表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
新しい友達、手探りの距離感

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/315

加茂さんとプランB

 加茂さんから連絡を受けた俺は、その救援要請に返信する。


[プランBだ]

[プランBとは!?( ゜д゜)]


 秒で返信が来た。返信する余裕はあるのかと感心しつつ、俺はトイレに立て(こも)るのを中断して外に出る。


「…………」

「…………(おろおろ)」

「お、光太。腹の調子は?」

「治った」


 空気はあまり良いとは言えない状況だった。

 神薙さんは無言で秀人を睨み、加茂さんは彼女を抑えようと腕を掴んでいる。秀人はトイレから出た俺に声をかけてくるが、困り顔だ。


 これからすることは決まっている。加茂さんに宣言した通り、プランBだ。

 ……と言っても、今考えたばかりの即興案。この作戦の前提条件に、"加茂さんにアドリブで話を合わせてもらう"が含まれる。


「二人とも、奇遇だな」

「…………っ、…………(ふりふり)」


 予想外の事態に対する動揺から、加茂さんは返事にワンテンポ遅れる。しかし、俺の言葉の意味を察して、後から俺にちゃんと手を振ってくれた。


「奇遇ね、赤宮君」


 問題はこっちだ。

 微笑を浮かべる神薙さんの目は、笑っているようで笑っていない。不機嫌を隠すつもりはないらしい。

 だが、この程度では臆さない。俺はその不機嫌に気がつかないフリをして、二人に訊ねる。


「二人はどこにいくんだ?」

「駅の近くにあるカフェよ。珍しく九杉が行きたいらしいの」

「お、マジか。俺達も丁度そこに行く予定なんだよ」

「……え?」


 神薙さんが固まる。そして、秀人が後ろから話に参加してきた。


「光太の行きたいところってそこだったんだ」

「男一人だと入りづらくてな」


 適当に理由をでっち上げ、俺はプランBの要石(かなめいし)になる提案を持ちかけた。


「どうせなら四人で行くっていうのはどうだ?」


 これぞプランB、"偶然を装って合流してしまおう大作戦"だ。


「…………(ぽんっ)」


 加茂さん、成る程と感心するんじゃなくて話を合わせてほしい。

 視線を送れば、彼女はハッとした顔になる。そして、ボードに文字を書く。


『いいね!(^ ^)』

「二人もいいか?」


 加茂さんの返事を見てから、俺は残りの二人に問いかけた。


「俺はいいけど……」


 秀人は戸惑った様子だが、嫌がってはいない。むしろ、様子を窺うように横目で神薙さんを見ている。


「私、帰る」


 神薙さんが駅の方向に踵を返そうとすると、既に加茂さんが回り込んでいた。


『鈴香ちゃんも一緒がいい』

「っ……」


 加茂さんはホワイトボードに書いた文字を神薙さんに向けながら、彼女をじっと見つめる。すると、神薙さんはその押しの強さに、あからさまに狼狽えた。


「……はあ。九杉がそこまで言うなら、仕方ないわね……」


 そして、渋々だが、神薙さんも一緒に来てもらえることになった。


 加茂さん効果、絶大だった。流石は加茂さんに過保護なだけある。

 ぶっちゃけると、この作戦は加茂さん効果頼りでもあった。しかし、こうも作戦通り上手くいってしまうと、逆に驚いてしまう。




 ――それから、そのカフェまで四人で歩き始めた。


「ねえ、何で赤宮君が九杉の隣なの」

「俺と加茂さんがその場所を知ってるから」

「片方でいいじゃない」

「案内二人の方が確実だろ」

「確かにそうだけど……」


 現在、前を俺と加茂さん、後ろに秀人と神薙さんといったように、二人ずつ並ぶように歩いている。

 そして、神薙さんからはそれについて指摘された。しかし、その指摘は予測済みだったため、予め考えていた言い訳で言い(くる)める。


 後ろの空気が重いのは見なくても分かる。何故なら、会話が一切聞こえない。

 ここで秀人が神薙さんに話を切り出してくれれば楽なのだが、難しいのだろう。やはり、落ち着いた場所が必要だ。


 隣を歩く加茂さんが、俺に苦笑いを見せる。俺も同じ反応を彼女に返し、目的地まで歩みを進めた――。




 そうして着いたのは、駅の近くの小さな喫茶店。窓から中を覗くと、お客さんは少ない。


 中に入ると、店員に四人席まで案内される。俺と秀人、加茂さんと神薙さんで並んでそこに座ると、メニューを渡された。

 そのメニューに目を通して、しばらくしてから俺は皆に声をかける。


「飲み物は決まったか?」

「アイスコーヒー。あ、俺は砂糖要るから」

「……私もそいつと同じ」

『キャラメルラテ!

 冷、砂糖付き!』

「分かった。すみませーん――」


 店員を呼んで、俺達は飲み物を注文する。


 そして、店員が注文を受けて去った後、沈黙が流れた。

 その沈黙を断ち切るように、俺がまずは口を開く。


「ごめん、秀人。俺、やっぱりまだ腹痛いからもう一回トイレ行ってくる」

「え、おい、光太?」


 秀人は戸惑い、神薙さんは目をぱちくり。加茂さんは驚いた顔で俺を見ている。


「ごめん……いたた……(ちらっ)」

「…………(はっ)」


 俺は加茂さんに視線を一回送る。

 加茂さんが何かに気づいたことを確認し、俺は腹が痛い演技をしながらトイレに向かった。


「ふぅ」


 トイレに入り、鍵は閉めずにトイレ入口の手洗い場の鏡の前で一息吐く。


 それから、スマホをポケットから取り出してライナーを開く。そして、秀人に[さっさと謝れ]と送信した。

 秀人がスマホを見るかは分からないが、あの様子だと沈黙に耐えきれなくなるのも時間の問題だ。そうすれば、きっとスマホで時計を見る。


「……来たか」

「…………(ぶいっ)」


 少し遅れてから加茂さんもトイレに来て、俺にドヤ顔でピースする。良かった。俺の視線の意味を察してくれたらしい。

 不安はあった。あの場を抜け出す際の理由だ。でも、こうして加茂さんも抜け出してこれたので、第一段階はクリアと言ってもいいだろう。


 ライナーのトークを確認すると、秀人の既読が既に付いていた。


「後は二人次第だな」

「…………(こくっ)」


 俺は秀人を信じている。神薙さんも、加茂さんを置いて帰るような真似はしないと信じている。

 だから、こうして機会を設ければ、絶対に二人で話してくれる筈。


 狙い通りに動いてくれることを祈りつつ、既読がついてから10分を目安に、俺達はトイレで待つことにした――。

※トイレに居座るのは他のお客様の迷惑になるので、良い子の皆様は真似しないようにしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ