表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/315

加茂さんの夜更かし

 五時限目、昼食後の授業。それは一日で最も、睡魔との戦いが苛烈を極める時間帯。

 そんな睡魔に負けじと抗いはしても、殆ど意識を保てずにうとうとし始めてしまう人も珍しくない。


 それは加茂さんも例外ではなかった。


「…………(うつらうつら)」


 加茂さんは今にも瞼が閉じかけ、頭も沈みそうになっている。

 それでも板書を頑張って写しているようで、手に握られているシャーペンは動いていた。まあ、写すことだけ考えていて、理解する頭は停止してしまっているのだろうが。


「加茂、問13……」

「…………(うつら、うつら)」

「……赤宮」

「はい」


 先生に当てられた俺は、ノートを見ながら数式を口頭で答える。


「――――です」

「正解。じゃあ、このまま次の問を山田……また石村は寝てんのか」


 佐久間先生が呆れ顔で突っ込み、秀人の近辺の席の人達はくすくすと笑っている。


 山田の前の席を軽く覗いてみれば、秀人は教科書を持ったまま顔を机に伏していた。睡魔に完全敗北を喫していた。

 ただ、いつもなら両手を枕にして爆睡しているのだが、秀人にしては珍しく起きようとしていた努力が見られるような……いや、気のせいか。


「起こします?」

「いい、ほっとけ。山田はこれ答えろ」

「あ、はい」


 居眠りしている秀人を放置して、山田が答えていく。


 クラス担任である佐久間先生の数学の授業は、居眠りしている人は起こさず放っておくスタイルだ。

 先生曰く、居眠りして授業に置いていかれたなら自業自得。嫌なら洗濯バサミでも鼻に挟んで意地でも起きてろ、とのこと。


「…………(すやぁ)」


 そして、隣の彼女もついに、睡魔との戦いに負けてしまった。なんと穏やかな寝顔だろう。可愛い。

 ……寝顔を眺めていたい気持ちは堪えて、起こさなければ。板書写させないと、放課後の勉強時間削って俺のノートを写させることになってしまう。


「起きろ」

「…………(がばっ)」


 小声で声をかけながら加茂さんの肩を軽く揺すると、彼女は驚いたように顔を上げた。

 目を瞬かせて黒板を見つめた後、こちらに顔を向けてくる。それから、再びぱちぱちと瞬きをした。


『ありがと』


 ボードに文字を書いてこちらに向けてきた彼女は、少し恥ずかしそうに俺から目を逸らしていた。




 * * * *




「…………(ぐだぁ)」


 今日の授業が全て終わり、ようやく訪れた放課後。

 テスト勉強のために机を移動させね準備する俺をよそに、加茂さんは溶けたアイスのように机に突っ伏している。完全に力尽きていた。


「よし、やるか!」


 そして、今週はテスト一週間前なので部活動も休みとなり、秀人も俺達と共に教室に残っている。


「珍しくやる気あるのな。心変わりでもあったか?」

「いや、今回は勝ちたい相手がいるからな」

「毎回頑張れよ……」


 "今回は"って何だよ。というか、そもそも勝ちたい相手って誰だよ。まさか加茂さん……よりは前回の順位良かったよな。悔しいことに。


「なあ、勝ちたい相手って誰だよ」

「ああ、それは――お、来た」


 秀人の視線を追うように俺も廊下の方に目を向けると、神薙さんが引き攣った表情で秀人を見ていた。


「神薙さん?」

「……帰ってもいい?」

「色々何でだ」


 秀人が神薙さんに勝ちたいという理由も謎だし、神薙さんが帰ろうとする理由も謎だ。


「鈴香と約束したんだ。なー?」

「……そんなことより赤宮君、九杉どうしたの?」

「あれ? 鈴香?」


 神薙さんは秀人を無視して加茂さんのことを訊ねてくる。


「赤宮君」


 ……何の約束をしたのか気になるが、深くは聞かないでおくことにした。彼女の目が"聞くな"と言っていたから。

 あと、"聞いたら殴る"的な圧もひしひしと伝わってきたから。触らぬ神に祟りなし、だ。


「授業に疲れてるだけだよ。加茂さん、そろそろ始めるぞ」

「…………(うー)」


 加茂さんは寝惚け眼で起き上がると、教室に来たばかりの神薙さんに目を向ける。


「おはよう」

『おはよ』


 加茂さんは開き切っていない目のままボードに文字を書き、神薙さんに返答した。

 ……うーん、いつにも増して疲れているように見える。大丈夫だろうか。


「いつもより元気なくね?」

「九杉、調子悪いの?」

「…………(ふるふる)」


 二人の目にも俺と同じように映ったらしい。

 神薙さんが心配そうに声をかけると、加茂さんは首を横に振る。そして、ゆっくりとした手付きでボードに文字を書いた。


『へいき

 ねむいだけ』

「それならいいんだけど……」


 言いながら、神薙さんは俺に視線を向けてくる。

 言いたいことは分かる。いくら授業がつまらなくて眠かったとはいえど、加茂さんにしては眠気を引き摺り過ぎている。


「加茂さん、昨日何時に寝た?」

「…………(んー)」


 原因、多分これだろうな。

 そう思って問いかけてみると、加茂さんは少し考え込みながら手を動かす。


『おぼえてない』

「寝落ちしたのか?」

「…………(ふるふる)」


 加茂さんは首を横に振り、再び手を動かす。


『とけいみてない』


 成る程。


「夜更かしはしたと」

「…………(えへへ)」


 加茂さんは笑みを浮かべながら頬を掻く。否定をしないということは、俺の予想は当たっているらしい。


「何してたんだよ……」

『ちょっとね』


 半ば呆れながら訊ねてみると、加茂さんは何故か煮え切らない返事を返してくる。


「ゲーム?」

「本でも読んでたの?」

「…………(ふるふる)」


 秀人と神薙さんが言い当てようとするも、加茂さんは首を横に振り、ボードを抱えて俺達から見えないようにして文字を書き始める。

 どうしたのだろう。秀人も神薙さんも不思議そうにしながら、彼女が書き終えるのを待った。


 ――暫く待つと、彼女は照れたような笑みを浮かべながら、ボードをこちらに向けてきた。


『はずかしい から

 ちょっと言いにくい』


 ……………………ふむ。


「勉強、しましょうか」

「そうだな」

「やるかぁ」


 流石に、これ以上は聞けなかった。

加茂さん何してたんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 ( ˘ω˘ )スヤァ…この顔文字を使わなければと思った。 ぐでたま状態の加茂ちゃん。徹夜でお勉強(意味深)でもしてたのかしら。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ