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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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再会

『到着!

 \(≧▽≦)/』


 土曜日、テスト明けに遊びに行こうと約束した四人でやって来たのは、屋内型のスポーツレジャーが楽しめるアミューズメント施設だった。


「ここ、久々に来たわね」

『そうだね!』

「来たことあるのか?」

「二人でたまに来てたけど、四人で来たのは初めてよ」

「…………(こくこく)」

「赤宮君は?」

「まあ、俺もあるけど」


 ここにはクラスの打ち上げと……秀人と二人だけでも来たことがある。


 去年、秀人に連れて来られた時はいきなり「勝負しろ」と言われたっけ。

 半ば無理矢理に連れて来られたこともあって、俺のやる気も始めはゼロだった。しかし、度々秀人に煽られ、ついムキになってしまい、結局秀人に乗せられて殆どのスポーツでガチ勝負をしたのは記憶に新しい。

 終わった後はお互いヘトヘトになってら駅まで歩くのも辛くて、翌日は筋肉痛にも苛まれて……本当に馬鹿みたいなことをしたと思う。でも、まあ、今となっては良い思い出だ。


 ――と、懐かしむのはここまでにして。


「本当によかったのか?」

「……何がです?」


 中に入る前に隣の日向に確認を取ると、彼女は首を傾げた。


「今日の場所のこと。ほら、前に運動苦手だって言ってただろ」


 今日のこの場所を提案したのは俺である。

 しかし、日向ははっきり自覚しているタイプの運動音痴であり、運動に苦手意識があることは聞いていた。だから、却下されることを前提に聞いてみたら――。


『いいですね、そこにしましょう』


 ――と、すんなりOKが出てしまったのだった。


「ああ、覚えててくれたんですね」

「言ってたの割と最近だろ」

「そうでしたっけ」

「そうだよ。で、無理してないよな?」

「してないですよ。今日は遊ぶだけなんですから」


 日向は俺の確認に対して呆気からんと答えた後、「まあ」と続ける。


「人目は、ちょっと不安ですけど」


 日向は言いながら、周りを見回していた。

 今日の彼女は服装こそ白いTシャツの上にピンクのパーカーといった明るめな格好だが、そのパーカーのフードを深く被り、黒いマスクを付け、今日は黒いサングラスまで掛けている。完全フル装備の不審者……隠密スタイルだった。


「運動する時はマスクだけでも外せよ」

「……はい」


 外したくない気持ちは理解している。しかし、運動中もマスクを付けていたら酸欠になる可能性がある。

 それは日向もよく分かっているようで、控えめな返事が聞こえた。


「今日、迷惑かけちゃったらすみません」


 それから、そんなことを言ってきた。


「そんなこと――」

「気にしなくていいわよ」


 俺が喋り出すより少しだけ早く、神薙さんが言った。


「変な奴寄って来たら私が全部追い払うから」


 涼しい顔で、言い切った。

 ……うん、流石と言うべきか。女子とは思えない頼もしさを感じる。俺が言ってもこうはならないと思う。悲しいことに。


「最悪、赤宮君を囮にすれば大丈夫でしょ」

「えっ」

「おい」

「冗談よ」


 神薙さんはそう言うが、目は本気だった。最悪、本当にそうする気のように見える。

 ……まあ、今日は俺だけが男だし、それぐらいする気概は持っているけども。面と向かって「囮にする」と言われるのも複雑だ。


『おとりなら私も』

「「絶対やめて(くれ)」」


 阿呆なことを言い出した加茂さんには、二人で釘を刺しておいた。




 * * * *




 受付は土曜日ということもあってそこそこ混んでいた。


「そういえば、加茂先輩の運動するところって今日初めて見ます。運動神経良いんでしたっけ」


 順番待ちで並んでいる最中に、日向がそんなことを言う。確かに、加茂さんが日向の前でそれを披露したことは一度もない。


『運動は大体得意!』


 加茂さんはボードにそう書いてこちらに向けつつ、その場で軽くぴょんぴょんと飛び跳ねる。運動できるアピールをしているようだ。

 子供みたいだという感想は心の中に留めておく。実際、加茂さんの運動神経は人並み外れているのも事実だから。


「驚く程度で済むかな」

「…………(ぴたっ)」

「え、どういう意味です?」


 俺の一言に加茂さんは動きを止め、日向は訊ねてくる。


「あまりの凄さに衝撃で腰抜かすかもしれないぞ」

「そんなに!?」

『急にハードル

 上げるのやめよ?

 普通だよ?』


 俺の加茂さん持ち上げを日向は間に受け、加茂さんは運動できるアピールをやめて俺に抗議文を向けてくる。

 でもな、加茂さん。ハードルどころか柵越え、というか垂直ブロック塀駆け上がりなんて芸当をやってのけてる時点で普通じゃないからな。言って調子に乗られたら困るから絶対言わないけどな。


「ねえ、気になったんだけど、九杉と赤宮君ってどっちの方が運動できるの?」


 神薙さんが訊ねてくる。


「俺……って言いたいけど、バスケは負けた」

『勝った』

「え、バスケで?」

「体格差考えたら赤宮先輩が有利じゃ……?」

「帰宅部に変な期待するな」

「九杉も帰宅部よ?」


 神薙さん、その言葉は俺によく効くのでやめて頂きたい。


「次の方ー、こちらどうぞー」

「……順番来たな」

「意外と早かったですね」


 メンタルにクリティカル攻撃を受けたところで受付の一つが空き、俺達はその空いた受付に向かった。




「……え」


 受付に居た人物を見て、俺は足を止めてしまった。


 向こうもまた、酷く驚いた表情で俺達を見ていた。


「……よお、久しぶりだな」


 それから、努めて落ち着いた声で言ってきた。


 そこに居たのは、花火大会の日に偶然遭遇した、加茂さんの中学のクラスメイト。金髪で、大柄で、耳にピアスを付けた柄の悪いチャラ男。

 加茂さんが喋らなくなった原因にも直接関わっている……いや、第一人者とも言えるかもしれない人物。


 ――室伏誠だった。

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