加茂さんとバスケ
「…………(しゅばっ)」
「あ、このっ」
フェイントに釣られた俺が体勢を崩すと、加茂さんはその隙を突いてドリブルで抜き去る。
俺が後ろから追いかけるも間に合わず、加茂さんは軽やかな跳躍でレイアップシュートを決めた。
「…………(ふふーん)」
シュートが入って誇らしげに笑う加茂さんが可愛い。
――ここは彼女の家の近くの公園の一角。網無しのバスケットゴールがあるこの場所で、俺達は1on1をやっていた。
「へい、パス」
「…………(はい)」
加茂さんからのパスを受け取り、攻守を入れ替えてもう何回目かも分からない1on1が再び始まる。
後ろ手にゆっくりドリブルをしてゴールに近寄ると、当然、加茂さんが俺の行手を阻んできた。
さあ、次はどうしよう。
これまでの戦績は五分五分。始めこそ身体的に有利である俺の優勢だったが、加茂さんは持ち前の運動センスで徐々にその利を覆し始めてきている。
加えて、俺が彼女に体力負けしているということもある。彼女の動きについていけなくなり始めていて、ドリブルでの突破も段々と難しくなってきた。
……狙ってみるかっ。
「ほっ」
俺はドリブルで突破することなく、その場からのシュートを試みた。
「っ…………(ぴょんっ)」
そんな俺の動きに瞬時に反応した加茂さんが、シュートを阻むように目の前を跳んだ。
しかし、届かない。跳躍力は申し分ない加茂さんだが、彼女が俺の手元に手が届く頃には俺の手からボールは既に離れている。
――ガンッ。
「あ」
加茂さんの反応が速かったからか、無意識に手に力が入ってしまったのかもしれない。
俺が放ったボールはゴールリングの後ろにある板に当たり、弧を描いて跳ね返ってきた。加茂さんの後頭部を目掛けた軌道で。
「っ」
俺は咄嗟に片手で加茂さんの頭に手を伸ばし、抱き寄せた。
そして、空いた片手でボールを受け止め――そのボールは上手く掴めずに地面に落ちる。
「危なかった……」
ひとまず、セーフ。頭は守れた。
一息吐いた後、俺は彼女を見下ろす。
「…………(ぽかん)」
彼女は何故抱き寄せられているのか分からないようで、俺の胸元を見つめながら呆然としていた。
「……えっと、いきなりごめん。怪我ないか?」
「…………(はっ)、…………(むぅ)」
声をかけると、加茂さんは不満げに頬を膨らませる。
「…………(がばっ)」
「おわっ」
加茂さんは唐突に、俺の背中に手を回して抱きついてきた。
いまいち彼女が伝えてくる感情が分からないでいると、背中に指を当てられる。
その指がゆっくり動き始める。少しくすぐったい。
「……あ、加茂さん、ごめん。最初から書いて」
俺の背中をボードの代わりにして、指で文字を書いていることに遅れて気づいた。
俺が頼むと、彼女は何も言わずに背中から指を離し、別の位置から指を動かし始める。
――背中を伝う彼女の指の感触に集中すること、30秒。
「ファウル?」
「…………(こくり)」
背中でなぞられた文字を口に出して確認してみると、加茂さんは俺の胸元でもぞもぞと頷く。
「…………(ぽんぽん)」
今度は、俺の腕を弱く叩いてきた。
「…………(バツ!)」
そして、俺から離れて両手を胸の前に持ってきたかと思えば、指でバツを作って俺に見せてくる。
そこまでされて、俺はようやく加茂さんが言いたいことを理解できた。多分、バスケで相手に触れるのはファウル、反則だって言いたいんだ。
……うん、そうだな。言い訳はよそう。元は俺のミスだし、加茂さんは無事だし。
「じゃあ、今日は俺の反則負けってことで、そろそろ帰るぞ」
「…………(きょとん)」
「……何で帰るのって顔してるところ悪いけど、時間。加茂さんがバスケしたいって言ったから公園来ただけで、これって一応勉強の合間の息抜きだからな?」
「…………(はっ)、…………(すーっ)」
「目を逸らさない」
まるで思い出したくないものを思い出してしまったかのような反応だ。まあ、俺も勉強好きな訳じゃないから気持ちは分かるけど。
「…………(びしっ)」
「ん?」
加茂さんは人差し指一本立てる。
……ああ、そういうことか。小学生の頃によくあったやり取りを思い出す。少し懐かしい。
「…………(じー)」
「……分かったよ、ラスト一回な」
「…………(ぱぁぁぁ)」
「でも、帰ってから疲れたとか言うなよ」
「…………(うえー)」
「えー、じゃない」
加茂さんはコロコロと表情を変えて、分かりやすく一喜一憂する。
そんな彼女を見ていると、もう少し遊んでもいいかな……なんて甘やかしたくなる気持ちが出てくる。
だけど、あまり気を緩ませると彼女も俺も駄目になってしまいそうなので、口には出さなかった。





