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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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加茂さんの訪問

 翌日、14時を過ぎた頃、加茂さんは俺の家に来た。


『おじゃまします

 (๑>▽<๑ )』

「いらっしゃい。俺の部屋は二階だから、先に行っててくれ」


 加茂さんを家に上げてから、俺は玄関の鍵を閉める。

 それから後を追おうと振り返ると、彼女は階段の手前で立ち止まってボードを俺に向けていた。


『お母さんは?』

「……居るけど」


 答えると、加茂さんは階段を上らず居間に向かって歩き始め……え、おい、ちょっと待て。

 俺は彼女を止めようと慌てて追いかける。しかし、追いついた時には彼女は居間の扉を開いてしまっていた。


「あら、いらっしゃい」

「…………(ぺこり)」


 テレビを観ていた母さんが加茂さんに気づくと、加茂さんは軽く頭を下げる。

 そして、ボードに文字を書いて母さんに向けた。


「え?」


 母さんは驚いたような声を漏らす。

 加茂さんが何を書いたのか気になった俺は、彼女の横からボードを覗き込んでみる。


『赤宮君と

 お付き合いしてます』

「……加茂さん?」


 そこに書かれていたのは交際報告だった。

 こういうのって結構勇気要るものじゃないのか。心の準備とかするものじゃないのか。それとも、既にしてきたのか?


「…………(ちらっ)」


 加茂さんは俺の方に一瞬目を向けたが、すぐに母さんに視線を戻す。


「光太、本当なの?」

「う、うん」


 母さんの確認に、俺は頷く。

 まあ、いつかは報告することだったからな。その報告が少し早まっただけだ。


「認められない」


 ――その言葉を聞くまでは、そう楽観的に考えていた。


「は? 何でだよ」

「友達ならいいけど、付き合うのは認められない」

「だから何でだよ!」


 理由を問うと、母さんは俺の問いかけには答えずに加茂さんの方を向く。


「九杉さん」

「…………(ぴしっ)」


 名前を呼ばれた加茂さんは、強張った表情のまま姿勢をピンと正す。


「もしも光太が目の前で事故に遭ったら、貴方はどうする?」


 母さんの質問の意図が分からない。それは加茂さんも同じようで、彼女の表情からは戸惑いが窺える。

 そんな彼女の反応に母さんはため息を吐いた後、言った。


「光太に何かあった時もそうやって喋らないままなの?」

「おい」

「何? 大切なことじゃない」

「加茂さんは喋らないって話は前にしただろ」

「喋らないだけで、喋れないんじゃないでしょ?」

「っ……そういう問題じゃ――」


 俺の言葉を遮るように、腕を掴まれ引っ張られた。

 振り向くと、加茂さんはこちらを見て首を横に振り、笑みを浮かべている。まるで"大丈夫"とでも言うように。


 その笑みが、俺には無理をしているようにしか見えなくて――。


「加茂さん、行こう」

「…………(えっ)」


 ――加茂さんの手を引いた。


「話、まだ終わってないけど」

「必要ない」


 俺は加茂さんを連れて居間から出て、そのまま階段で二階に上がる。


「……はぁ」


 そして、自分の部屋の前まで来て一息吐いた。

 ……逃げ出す形になってしまったが、あのまま話を続けていたら母さんが何を言い出すか分からなかった。今の俺の判断は間違っていないと思いたい。


「…………(ぐいぐい)」

「あ、ごめん」


 加茂さんに引っ張られて、手を握ったままだったことに気がつく。

 すぐに離すと、加茂さんはボードに文字を書いてこちらに向けてきた。


『しゃべれれば

 認めてもらえるんだよね』

「え?」

「…………(じー)」

「……た、多分」


 母さんは交際を認めない理由について、"加茂さんが喋らないから"ということ以外には触れていない。

 だから、加茂さんが普通に喋るのなら認めてくれるんだとは思う。多分。


 すると、"ふんすっ!"と決意に満ち満ちた表情で、加茂さんはボードを俺に向けてきた。


『がんばる』

「……母さんが言ったことなんて気にしなくていいんだぞ」

「…………(ふるふる)」


 母さんの言っていたことを気にしているのかと思っていうと、加茂さんは首を横に振る。


『認めてほしいから

 がんばりたい』


 喋っても、喋らなくても、俺が加茂さんを好きな気持ちは変わらない。加茂さんが俺を好いてくれる気持ちも変わらないだろう。

 だから、母さんが認めなかろうが、関係ない。俺達の関係は俺達が決めればいい。俺はそう思っている。


「……分かった」


 でも、彼女自身が頑張りたいという意思を持っているのなら、俺がその意思を否定するのも違うと思ったから。


「じゃあ、俺も手伝う」


 俺が支える。


「…………(ぱちくり)」

「……まあ、手伝えることがあればの話だけどな」

「…………(ふるふる)」


 言葉を付け足すと、加茂さんは首を横に振った。


『ありがとう

 うれしい』


 そして、ボードをこちらに向けながら彼女は笑う。俺の頰も、釣られて緩んだ。


 ぽかぽかした気持ちになって、俺は彼女の頭に手を置く。

 そのまま頭をぽんぽんすると、彼女は照れたように軽く俯きながらも顔をふやけさせた――。

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