表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
新しい友達、手探りの距離感

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/315

加茂さんは……

 体育祭が終わり、駅までの帰り道。俺は保健室に荷物を持ってきてくれた秀人と二人で帰っていた。

 山田も誘ったらしいが、先約があったそうだ。


「足、大丈夫なのかよ」

「湿布は貼ったし包帯巻いて圧迫もした。明日ゆっくり休めば治るだろ」


 秀人の心配に俺は淡々と返す。

 痛みは残っているが、俺はゆっくり歩ける程度までには回復した。そして、秀人は俺の歩くペースに合わせて歩いてくれている。

 

「騎馬戦、出れなくて悪かった」

「気にしてねーよ。勝ったしな」


 あの二人三脚の後、俺は騎馬戦にも出る予定だったのだ。

 秀人は気にしてないと言うが、多少なりとも迷惑をかけたと考えるとやっぱり申し訳ない。


「光太、体育祭は楽しかったか?」

「急に何だよ」

「いいからいいから」


 何故そんなことを聞くのか分からないまま、俺は今日の体育祭を振り返る。


 暑かった。そのせいで熱中症にはなるし、不幸にも貧血が重なった。

 二人三脚も、違う意味で熱くなりすぎた。捻挫はするし、擦り傷まみれになるしで散々だ。


「まあ……」

「まあ?」


 ――そんな散々な思い出ばかりの中、加茂さんの声を思い出す。


 総合してしまえばマイナス評価。でも、加茂さんの声が聞けたからプラマイゼロ。

 損得で言えば損ばかりなのに、それを全て許してしまえる力が、加茂さんの声にはあった。


「それなりに」

「ほー」

「だから何だよっ」


 秀人はニヤニヤと俺を見るので、俺はそれを無視して前を向く。


「去年は"面倒"とか"怠い"で終始一貫してたよなー」


 言われてみると、確かにそんな覚えがある。去年は体育祭が楽しいなんて一片も思わなかった。

 別に今回も楽しかったとは思っていないのだが、去年より充実感はあった。


「加茂さんのおかげか?」


 思わぬ人物の名前が秀人の口から飛び出し、ぎょっとする。


「図星か」

「……何のことだか」

「否定しないんだな」


 秀人に指摘され、俺は自分のミスに気づく。

 しかし、例え嘘でも、俺はそれを否定する気にはなれなかった。


「光太は加茂さんが好きなのか?」


 どうして秀人がそんなことを聞くのか……いや、深い意味はないな。きっと単なる好奇心だろう。

 とりあえず、俺は正直にその質問に答える。


「友達としては、好ましく思う」

「異性としては?」


 ――異性として。つまり、加茂さんを"一人の人間"としてではなく、"一人の女の子"として好きかという意味。

 秀人の問いに肯定はできない。でも、否定もまたできなかった。否定をしたら、"嫌いだ"と言っているように思えてしまったから。


「それは分からん」

「へえ」


 秀人は妙に含みのある相槌を返してくる。その上、生温かい視線付き。どうせ、俺のことをからかっているのだろう。


「ま、頑張れよ」

「何をだよ」

「それは自分で考えろ」

「何だそれ……」


 謎の励ましを貰った俺は首を傾げざるを得なかった。秀人はそんな俺を放って、満足そうに笑う。

 そうして、駅に着いてしまい、改札を抜ける。秀人が乗る電車は俺と反対方向のため、俺達はそこで別れた。


「本当に何だったんだ」


 秀人と別れた後、俺は駅のホームで独り言ちる。

 秀人は何かを察した風であったが、何を察していたのか俺には分からなかった。




 * * * *




「ふぅ」


 家に帰って、湿布を貼り直して、足に包帯も巻き直した。

 そして、今日の疲れを癒すためにも自室で安静にしていたが、どうも落ち着かない。


 そんな時、スマホが振動した。手に取って画面を見れば、ライナーのクラスグループに通知が一件。


「打ち上げか……」


 内容は[打ち上げやろう!]という簡素なものだった。

 その一言を皮切りに、[やろう!]とか[どこ行く?]とか、次々に会話が展開されていく。


 暇なのでその会話をぼーっと眺めていると、グループ通知ではない別の通知が入ってきた。

 そして、気になって個人通知を見れば、それは加茂さんからだった。


[今日はありがとう]


 礼を言われるようなことをした覚えがなく、返信に少し悩む。

 既読してしまったので、早めに返した方がいいだろう。そう思って、俺は当たり障りのない言葉で返信した。


[お疲れ]


 ……これはないだろ。せめてもう一言何か言わないと、冷たい奴だと思われてもおかしくない。

 しかし、それに続く良い言葉が何も思い浮かばない。返信してしまったので取り消しもできないし、既読も付いてしまっている。


 それでも真剣に他の言葉を考えていると、突然スマホから着信音が鳴り出した。


 画面を見れば、"加茂 九杉"と名前が表示されている。

 まさか電話が掛かってくると思っていなかった俺は、恐る恐る着信ボタンに触れる。そして、ゆっくり耳にスマホを近づけた。


「も、もしもし」

「…………」


 沈黙。

 ……冷静に考えたら、それも当たり前の話だった。加茂さん、そもそも喋らないよな。

 それなのに、どうして電話なんて掛けてきたのだろう。不思議に思いながら、俺はそっとスマホを耳から離す。


「あっ」

『…………(ふりふり)』


 スマホの画面には、こちらに手を振る加茂さんの姿が映っている。そう、ビデオ通話である。


「……見苦しいものをお見せしました」

「…………(ふるふる)」


 ひとまず、俺は加茂さんに謝罪した。

『私のスマホの画面を

 赤宮君の耳が埋めた!』

「本当にごめん」

『でも綺麗だったよ( ・ω・)b

 ちゃんと耳かきしてるんだね!』

「感想言うのやめろ?????」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ