表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/314

何気ないこと

 赤宮君と詩音ちゃんが教室を出ていってから、私は一人、教室で反省文を書いていた。

 ……残念ながら、手は全然進んでいないんだけど。


 反省文って、どうやってまとめればいいんだろう。初めて書くからよく分からない。

 最初に"すみませんでした"って書いてはみたけど、ここからどうやって文を続かせればいいのかな。


 こうして原稿用紙に文を書くのは、その時々で考えて言葉にする会話とは違う。最初から最後まで、自分の言葉だけで綺麗にまとめないといけない。

 それが私にとっては難しくて、億劫にも感じてしまっている。もしも今日中に書き終わらなかったら、先生、土下座で許してくれないかな……。


 頭を悩ませていると、ぐぅ、と、お腹の音が鳴る。

 時計を見てみると、11時を過ぎている。もうすぐお昼ご飯の時間帯……考えたらお腹空いてきた。


「進んだか?」


 ――不意に耳に入ってきた彼の声に、私は驚いた。

 だって、ここに居る筈がない。二人が教室を出たのは、ついさっきのことだから。


 でも、彼は居た。教室に入ってきた彼は、私を見て苦笑いを浮かべている。

 その事実が信じられなくて、自分の目を擦ってからもう一度彼を見たけど、確かに居る。幻覚でもない。


 それから、あることに気づいた。


『詩音ちゃんは?』


 赤宮君は居る。でも、詩音ちゃんが居ない。


「急用ができたんだと」


 言いながら、赤宮君は私の反省文を上から覗き込んできた。


「……なあ、さっきより文字減った?」


 赤宮君の顔が近づいて、私の鼓動も少しだけ速くなる。

 私はそれを表に出さないように努めながら、文字で答えた。


『考えてたら

 分からなくなって』

「思いついた反省の言葉、片っ端から並べていけばいいだろ。後は適当に」

『それで書けたら苦労しない

 あとテキトーはどうかと』

「加茂さんって妙なところで真面目だよな」


 私の言葉に、赤宮君はまた苦笑いを浮かべた。

 そんな彼に、私はずっと気になっていた疑問を投げかけてみた。


『何で戻ってきたの?』

「反省文、ちゃんと終わらせられるのか心配だったから。戻ってきたら案の定だったし」


 ……赤宮君も、心配してくれてたんだ。


「手伝ってやるから、さっさと終わらせるぞ」

「…………(こくり)」


 多分、私だからとかは関係ない。赤宮君にとっては当たり前で、何気ないこと。

 ――そんな彼の優しさに、私は嬉しくなってしまって。


「……何で手で顔挟んでるんだ?」


 にやけそうになる顔を戻すのに、ちょっと時間がかかってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] すみませんでした、かわいい。 私が先生だったら「ええんやで」しちゃいそうです。 光太くんは困ってる子を放っておけない。 それが加茂ちゃんなら尚更って、はっきりわかんだね。 頬の緩む加…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ