加茂さんと朝の一コマ
俺と加茂さんが交際関係となった翌日。教室に来ると、彼女は既に隣の席に座っていた。
「おはよう」
『おはよう
(๑╹▽╹๑ )』
俺の方から声をかけると、俺に気づいた加茂さんもボードを使って返してくれる。いつもと変わらないやり取り。
……なのだが、顔を合わせただけで面映い気持ちになってしまう。
「…………(すーっ)」
加茂さんも俺と同じなのか、ボードを上にスライドさせて顔を隠してしまう。
そんな彼女にかけるべき言葉が、何も思いつかなくて。結局、いつまでもここで突っ立っているのも落ち着かくなり、俺は自席に鞄を置いた。
そして、前の席に座る秀人が、俺達を見ながらニヤニヤしていることに気づく。
「何だよ」
「いやー、微笑ましいなぁと」
「うるさいわ」
――俺と加茂さんが付き合い始めたことは、昨日のお月見メンバーにはバレている。告白した場所が庭だったこともあり、皆に見られていたのだ。
……加茂さんとリビングに戻った時に「おめでとう」と言われた時は、気恥ずかしいの何の。加茂さん母に生暖かい目で見られたり、あの神薙さんから普通に祝福されたり。嬉しい気持ち以上に非常に居た堪れない気持ちになった。
「そういや光太は昼飯どうすんだ?」
「昼飯?」
「今日から加茂さんと食うのかって話だよ」
「……あ」
そういえば、その辺りのことは何も考えてなかったな。
でも、これは俺の一存で決めることではない。ということで、俺は加茂さんに意見を求めようと目を向けた。
『どうする?』
「……どうしよう」
彼女は既にボードに文字を書いてこちらに向けていた。会話を聞いていたらしい。
加茂さんに聞こうとしたら逆に聞かれてしまったので、少し考えてみる。
……本当に、どうするべきなんだろう。恋人同士になったのだから、二人の時間を増やすべきなのか。
「光太はどうしたいんだよ」
考え込んでいると、秀人が横から口を出してくる。
……俺がどうしたいのか、か。
俺の本音としては、一緒に食べたい。でも、教室で一緒に食べたりしたら、あらぬ噂が立ちそうなのがな……実際付き合ってるからあらぬ噂ではないけれど。彼女との関係が、不必要に広まるのは嫌だなという気持ちはある。
「んー……」
「光太」
「ん?」
「考えすぎだっつの。加茂さんのボード見ろ」
いつの間にか、加茂さんが持つボードの文字は書き変わっていた。
『一緒に食べたい
でも二人きりで食べるのは
ちょっとはずかしい』
加茂さんははにかみながらボードをこちらに向けている。彼女も、俺と似たような気持ちだったらしい。
「俺も目立ちたくはない」
『だよね』
俺の答えが分かっていたのか、加茂さんは苦笑しながらボードをこちらに向けてくる。
しかし、そこに書かれていた言葉は、俺の言葉の意味を全部読み取っていないように感じて。俺ははっきりとした言葉で言い直した。
「俺は加茂さんと食べたい。昼休みも一緒に過ごせたらいいなって思ってる」
「…………(きょとん)」
俺の言葉に加茂さんは目を丸くする。
――数秒後、彼女は頰は赤く染めて恥ずかしそうに顔を俯かせた。
……なんだか、こっちまで恥ずかしくなってきた。割と思い切った本音を言った自覚はある。だから、尚更。
ぱたぱたと熱を冷ますように自分の顔を仰ぎ始めると、秀人が呆れの含んだ視線を向けてきていることに気づく。
「何だよ」
「イチャつくのはいいけど自制しろよ?」
「……イチャついてない」
「この程度まだ序の口って意味か」
「違う」
即行で否定をすると、秀人は「イチャついてんのは前からか」と変な納得をした後、諦めたようにため息を吐いたのだった。





