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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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加茂さんは譲らない

 秀人に加えて何故か神薙さんの班の人達と合流後、更に待つこと十分。遅れて神薙さん、西村さんとも合流し、俺達は清水寺へと足を踏み入れることとなった――。



「おー、ここがかの有名な言葉……何だっけ」

「清水の舞台から飛び降りる?」

「そうそれ!」

『景色きれい!』

「清水の舞台って想像してた十倍高いな!?」

「どういうの想像してたの?」

「え、よくある劇場の舞台ぐらい……」

「「想像低っ」」



「打ち解けてるなぁ」

「そうねぇ」


 俺と神薙さんは、後方から自分達の班員を眺めながら呑気に呟く。

 十二人というちょっとした大所帯で歩みを進め、"清水の舞台"と呼ばれる清水寺のメインスポットまでやってきていた。


「最初は誰だよとか思ったけど」

馬鹿(ひでと)のせいでごめんなさいね……」

「俺はそんなに心配してなかったけどな。俺らの班って人見知り居ないし」

「それにしたって、先にライナーで連絡するなりしろよ。びっくりしただろうが」

「連絡すればいいのね……」

「まあ、そこは加茂さん達にも確認してからになっただろうけど」


 事前に神薙さんの班の人達だということを知っていれば、混乱もしなかったと思う。


「ま、結果オーライってことで」

「「お前が言うな」」

「あだっ」


 混乱を引き起こした元凶の頭を二人ではたく。

 ……まあ、楽しそうな皆を見れば結果オーライというのには同意できる。秀人も言っていたが、やはりお互いの班に人見知りが居なかったのというのは大きい。打ち解けるのにもあまり時間は掛からなかったし。


「あの、お三方?」

「ん?」


 すると、西村さんが俺達を呼んだ。

 先程まで神薙さんにおぶられていた西村さんだったが、今は再び秀人の背に乗り換えていた。まあ、そもそも、何故坂を登ってくる時に神薙さんがおぶられていたのか俺は知らないが。


「何で屋根の下に居るの? 私達も皆の所行こうよ。太陽の光浴びようよ。吸血鬼じゃないんだから」

「「「…………」」」

「え、何で黙るのさ。吸血鬼だったの?」


 何も知らない純粋な彼女の疑問に対し、答えたのは秀人だった。


「鈴香、高所恐怖症なんだよ」

「そうなの?」

「……お恥ずかしながら」

「……あ、もしかして、だから?」


 俺達は揃って頷く。


「そっかぁ」


 屋根の下から出ない理由に西村さんは納得してくれたらしい。


「じゃあ、ほんの少しの短い時間だけでも」


 その上で、彼女は交渉をしかけてきた。


「一秒?」

「無理だよ! 一秒じゃ写真撮れないよ!」

「……じゃあ、嫌。柵に近づきたくない」


 しかし、結果は惨敗。神薙さんはよっぽど柵に近づきたくないらしい。

 彼女の高所恐怖症に関しては夏にプールに行った時にチラッと聞いた程度だったが、俺もここまでとは知らなかった。


「でも、私はともかく二人は平気でしょ。何でここに居るのよ」

「鈴香と居たいから」

「ゔっっっっっっっ」

「………………赤宮君は?」


 秀人のド直球をスルーして俺に訊ねてくる神薙さんの頰は仄かに赤みを帯びていた。気持ちは分かる。

 秀人の後ろから聞こえた断末魔? 恐らく空耳だろう。空耳じゃないなら、ここお寺だし、きっと悪魔的な何かが浄化されたのだと思う。


「俺は……まあ、景色ならここからでも見えるしいいかなぁと」

「あっそ。行きなさい」


 命令が下された。


「話聞いてたか?」

「聞いてたから言ってんのよ。私に要らない気を遣うぐらいなら九杉の近くに居てあげなさい。九杉ですら私を気遣わずに楽しんでるんだから」

「……意外だよな」


 加茂さんはこういう時、割と気を遣うタイプだと思う。しかも、かなり親しい間柄の神薙さんを、言葉は悪いが"放ったらかし"にするとは思わなかった。


「そうでもないわよ。そうしてくれた方が私も気楽になれるってこと、九杉はちゃんと分かってるから」

「成る程なぁ」


 親友だからこそ、ということか。


「でも、こうして一歩引いて見る加茂さんっていうのもなかなか新鮮で楽しいぞ」

「分かる」


 神薙さんは真顔で即答した。

 俺自身、別に今の状況に不満がある訳でもない。普通に観光を楽しんでいる。加茂さんも楽しそうだし、たまにはこういうのもいいかと思ってしまっている。


「でも皆で写真は撮りたいよー」


 しかし、いつの間にか蘇った西村さんは、どうしても写真が撮りたいようだった。


「じゃあ、こっちに皆呼んで写真撮ればよくね?」

「賛成!」

「光太頼んだ」

「呼ぶの俺かよ」

「班長だろ?」

「……忘れてた」

「おい」


 班長という役職の存在自体、完全に頭から抜け落ちていた。班長なら仕方ないか。


「おーい! 写真撮るからこっち来ーい!」

「――――(ぐるんっ)」

「っ!?」


 ――俺が呼びかけた瞬間、背を向けていた筈の加茂さんは俺の方を素早く振り向き、駆け出してくる。

 彼女の俊足によって俺との距離が埋まるのは一瞬で、声を出す間もなく、俺は彼女の行動に自分の体を反応させることだけで精一杯だった。


「…………(くるんっ)」


 目の前まで来た彼女は、再び俺に背を向けてきた。しかし、体の勢いは止まらない。


「っと」


 俺はそんな彼女を、肩を掴んで受け止める。

 勢いに押されて少しよろけてしまったものの、よかった。無事に受け止められたことに安堵の息を吐く。


 ……とはいえ、これは小言案件だろう。急な突進は流石に少し危ない。俺は肩を掴んだまま、彼女を見下ろす。


「…………(えへへ)」

「…………」


 俺を見上げて悪戯っ子のように愛らしい笑みを浮かべてくる彼女を、俺は無言で抱き締めた。衝動には勝てなかった。

「あれ、加茂さん……え、早っ!?」

「呼ばれてから一瞬だった……」

「この位置は誰にも譲らない!って感じだな」

「誰も取らないのにね」

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