席替えと班計画
10月8日、木曜日の六時間目。
今日は11月にある修学旅行の班行動の計画の前に席替えがあった。
『またよろしく!
\( ╹ω╹ )/』
「ああ、よろしく」
といっても、隣の席は変わらず喋らない彼女で、変わったのは場所と周りの環境。
――今回の席替えはくじ引きではなく、修学旅行班でそれぞれ固まるという方式のものだった。班の席場所のジャンケンで決めた後、位置は班内で決めた。
「赤宮が後ろの席だと安心感あるな」
「何だそれ」
俺の前の席の山田が変なことを言い始めると、更に前の席に決まった秀人がうんうんと頷きながら口を開く。
「授業寝てて急に当てられた時も、後ろが教えてくれるって思うと安心するよなぁ」
「…………(うんうん)」
「あー、それか」
「そこで納得するな。加茂さんも頷くな。今後一切教えねえぞ」
「そんなこと言いつつなんだかんだ小声で教えてくれるのが光太の良いとこなんだよ」
「…………(うんうん)」
「流石赤宮……」
「やめろそんな目で見るな」
仕方ないだろ。慌てて起きて「えっと……」ってなってるのが見てられないんだよ。本人のためにならないと思ってもつい教えちゃうんだよ。
「――加茂ちゃーん!」
席の移動が済んだ西村さんが加茂さんに飛びついた。
「…………(わわっ)」
「あー癒されるぅ」
横から勢いよく拘束されて驚く加茂さんに、西村さんはマーキングのように顔を擦り付け始める。
過度なスキンシップに加茂さんも心なしか困ったような笑みを浮かべているが、暫く助け舟は出さないでおこう。不真面目に加担した仕置きとして。
「詩穂、加茂ちゃん困ってるから」
「うあー」
しかし、俺が助け舟を出すまでもなく、西村さんは桜井さんに首根っこを引っ張られるようにして加茂さんから引き離される。
西村さんは緩い悲鳴をあげた後、俺の方を見ながら言った。
「やっぱり授業寝ちゃう加茂ちゃんは前にして、ついでに保護者の赤宮君も前にして、私が一番後ろに座るべきだと思うなぁ」
「「「「それはない」」」」
「どうしてそこは満場一致なのさ」
桜井さんは俺の斜め前、西村さんは彼女の前の席に決まっている。
西村さんが前の理由は……後ろにさせると俺達が落ち着かないのだ。主に俺と加茂さん、山田と桜井さんに向けられる視線のせいで。
そんな理由で、西村さんは強制的に一番前の席となっていた。
「加茂ちゃーん、皆が虐めるー」
「…………(あはは……)」
「あれ、愛想笑い?」
俺達の中では最も西村さんを甘やかしているであろう加茂さんも、今回ばかりは塩対応だった。
「席の話はこの辺にして、そろそろ修学旅行の話するぞ」
「「「「はーい」」」」
『OK』
席替え後は授業が終わるまで各班で話し合いの時間となっていた。
俺は以前に渡されていた京都の観光マップを机に広げ、その机を囲うようにして集まる。
「先週どういう話で終わったっけ」
「行きたい場所を各自で一個ずつ決めてくるって話だったよ」
「ああ、そうだったそうだった。それじゃあ、誰から言う?」
「はい! はい!」
「勢い凄えな」
「じゃあ、西村さんからで」
「地主神社!」
西村さんは元気よく、あまり聞き慣れない神社の名前を口にした。
「……どこだそれ」
「えっ」
「俺も聞いたことねえや」
「えっ」
『私も』
「えっ」
俺だけでなく、秀人も加茂さんも知らないらしい。
「まさか地主神社を知らない人がこんなに居るなんて……!?」
「そんな一般常識みたいに言われても」
「山田知ってる?」
「一応。清水寺の中にある神社だよな」
「そう!」
マップに目を向けると、確かに清水寺付近にそんな名前で神社が小さく書かれていた。
「まあ、俺も何の神社なのかまではよく知らないんだけど……」
「縁結びの神社だよ」
山田が説明に詰まったところで、桜井さんが補足を始める。
「聞いたことない? 石が二つあって、片方の石から目を瞑ってもう片方の石に辿り着けたら恋が成就するっていう話」
「あ、聞いたことある」
『テレビで見た!』
となると、そこまでマイナーな神社ということでもないのか。
「西村、彼氏欲しいの?」
「んー、それより、石の前でイチャついてるカップル未満を沢山拝みに行きたいなぁ……ぐへへ」
「よし、却下で」
「何でさ!」
「動機が不純過ぎる」
「バチ当たりそう」
「色恋なんて不純で当然!」
「おい」
開き直りながら多方面に喧嘩を売るな。
「とりあえずここは一旦保留にして、どんどん言ってこうぜ。次、赤宮」
「……あー、うん」
この流れで言いにくいなぁと思いながら、俺は候補地を口にした。
「清水寺」
「……まあ、京都といえば清水寺ってところあるよな」
『有名』
「ついでに地主行ってもよくない?」
「保留で」
次は秀人。
「金閣寺」
『金』
「テレビとかでよく見るけど実際に見てみたさあるよな」
「見た目のインパクトあるもんね」
次、桜井さん。
「伏見稲荷神社」
「どういう神社だったっけ」
『鳥居』
「ああ、千本鳥居か」
「めっちゃ写真映えしそうなスポット!」
次、山田。
「平等院鳳凰堂」
「有名どころだね」
『授業で覚えた』
「十円玉になってるやつ?」
「そうそう」
最後、加茂さん。
『ゆば
食べてみたい』
「まさかの食欲」
「そういや昼飯決めてなかったな」
「湯葉って高かったような……」
「安いところ探してみよっか」
「まあ、湯葉は後で探してみるとして……加茂さん、場所は?」
「…………(ここ)」
加茂さんが指差したのは、伏見稲荷大社だった。
「伏見稲荷が二票なら、ここは確定でいいか」
「そうだな」
「異論なーし!」
山田が頷き、西村さんも元気よく賛同する。
「んー……?」
しかし、秀人は顎に手を当てて何やら考え込んでいる様子だった。
「秀人?」
「これって、金閣寺抜けば他全部回れそうだよな……?」
秀人に言われて、栞の時間を確認してみる。そして、マップを確認して、移動の時間は……。
「あ、本当だ。多分行ける」
「なら、金閣寺やめてそうしようぜ」
「いいのか?」
秀人に訊ねる。
今の案だと秀人の希望だけが通らないことになるのである。それはいささか不公平なのではないだろうかと思った。
――しかし、それは杞憂だった。
「ごめん。一人一つ決めてくるって話だったから一応決めてきたけど、俺、ぶっちゃけると寺にそこまで興味ない」
「「「「ええ……」」」」





