表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/314

加茂さんと神薙さん

 昼休み、いつものように三人で昼食を取る。

 俺は弁当を食べながら、今朝のことを思い出していた。申し訳なさそうにする加茂さんの表情が、脳裏から離れない。


 俺が一人で悶々としていると、秀人が口を開く。


「お前ら先週より悪化してるよな?」

「……そう見えるか」


 加茂さんとは朝に会話したのが最後で、他の休み時間は一切話せていない。

 視線すら合わず……そもそも加茂さんがこちらを向いてくれない。顔を俯かせてばかりで、顔を合わせるタイミングすら掴めない。


「加茂さんと何かあった?」

「……友達になった」

「良いことじゃん。それで?」

「踏み込みすぎた」

「距離感は測れよ」

「だよなぁ」


 流石は秀人だ。伊達に一年友達やってない。今の簡潔な説明で何があったのか把握してくれたらしい。


 ……遅いとは思うが、俺も後悔している。友達になれて、少し浮かれていたのかもしれない。

 加茂さんは朝のことを気にしてるに違いない。だから、彼女は俺を見てくれないんだ。


「何の話? 赤宮と加茂さん、何かあったの?」

「ちょっとな」

「光太が100%悪いんだけどな」

「それなら拗れる前に謝っといた方がいいぜ?」

「分かってる」


 もう拗れてしまっているかもしれない。それでも、放課後に話しかけて謝ろう、そう決めている。

 今回、加茂さんは何も悪くない。俺が悪い。だからこそ、俺から動かなければならないのだ。


「……頑張ってみるか」

「おう、頑張れ」

「朗報期待してるよ」


 二人の応援を受けた俺は、放課後に向けて心の準備を開始した。




 ――そして、放課後。俺は真っ先に、隣の席の加茂さんに話しかける。


「加茂さんっ」

「…………(びくっ)」


 加茂さんは片付ける手を止めて、驚いた様子で俺を見る。くりくりとした瞳をぱちぱちと瞬かせ、困惑の色が見られる。

 そんな彼女に、俺は直球の言葉をぶつけた。


「朝はごめんっ」

「…………(ぽかん)」


 俺の言葉に対し、加茂さんは半開きの口のまま呆然としている。

 ……反応がなかなか返ってこない。少し不安になった俺は、加茂さんの顔の前で手を振る。


「加茂さーん」

「…………(はっ)」


 ようやく動き出した加茂さんは、慌ててボードに文字を書く。


『私もごめんね』

「……加茂さんは謝らないでくれると助かる。俺のデリカシーがなかった自覚はあるんだ。できれば、朝の話は忘れてほしい」

「…………(こくん)」


 加茂さんはゆっくりと頷く。


「……手、止めさせてごめん。それだけだ」


 それだけ伝えて、俺は帰り支度を始める。しかし、すぐに肩をトントンと叩かれ、俺は横を向いた。


『今日も一緒に

 帰ってくれますか』

「……おう」

「――待ちなさい!」


 今朝感じた刺すような視線と共に、背後から声が聞こえて俺は振り向く。

 しかし、そこに居たのは面識のない人物だった。ストレートの長い黒髪に茶色い眼鏡、切れ目の鋭い眼光が俺を睨みつけている。


「どちら様で?」

「九杉、こいつと話させてもらってもいい?」


 いきなりこいつ呼ばわりか。初対面の癖に失礼極まりないな。


 ……それはともかく、彼女は加茂さんの知り合いらしい。

 そういえば、前に一度、昼休みに教室に来て加茂さんとお昼を食べていたような。ということは、彼女が例の加茂さんの友達か?


 俺は加茂さんの方に目を向け、様子を窺う。彼女はボードを使って、例のお友達に問いかけていた。


『鈴香ちゃん、部活は?』

「今日は顧問が急遽午後から出張で休みになったのよ」


 加茂さんの友達……ひとまず鈴香ちゃんでいいか。鈴香ちゃんは、背中にリュックとは別で細長いケースを背負っている。

 何の部活かは分からないが、運動系の部活であることは間違いないだろう。


「……で、赤宮光太、面貸しなさい。拒否権ないから」

「ヤンキーかよ」


 見た目は委員長なのに、強引で口が悪い。ギャップはあるが、全然萌えないタイプだ。

 あと、どうして俺の名前を知ってるのか……多分、加茂さんから聞いたのだろう。まあ、それはいい。

 俺は先に一つだけ、どうしても知りたいことがあった。


「まずは名乗ってくれ。話はそれからだ」

「……信用できない男に名乗る名前はないわ」

「鈴香ちゃんって呼んでやろうか」

「やめて」


 鈴香ちゃんは自分の体を抱くように腕を前に回し、軽蔑するような視線を俺に送りながら一歩後退る。


 俺は別にMではないので、そんな目で見られてもゾクゾクはしない。

 それより、普通に傷つくから、その目はできればやめて頂きたい……思っただけで、口には出せなかった。


「……神薙(かんなぎ)鈴香(すずか)

「神薙さんか、分かった」


 渋々、心底嫌そうな顔でようやく名乗ってくれた。その態度には釈然としないが、それも今は目を瞑ろう。


「わっすれものーっと……ん? んん?」


 その時、忘れ物を取りに来たであろう秀人が教室に戻ってくる。

 そして、俺達の方を一瞬見たかと思えば、彼はこちらを――神薙さんを二度見した後、スタスタと近寄ってきた。


「やっぱりそうだ……! 鈴香だよな!?」

「人違いよ」

「鈴香だな!」

「人の話聞けっ」


 二人は顔見知りらしい。

 話についていけない俺と加茂さんは顔を見合わせ、示し合わせるように頷く。そうして、俺達は静かに二人のやり取りを見守ることにした――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ