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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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室伏と連絡先

 男二人がいなくなり、俺達の間に気まずい沈黙が流れる。

 ひとまず、俺は立ち上がった。室伏にいつまでも見下ろされるのも癪だったから。ボードを拾い上げて立ち上がり、膝やら背中やらの汚れを叩いて落とす。


 ――誰一人として口を開けずにいる中、この沈黙を最初に破ったのは日向だった。


「あの人達と、顔見知りなんですか?」


 いつの間にかフードを深く被ってサングラスをかけ直していた日向は、少し緊張したような上擦った声で室伏に訊ねる。

 そういえば、確かに。向こうは室伏と、顔も名前もはっきり知っているように見えた。


「うちの学校の奴らが迷惑かけて悪かった」


 彼女の質問に対し、室伏はバツの悪い表情になりながらも答える。

 そういうことか。同じ学校だというなら、顔見知りなのも納得できる。


「礼は言わないから」


 一度沈黙が破られたからだろうか。神薙さんも口を開いた。室伏を睨みつけながら。およそ助けてもらった相手に向ける目ではない。


「んなもん要らねえよ」


 神薙さんに敵視される理由を自覚しているからだろうか。室伏は臆することなく一言返す。

 ……でも、室伏が来なかったら、確実に三人の身を危険に晒していたのが現実だ。悔しいことに。


「あ――」


 俺の声を発する直前、手からホワイトボードが消える。


『助けてくれて

 ありがとう』


 気づけば、加茂さんが室伏にボードを向けていた。

 彼女のその行動は、俺も日向も、神薙さんでさえ予想していないものだった。


「何で、お前は」


 そして、それは室伏も例外ではなかった。


「…………」


 室伏の狼狽えるような声に、加茂さんは口を小さく開く。が、声は発さない……いや、発せないのだろう。

 それでも彼女は室伏を真っ直ぐに見つめて目を逸らさない。表情は若干強張っているものの、逃げ出すような素振りは一切見せない。


「……俺は、礼を言われる資格なんてねえんだよ。特に、お前だけには」


 そんな加茂さんの視線から逃げるように室伏は目を逸らし、弱々しい声で吐き捨てる。

 そのまま、彼女に視線を戻すことなく、神薙さんの方を見て口を開いた。


「なあ、ちょっと二人にしてくれねえか」

「絶対許さない」

「……勘違いすんな。こいつとだよ」


 室伏は加茂さんではなく、俺を指差す。


「赤宮君と?」

「時間は取らせねえ。すぐ終わる話だ」

「……神薙さん、俺は大丈夫だから。終わったら連絡する」

「……分かった。九杉、日向さん」


 俺が言うと、神薙さんは不安そうにこちらを見ながらも加茂さんと日向を呼ぶ。


「来い」


 室伏はそれだけ言って歩き出し、俺は三人を置いて室伏に続く。

 そして、三人から離れて、トイレの近くの自販機前までやって来ると室伏は立ち止まった。


「加茂のこと、頼んだよな」


 記憶に過ったのは花火大会の日、別れ際に室伏が言った言葉。


「俺に啖呵切った奴が何だあの体たらく。女一人守れねえのか、てめえは」

「…………」


 何も、言い返せなかった。


「おい」

「……?」


 室伏がスマホの画面をこちらに向けてくる。

 その画面に映っているのは、QRコード……ライナーの新規アドレス登録画面だった。


「さっさと登録しろ」

「え、嫌だ」

「お前な……」


 俺が即答すると、室伏は顔を引き攣らせる。

 明らかな苛立ちが伝わってくるが、こちらからすれば、応じる理由がない。先程の件については感謝しているが、俺はまだ室伏を信用した訳ではないのだ。


「加茂さんの連絡先は渡さねえぞ」

「………………要らねえよ」


 警戒心を引き上げる。


「分かりやすい間があったな?」

「黙れ。いいからさっさと登録しやがれ。住所送れねえだろうが」

「……住所?」


 詰めるように問いかければ、室伏はそう言った。住所って、どこの住所だ?

 そういう意味を込めた目で室伏を見るが、彼は"早くしろ"とでも言いたげな様子でスマホの画面をこちらに向け続ける。


 渋々、俺は室伏のアドレスを登録した。


「入れたぞ」

「…………」

「何だよ」

「……何でもねえ」


 そう言って、室伏は踵を返して歩き出した。


「おい、どこ行くんだよ」

「あ? 帰るに決まってんだろ」

「話は?」

「もう終わった」


 終わった? まだ何の話もされていないが。結局、話って何だったんだよ。


 疑問が頭に浮かぶ中、ライナーの通知が鳴る。

 そのライナーの送り主は室伏。送られてきた内容は、とある場所の住所。


[時間ある時に来い]


 その住所と共に、一言が添えられている。

 ライナーを読んで顔を上げれば、室伏は既に歩き出していて。


 遠ざかる背中を俺は追わず、室伏から送られてきた住所を暫く見つめていた――。

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