神薙さんとの約束
月曜日の放課後。テストの二週間前の期間に入り、俺と加茂さん、今日は部活が休みの神薙さんを混じえた三人でのテスト勉強中。
俺は加茂さんから喋らない理由を聞いたことを、神薙さんに報告した。
「赤宮君、あの約束覚えてる?」
「……覚えてる。ごめん」
俺は神薙さんに約束していた。加茂さんが自分から話すまで待つと。
けれど、俺はその約束を破った。どんな理由であれどその事実は変わらないので、俺は彼女に平謝りするしかなかった。
『赤宮君は悪くないよ』
「加茂さん……」
すると、加茂さんが俺のことをフォローしてくれた。
彼女は俺と神薙さんが交わしていた約束は知らない筈なのだが、今の会話で話の内容を察したのだと思う。
そんな彼女のフォローの文字を見た神薙さんは、嘆息してから言った。
「別に怒ってないわよ」
「…………(きょとん)」
「……怒ってないのか?」
「赤宮君は九杉に無理矢理聞き出すなんてことしてないだろうし」
「…………(こくこくこくこく)」
神薙さんの確認に、俺が答える前に加茂さんが頭をぶんぶんと縦に動かす。
「それなら怒らない。というか、怒れないじゃないの」
「…………(ほっ)」
俺へのお咎めはなしということが分かると、加茂さんは自分のことのように安堵の表情を見せる。
そんな彼女の反応に俺も少し嬉しくなって、頰が緩んでしまう。
「まあ、甘ったるい空気出すのは少し自重してほしいけど」
「俺の口、そんなに臭うか?」
「…………(ばっ)」
「違うから。二人揃って鈍感発揮しないで。突っ込み追いつかない」
俺と加茂さんが口元を押さえれば、神薙さんは頭を抱える。
口臭の話ではなかったらしい。それじゃあ何の話なんだと首を傾げながら加茂さんに目を向けると、彼女も俺に目を向けつつ首を傾げている。
「……そういえば、日向さん最近見ないわね」
「…………(がたっ)」
「そ、そう、だな」
「え、何、二人ともどうしたの?」
いきなり神薙さんの口から日向の名前が出てきて、俺達はあからさまな反応をしてしまった。
「い、いや、神薙さんが急に日向のこと話し出したから」
「ああ、あの子が今の貴方達見たらどうなるか気になって……それで? どうしたの」
「何でもない」
「目泳ぎすぎでしょ」
人生、時には逃げることも大切だと思う。
ということで、俺は口を閉じて神薙さんから目を逸らした。これ以上は答えませんと、態度で示してみた。
「九杉」
「…………(びくっ)」
すると、神薙さんは加茂さんにターゲットを変更した。俺からはこれ以上聞き出せないと判断したらしい。
加茂さんは少し慌てた様子でボードにペンを走らせ、机の真ん中に勢いよく置く。
『明日話す予定だから』
「……そうなのか?」
思わず突っ込んでしまった。その話、俺も聞いてないんだけど。
「…………(えーっと)」
加茂さんを見ると、俺の視線に気がついた彼女は目を泳がせ……あー、これ、勢いで言ったな。
「えーっと、九杉? そこまで急がなくてもいいんじゃない……?」
神薙さんは自分が急かしてしまったと思ったのか、加茂さんに言う。
彼女の言う通りだ。俺達が付き合い始めたという報告を急ぐ必要はない――普通なら。
「いや、明日話そう」
「…………(ぱちくり)」
俺がそう言うと、加茂さんは驚いたように目を瞬かせる。
神薙さんは俺の言い方が引っ掛かったのか、訊ねてきた。
「日向さんと何かあったの?」
「……まあ、そんなところ」
俺は言葉を濁して、深く説明はしなかった。
もし話すとすれば、日向が俺に好意を向けてくれていたこと、俺が彼女を振ったということを話すことになる。
勿論、神薙さんは他人に吹聴するようなことをしないのは分かっている。でも、なんとなく、これを話してしまうのは駄目な気がしたから。
「加茂さん、いいか?」
「…………(こくり)」
確認を取れば、加茂さんは頷く。
「じゃあ、この話は終わりにして勉強の続きやろう」
「…………(おー)」
加茂さんは拳を突き上げた後、シャーペンを持って机に向かい始める。
神薙さんは怪訝そうに俺達を見たものの、すぐに机に向かい始めてそれ以上は何も聞いてこなかった。





