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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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加茂さんと零距離コミュニケーション

 あれから三日も経つと、加茂さんの声の話題は学年で知らない人はいないまでに広がった。

 広まるの早いなとは思ったが、思い出したことがある。日向ほどでなくとも、加茂さんは元々学内で有名人な方だった。


 因みに、日向にも加茂さんの話は届いていたようだ。

 ただ、日向が直接話しに来ることはなく、加茂さんとライナーでやり取りするだけに留まったらしい。加茂さんから聞いた話によると、[自分が教室に会いに行くと変に注目を集めて迷惑かけそうなので、暫くは我慢します]とのこと。

 加茂さんは『気にしないのに』と言っていて、本当にそう思ってはいるのだろう。しかし、俺としても今回ばかりは日向の配慮は正解だったように思う。

 まあ、結局、加茂さんは後から録音の一部を日向に送ったそうだ。彼女曰く、日向には個人的にお世話になったから後ろ倒しは嫌だったのだとか。その個人的にお世話になった内容については、詳しくは教えてくれなかった。




「すぅー……」


 そして、金曜日の放課後。俺は加茂さんに後ろから抱きつかれ、吸われていた。


 ここ数日の帰り道、駅を通り過ぎて人通りの少ない道に来てからの加茂さんはいつもこんな状態だ。

 俺は別に香水を付けている訳ではないので、特別良い匂いがする訳でもない。しかし、加茂さん的には俺の匂いが落ち着くらしい。体臭を嗅がれているようでムズムズするから正直やめてほしい気持ちはあるが、精神的に疲れ切っている加茂さんの癒し?の邪魔はできなかった。


 暫くすると加茂さんは一度俺から離れ、再び俺の腕に自分の腕を絡んでくる。


「満足したか?」

「…………(こくっ)」


 頷く加茂さんの表情はすっかり緩んでいて、学校で緊張状態だった姿は見る影もなかった。こんなもので加茂さんの負担が減らせているのが不思議で仕方ない。いや本当に。

 ……この調子だと、()()を始めるのはもう少し後にした方が良さそうだ。


 ――不意に、音が聞こえる程の冷たい風が吹く。


「寒っ」

「…………(びくっ)」

「あ、ごめん」


 腕を組んだまま体を縮こめてしまい、加茂さんの腕を軽く引っ張ってしまった。彼女の体が驚きを表すように一瞬震えたのが伝わってくる。


「痛くなかったか?」

「…………(こくり)、…………(ぎゅっ)」


 加茂さんは頷くと、俺の腕に両腕でしがみいてくる。温めてくれているのだろうか。

 加茂さんは温かい。多分、俺より体温が高いのだと思う。だけど、それだけじゃない。俺のために体をくっつけてくれるその行為に、体だけでなく心までじんわりと温まる。


「…………」

「…………(ぎゅー)」


 ――どころか、熱い。加茂さん、思いっきり当たってる。制服越しからでもよく分かってしまう感触が、腕に押し付けられている。

 これはわざとなのか、それとも無意識なのか。どちらにせよ、大変心臓によろしくない。


 頭に浮かんでしまった彼女の水着姿を振り払う。


「あの、加茂さん、一回離れてください」

「…………(ぴたっ)」


 言葉が変に堅くなりながらもお願いすると、加茂さんの力が緩む。


「……………(ぎゅうううう)」


 そして、加茂さんは何故か俺のお願いをスルーして、再び腕にしがみついてきた。嘘だろ。

 今、明らかに気づいたよな。一回止まったよな。それを確認する意味も含めて彼女の顔を見れば、真っ赤っかだ。


 確信した。一度目はともかく、二度目のこれは分かっててやっている。


「こんな道端で人を誘惑するのはやめようか」


 もう寒さを感じてる余裕もない程度には熱いので、これ以上の暖は要らない。

 すると、加茂さんはいつもの腕組み程度の距離感に戻り、ボードにペンを走らせる。


『嬉しい?』

「何てこと聞くんだ」

『男の子こういうの

 好きって聞いた』

「誰だよ言った奴……想像つくけど」

『桃ちゃん』

「桜井さんなのかよ」


 加茂さんに余計な知識を植え付けた意外な人物に驚いてしまう。西村さん、疑ってごめん。


『嫌だった?』

「…………嫌じゃ、ないけど」


 素直に答えるのがどんなに恥ずかしくても、ここで嘘はつけなかった。

 俺も男ではあるので、そういう欲求が全く無い訳ではない。というか、そういう欲求が普通にあるから加茂さんにブレーキ役を頼んだのだが。今の行動、真逆だったぞ。


「加茂さんがアクセル踏んじゃ駄目だろ」

『でも、ずっと発散しないと

 爆発しちゃうって聞いた』

「……それも桜井さん?」

「…………(こくり)」


 どうしよう。俺の中での桜井さんのイメージがどんどん崩れていってる。

 しかも、間違った情報でもないのが逆に困る。山田、お前の彼女の男への理解度凄まじいぞ。気をつけろ……もう遅そうだな。


『今週のお礼も込めて

 ごほうびになればと思って』


 それが加茂さんの動機らしい。

 ここはビシッと、"そんな見返りのために加茂さんを支えてるんじゃない"と言い切らなければならない場面だろう。


「なら、加茂さんの家でお願いしてもいいですか」


 ――俺は欲に抗えなかった。


「…………、…………(こくり)」


 加茂さんは顔を赤らめながら、控えめに頷く。

 そのいじらしい反応に、俺の顔は更に熱くなった。

この後、加茂さんの家でめちゃくちゃ引っ付いた。

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