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加茂さんは喋れる?

初レビューを頂きました!

ミミマルさん、ありがとうございます!(´ω`)


今日から始まる【加茂さんは喋らない:友達編】、どうぞよろしくお願いします!

 加茂さんと友達になったあの日から、土日を挟んで翌週を迎える。

 気怠さが残る、多くの人が苦手とする月曜日。俺もこの曜日は少し苦手だ。


 俺は眠い目を擦りながら学校に登校する。教室に入ると、加茂さんはいつものように席に着いて本を読んでいた。


「おはよう」

『おはよう!』


 俺が声をかけると、加茂さんは本を閉じてボードをこちらに向ける。このやり取りも、すっかり恒例となっていた。


 そして、俺は先週に言い忘れたことを加茂さんに伝える。


「今更だけど、これからは軽率に男を部屋に入れない方がいいぞ」

『本当に今更だね』

「休み中は連絡取れなかったからな」

「…………(はっ)」


 加茂さんは素早くボードに文字を書くと、横にスマホを添えながら俺に見せてきた。


『ライナー交換する?』


 "ライナー"というのは、いつでもどこでも繋がれる国内トップシェアのコミュニケーションアプリである。

 電話番号やメアド交換よりも手軽なので、今時はこのアプリで連絡を取り合う人の方が圧倒的に多い。


「ああ、そうだな」


 友達同士なら連絡先交換も普通のことだろう。

 加茂さんがスマホを触り始めたので、俺も鞄から自分のスマホを取り出した。




 ライナーを交換し終えると、新しい友達欄に"加茂 九杉"と表示される。

 俺と同じく本名をそのまま設定しているようだ。分かりやすいのでありがたい。


 ……で、どうしよう。これって何か送った方がいいのか?

 加茂さんを見ると、彼女は素早い指使いでスマホに何か打ち込んでいた。


 ――スマホが震える。

 画面の上にはライナーのメッセージ通知が届いていて、それを押すとライナーアプリが開く。


[よろしくね!d(゜ω゜)]


 スマホの画面から顔を上げると、加茂さんは微笑んでいる。

 そして、そわそわもしているような気がする。まさか、返信待ちなのか。


 俺はひとまず"よろしく"と打ち込んで、送信ボタンに触れる前に一考する。

 特におかしなことは打っていないが、これは冷たすぎる気がした。素っ気ないというか、なんというか。


 返信する前に加茂さんの文を見返す。

 俺と違って、彼女は(感嘆符)や顔文字を言葉の後ろに付けている。同じ一言ではあるが、こちらの方が印象も柔らかく感じた。


 だから、俺もそれを真似て[よろしく!d(゜ω゜)]と打ち込んでみる。

 ……顔文字をパクるのは駄目か。コピペしたって誤解されそうだ。俺は顔文字を別のものに変えて送信した。


[よろしく!d(`・ω・´)]

「ぷはっ」


 その返信を見た加茂さんは吹き出した。


「くっ……ふふっ……ぷふふっ……」


 そして、口元を押さえて笑いを堪えようとしているが、全然堪えられていなかった。ツボに入ったらしい。

 そこまで笑われる筋合いはないが、そんなことより、だ。


 ――加茂さんの声を初めて聞いた。

 彼女自身、喋れなかった訳ではないということは知っている。

 しかし、今までどんなことがあっても一言だって声を発しなかったあの加茂さんが、今、目の前でくつくつと笑っている。驚くなと言われる方が無理だった。


「か、加茂さん、声」

「…………(ぴたっ)」


 加茂さんは笑うのをピタリと止めて、真顔になる。

 そして、ブリキの人形の如く、ギギギという擬音が付きそうな動作で首を動かし俺を見る。


「…………(すっ)」


 加茂さんは、そっと口元を押さえ直した。

 俺達はお互い声を出さずに見つめ合うが、この沈黙が辛い。


 声も触れていい話題なのか分からない。

 しかし、俺達は前の関係とは違う。クラスメイトから友達に昇格したのだ。それなら、少しは触れてみてもいいのではないだろうか。


「お、俺の返信、そこまで変だった?」


 謎の緊張により、声が上ずる。


「…………(こくん)」


 加茂さんは固い表情のまま頷く。俺は一歩踏み込んだ。


「声、結構普通だな」

「…………(びくっ)」


 加茂さんの体が一瞬震えるが、それだけだ。返事もなければ拒絶もない。

 この際、どこまで踏み込んでセーフなのか確かめてみよう。そう思った俺は、もう一歩踏み込んで訊ねてみた。


「加茂さんが喋らない理由って……――っ!」


 刺すような視線を背中に感じ、俺は反射的に振り向く。しかし、廊下は登校してきた人達が歩いているだけで、俺を見ているような人は誰もいない。


 ……そもそも、俺には他人の視線に気づけるような超人的な能力など備わっちゃいなかった。

 だから、背筋がゾッとしたのも気のせいだろう。現に誰もいなかったんだ。


「…………(つんつん)」

「ああ、加茂さん、何でもな……い……」


 加茂さんに背中をつつかれて、彼女に向き直る。そして、ボードに書かれた文字を見た俺は、再び言葉を失った。


『ごめんね』


 謝罪の言葉――それは明確な拒絶の意思を表していた。どうやら、ここが引き際のようだ。


「いや、俺もごめん。聞かなかったことにしてくれ」


 丁度その時、朝のチャイムが鳴った。

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