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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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222/315

加茂さんは気になる

「じゃあ、また明日」

「…………(ふりふり)」


 放課後、加茂さんを家まで送り届けた俺は駅へと引き返す。

 前までは駅で別れていたのだが、最近は彼女を今日のように送り届けるようになった。理由はまあ、単に彼女と少しでも長く一緒に居たいからという理由だったりする。


「――、どうした?」


 後ろから腕を掴まれ振り返ると、加茂さんが俯き気味でそこに立っていた。

 表情もよく見えないので訊ねてみるが、彼女は動かない。


「加茂さん?」

「…………(はっ)」


 もう一度声をかけると、加茂さんは慌てた様子で俺の腕から手を離した。


「……まだ帰らない方がいい?」

「…………(ふるふる)」


 加茂さんは首を横に振る。そして、ボードにペンを走らせ、微笑みと共にそれをこちらに向けてくる。


『何でもない

 また明日』


 加茂さんの両頬をつまんだ。


「嘘吐くなら引っ張るぞ」


 半目で加茂さんを見つめながら軽く脅す。誤魔化そうとしているのが見え見えだったから。

 そもそも、引き止めておいて"何でもない"は無理があると思う。


「…………(さっ)」


 加茂さんは気まずそうに俺から目を逸らして黙秘を続けようとする。


 なので、俺は宣言通り頰を引っ張り始めた。


『いいます』


 彼女は五秒と待たずに音を上げたのだった。




『赤宮君が買いたい物

 って何ですか』


 その後、ようやく白状したかと思えば、加茂さんの用件というのは俺への質問だった。

 何故聞き渋ったのだろう。不思議に思ったが、それよりも先に加茂さんの質問にどう答えるべきかを考えなければ。


 買いたい物があるからバイトをする――朝に俺はそう話した。


 しかし、実際はそんなものない。"金欠にならないように"という裏事情を馬鹿正直に話すのも恥ずかしく感じて、適当に言ってしまっただけである。

 まあ、加茂さんの誕生日プレゼント代やクリスマスプレゼント代のためでもあるので、買いたい物があるというのも嘘ではない。ただ、プレゼントを渡す相手に言える理由でもない。


「…………(じー)」


 加茂さんは質問を書いたボードをこちらに向けたまま、じっと俺を見つめてくる。

 ……嘘吐くなって言った俺が嘘を吐くのは駄目だよなぁ。


「ごめん、嘘吐いてた。実は買いたい物とか特にないんだ」

「…………(ぱちくり)」


 白状すると、加茂さんは目を瞬かせ、ボードにペンを走らせる。


『じゃあ何でバイト?』

「……遊ぶ金のためです」

『お金ないの?』

「今はまだあるけど、バイトしなかったら減る一方というか、このままだと冬休みに遊びに行けなくなりそうというか……」


 我ながら情けない話である。本当に。


『毎月の

 おこづかいは?』

「高校入ってからは貰ってない」

「…………(えっ)」


 加茂さんは驚いた表情で固まる。

 前に秀人に話した時も似たような反応されたな。懐かしい。


「あ、俺が断ってるってだけで貰えない訳じゃないからな?」


 語弊を生みそうな言い方をしてしまったので、先に正しておく。

 お小遣いは俺が勝手に断っているだけだ。それに、通学のための電車代等は普通に出してもらっている。だから、現状に不満はない。


『いつもお金

 どうしてたの』


 そして、当然と言えば当然の質問をされた。


「お年玉と夏に従兄弟の所でバイトした分でどうにかしてた」

『すごいね

 足りなくならない?』

「加茂さんと出会う前は遊びに行くにしても、秀人とゲーセンとか行くぐらいだったからな。全然使ってなかったんだよ」


 とはいっても、秀人は俺と違って部活で忙しかったので、遊びに行く頻度はあまり高くなかった。

 ……それに、出会ったばかりの頃は秀人に無理矢理付き合わされるような形で行っていたから、金を出してもらったりもしてたっけ。


「……今度返すか」

「…………(こてん)」

「ああ、ごめん。こっちの話」


 図らずも、バイトをしなければならない理由が増えてしまった。

「加茂さんはお小遣い貰ってるのか?」

『お母さんから

 毎月もらってる』

「まあ、そりゃそうか」

『一万円』

「万!?」

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