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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

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加茂さんは戻りたい

 悩みも解決して、私は軽い足取りで帰り道を歩いていた。


 これで赤宮君にこれ以上心配かけなくて済む。


 もう、彼といつもみたいに話せる。


 ……?


「…………(ぴたっ)」


 何かが変。違和感に気づいた私は、その場で足を止める。


 今日、"赤宮君のことを私はどう思っているのか"っていう悩みは解決できた。

 じゃあ、私が赤宮君の顔をまともに見れなくなったのは? 最初は、彼のことを考えすぎてる自分が恥ずかしくなったからだった。


 ……あれ。

 もしかして、私が赤宮君のこと、まともに見れなくなったのって、私が……。


「――っ!?」


 両手で口元を押さえる。うっかり喋りかけたからとか、そんな理由じゃない。


 ――時間をかけて冷ました筈の熱が、再び顔に集まっていくのが分かったから。


 そして、気づいてしまった。

 赤宮君と会話ができなくなった件については、何も解決していなかったことに。




 * * * *




 翌日になって、私は朝早くに学校に来た。

 そして、席に座って、予めボードに文字を書いた上で彼を待っていた。


「加茂さん、おはよう」

「…………(ぶぉんっ)」

「うおっ!?」


 そして、声をかけられた瞬間、私は彼――赤宮君に勢いよくボードを向けた。


『おはよう!』

「……お、おう。今日、元気だな?」


 困惑気味の赤宮君は、ボードを一瞥した後、私と目が合った。


「…………(すーっ)」


 私は彼に向けたボードをゆっくり上にスライドして、自分の顔を隠す。


 ――やっぱり無理!


 彼が来るまで、心の準備を何回も何十回も繰り返した。ボードにも、予め文字を書いておいた。

 後は、彼と話すだけ。ちゃんと目を見て、まずは心配かけてしまったことを謝るだけ。


 たったそれだけのことも、今の私にとっては、ハードルが雲の上にあるぐらい、高く感じた。




 ……でも。


 私は、それ以上に。


 朝は"おはよう"って、赤宮君と言い合いたい。


 帰りは一緒に駅まで帰って、"また明日"もしたい。


 好きっていう気持ちを伝える勇気は、まだないけど。


 せめて、普段から他愛もない話をするような関係に。


 "親友"だって信じて疑わなかった、以前の関係に。


 戻りたい。




 私は、軽く息を吸って、吐いて。ボードを下げて、顔を隠すのをやめた。


 ――赤宮君は、目の前から居なくなっていた。


 えっ。


「…………(ばっ)」


 私は後ろを振り向くと、彼は既に自分の席に荷物を置いて座っていた。


 ……そんなことある?


「…………(こんこん)」

「ん? どうした……えっ」


 私が赤宮君の机を軽く叩いて音を出すと、彼はこっちを向いて――固まった。


「…………(むー)」

「か、加茂さん?」


 多分、私の顔から不満が駄々漏れだったんだと思う。自覚はあった。

 私はそんな不満を、文字にしてぶつけた。


『会話の途中で急に

 いなくならないでよ』

「途中だったのか?」

『途中だったよ!?』


 どこが会話の終わりだったというのか。「今日、元気だな」に対しての返答してなかったのに。

 私が頰を膨らませていると、赤宮君は「ごめん」と言った後、続けて言った。


「ごめん。ボードで顔隠したから、今日はもう話さない方がいいのかと思って」

「…………(あっ)」


 会話を先に切ったの、私だった。


「あと、昨日も朝のおはようだけだったから、今日もそれだけかと……」

「…………(うっ)」


 赤宮君がそう思うのも仕方ない。というより、そう思ってしまうのは当たり前だった。

 もしも私が逆の立場になったら、私だってそう考える。


 ……これ、悪いの私では。


『ごめんなさい

 (´・人・`)』

「いやいやいや。頭下げなくていいから」


 私は謝罪文と共に深く頭を下げようとしたら、赤宮君に止められてしまった。


「それより、話って何だ?」

「…………(え?)」

「話、続けたかったんだろ? だから、何か話したいことでもあるのかと思ったんだけど。違うのか?」


 赤宮君って本当に凄いと思う。

 私、まだ何も言ってないのに。まるで、私の心を読んでいるみたいだ。


 ……ちょっと待って。もしも心読まれてたら、私の気持ち、全部筒抜けなのでは。


 …………。


『心読まないでね!?』

「……何の話だか知らないけど、とりあえず、合ってたのか?」


 あ、うん。


「…………(こくり)」


 私は頷いた。


「分かった」


 赤宮君は一言言って、私のホワイトボードを見つめてくる。


 私は気を取り直して、ボードに文字を書いて赤宮君に向けた。


『赤宮君に

 話があります』

「急に改まったな」


 そこは気にしないでほしい。


 私は赤宮君の言葉に返答はせずに、本題に入った。


『明日から

 また一緒に

 帰りたいです』

「……考え事はもういいのか?」

「…………(こくっ)」

「……そっか」


 私が頷くと、赤宮君はどこか安堵するような優しい笑みを浮かべた。


 ……赤宮君、私のこと、そんなに心配してくれてたんだ。不謹慎かもしれないけど、嬉しい。

 でも、やっぱり罪悪感も少しある。私はボードに文字を書いて彼に向ける。


『ごめんね

 心配かけちゃって』

「え? ああ、別にいいから。それよりさ、聞きたいことあるんだけど」

「…………(こてん)」


 私は小首を傾げる。


 聞きたいことって何だろう。もしかして、考え事の内容とか?

 もしそうだったら、どうしよう。流石に言えないよ。これ言ったら、告白するのと同じなんだから。


「何で明日から?」


 ……そっちかぁ。

 どうしよう。その理由も、赤宮君にだけは絶対に言えない。理由は、殆ど同じだから。


 私は迷った末に、短い文をボードに書いて彼に向ける。


『今日はムリ』

「……用事か?」

「…………(こくこく)」


 私は頷いてから、もう一言だけボードに文字を書いて彼に向ける。


『大事な用事』


 ――私には、今日、会わなきゃいけない人がいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず日向ちゃんのかっこよさ度が上がった。 [一言] 対峙楽しみ。
[一言] 週一更新、できるよう頑張ってください。ただ余り無理をして体を壊さないように気をつけてください。Twitterで更新ペースが遅くなると言うツイートを見た時は二週間ぐらいは覚悟したので全然待てま…
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