一年生クラスも点差が広がりすぎて戦意喪失してしまっているように見える。気の毒に思うが、勝負なので仕方ない。
――更に追い打ちするように、逆転はもはや絶望的だろうと誰もが思ってしまうような次のバッターが打席に再び立った。
「…………(ぶんぶんっ)」
「お、愛しの彼女が手振ってんぞ」
「分かってる。見えてるから」
応援の意を込めて、打席からこちらに手を振っている加茂さんに手を振り返す。
明らかに俺に向かって手を大きく振ってるのが分かり、知らない人から注目されて少し恥ずかしい。しかし、加茂さんの方は特に恥ずかしさとか無いらしい。
お相手クラスのピッチャーの子から恨みがましい視線を向けられている気がするが、きっと気のせいだろう。俺はそっとピッチャーの子を視界から外した。
その後、案の定とでも言うべきか。加茂さんは一回目よりも飛距離を伸ばしたホームランを放ち、うちのクラスのキックベースは初戦を突破したのだった。
* * * *
うちのクラスのキックベースが終わって間もなく、今度はサッカーの方の初戦も始まった。
相手は俺達と同じ二年生のクラスだ。どちらが勝ちそうかと聞かれると、正直分からない。
コートの中央でボールの取り合いをしているのを遠めに眺めながら、俺は一人離れた場所で自分の出番を待つ。
……決してサボっている訳ではなく、ゴールキーパーだからぼーっとするまではいかないにしても少し暇なのだ。まあ、出番が多いよりは少ないに越したことはないのだが。
ゴールキーパーは志願した訳ではない。秀人の推薦で、いつの間にかゴールキーパーにさせられていた。というか、そもそもサッカーも俺が選んだ訳ではなく、秀人に勝手にメンバーに入れられたのである。
本音を言えばサッカーよりバスケの方が好きなのだが、秀人も考えなしに俺をゴールキーパーに推薦した訳ではなかったようで……。
『光太って試合中ずっと走り回れる体力ねーじゃん』
その理由に自分でも納得してしまい、何も言えなかった。
じゃあソフトボールでもいいんじゃないかとも思ったが、一応、ゴールキーパーにさせられたのは俺の運動神経を買ってのことらしい。
「っ、くそっ」
しかし、運動神経が少しある程度ではサッカー部のシュートは止められなかった。俺は反応が追いつかずに一点を許してしまう。
「ドンマイドンマイ」
「また取り返してやらあ!」
元々、先に点を決めてリードしていたが、これで試合は1対1。振り出しに戻ってしまった。
その後の試合もかなり拮抗した状態が続いた。うちのクラスの得点の要になっている秀人が警戒されているらしく、二人がかりでマークされている。
「危なっ」
無理に秀人にパスを繋げようとするも失敗し、そこを一気に攻められてボールがゴールを掠める。
今のは向こうのミスに救われた。ミスらなければ再び点を取られてしまっていただろう。
『ファイト!
(๑╹▽╹๑ )』
飛んでいってしまったボールを走って取りに行く途中で、応援の言葉を書いたボードを持った加茂さんの姿を目にした。
「――いくぞ!」
ボールを取って戻ってきた俺は、大声と共に前に向かって思いっきりボールを蹴り上げる。
その方向は警戒されている秀人ではなく、うちのクラスのもう一人のサッカー部員。
「俺も一応っ、サッカー部だっての!」
山田へボールが繋がり、駆け上がって一気に攻勢に出る。しかし、そう易々と抜かれてなるものかと相手ディフェンスが山田の行手を阻む。
秀人なら一人で強引に突破するであろうそのディフェンスを、山田は迷わずパスという落ち着いた選択で突破。チームワークを活かし、そのまま追加点を決めていった。
試合を大きく左右する追加点に応援席から歓声があがる。
しかし、相手もまだまだ戦意を失っておらず、このままじゃ終わらないと猛攻を仕掛けてくる。うちのクラスも、勝利を決定付けるための追加点を得ようと果敢に攻める。
一進一退の攻防が繰り広げられる中、再び試合が動いた。
「やばっ」
「赤宮!」
ディフェンスが抜かれてしまい、相手クラスのサッカー部が正面からドリブルで突っ込んでくる。
ここを取られてしまうと追いつかれる。何が何でも止めなければならない。
だけど、ボールを蹴られてからじゃ反応が間に合わないだろう。なら、勘に頼るか? いや、自分の勘もそこまで信用できない。
「うえっ!?」
シュートしようとしていた相手は、俺の行動に驚いた声をあげる。
俺は今にもシュートを打ち出そうとしている相手の目の前に飛び出した。蹴られる前に飛び込んで、ボールを奪えないにしてもシュートの範囲を狭めようと。
怖くても、素人なりに、ゴールキーパーとしての役目を果たすために。加茂さんに不甲斐ない自分を見せないために。そして、勝つために――。
「ぶっ」
――ボールが顔面に直撃した。





