何気ないこと
赤宮君と詩音ちゃんが教室を出ていってから、私は一人、教室で反省文を書いていた。
……残念ながら、手は全然進んでいないんだけど。
反省文って、どうやってまとめればいいんだろう。初めて書くからよく分からない。
最初に"すみませんでした"って書いてはみたけど、ここからどうやって文を続かせればいいのかな。
こうして原稿用紙に文を書くのは、その時々で考えて言葉にする会話とは違う。最初から最後まで、自分の言葉だけで綺麗にまとめないといけない。
それが私にとっては難しくて、億劫にも感じてしまっている。もしも今日中に書き終わらなかったら、先生、土下座で許してくれないかな……。
頭を悩ませていると、ぐぅ、と、お腹の音が鳴る。
時計を見てみると、11時を過ぎている。もうすぐお昼ご飯の時間帯……考えたらお腹空いてきた。
「進んだか?」
――不意に耳に入ってきた彼の声に、私は驚いた。
だって、ここに居る筈がない。二人が教室を出たのは、ついさっきのことだから。
でも、彼は居た。教室に入ってきた彼は、私を見て苦笑いを浮かべている。
その事実が信じられなくて、自分の目を擦ってからもう一度彼を見たけど、確かに居る。幻覚でもない。
それから、あることに気づいた。
『詩音ちゃんは?』
赤宮君は居る。でも、詩音ちゃんが居ない。
「急用ができたんだと」
言いながら、赤宮君は私の反省文を上から覗き込んできた。
「……なあ、さっきより文字減った?」
赤宮君の顔が近づいて、私の鼓動も少しだけ速くなる。
私はそれを表に出さないように努めながら、文字で答えた。
『考えてたら
分からなくなって』
「思いついた反省の言葉、片っ端から並べていけばいいだろ。後は適当に」
『それで書けたら苦労しない
あとテキトーはどうかと』
「加茂さんって妙なところで真面目だよな」
私の言葉に、赤宮君はまた苦笑いを浮かべた。
そんな彼に、私はずっと気になっていた疑問を投げかけてみた。
『何で戻ってきたの?』
「反省文、ちゃんと終わらせられるのか心配だったから。戻ってきたら案の定だったし」
……赤宮君も、心配してくれてたんだ。
「手伝ってやるから、さっさと終わらせるぞ」
「…………(こくり)」
多分、私だからとかは関係ない。赤宮君にとっては当たり前で、何気ないこと。
――そんな彼の優しさに、私は嬉しくなってしまって。
「……何で手で顔挟んでるんだ?」
にやけそうになる顔を戻すのに、ちょっと時間がかかってしまった。