胸に秘めた想い
観覧車の順番が回ってくると、加茂先輩は私の後ろに回り込む。
「…………(ぐいぐい)」
「か、加茂先輩?」
そして、何故か私の背中を押し始めた。
「加茂さん押すな」
「…………(ぐいぐい)」
「分かった、乗る、すぐ乗るから」
どうやら赤宮先輩も一緒に押されているらしい。そんなに楽しみだったのかな、観覧車。
私達は少し困惑しながらも、二人でゴンドラに乗り込んだ。
――それから、後ろを振り返って驚いた。
「「えっ」」
加茂先輩は、何故かゴンドラの入り口一歩手前で足を止めていた。
私達は慌てて手を伸ばそうとした。でも、少し遅くて、ゴンドラの扉が自動で閉じられてしまう。
扉の向こうに居る加茂先輩は、柔らかい笑みを浮かべながらこちらに手を振っていた。まるで、私達を見送るかのように。
「加茂さん!?」
「加茂先輩!?」
思わず叫んでしまったけど、加茂先輩はそんな私達を気にすることなく踵を返してしまう。
それから、加茂先輩は観覧車のスタッフさんにボードで何かを伝えた後、観覧車から離れるように歩いて行ってしまった。
「どこ行く気だよっ」
そう言って、赤宮先輩はスマホを取り出して、電話を掛け始める。
そうだ、その手があった。赤宮先輩が電話を掛けているから、私はライナーのメールの方で加茂先輩に連絡を取ろうと試みた。
――でも、文を幾つか送ってみても、既読は付かなかった。
「既読付きませんっ」
「電話にも出ねえ……何でだよ……」
段々と遠くなっていく加茂先輩の背中を見つめながら呟く赤宮先輩は、少しだけ怒っているように見える。
観覧車、言い出したのって加茂先輩だよね……?
てっきり凄い乗りたくて楽しみにしてるように見えてたんだけど……違かったのかな。でも、だとしたら何で……?
「………………あっ」
「ん? どうした?」
加茂先輩がゴンドラに一人乗らなかった理由。私と赤宮先輩の背中を押した理由。そもそも、観覧車に乗りたいと言い出した訳、それらの理由で思い当たることが一つだけ頭の中に浮かんだ。
もし本当にそれが理由なら、加茂先輩の一連の行動の全てが綺麗に繋がる。繋がってしまう。
……でも、もしそうなら、それこそ何で? そんなことして、加茂先輩に何の得があるの? そこだけが分からない。
「日向?」
赤宮先輩は不思議そうな表情で私を見つめてくる。
私は赤宮先輩の目をまともに見れずに、反射的に顔を俯かせてしまう。
――するなら、今、私と赤宮先輩以外誰も居ないこの場所でするしかない。そう言い切ってもいい。それぐらいの絶好の機会。
これを逃したら、もう、今日中に言える機会は来ないかもしれない。
「…………すぅ……はぁ……」
深呼吸。
……理由は分からないけど、加茂先輩、協力ありがとうございます。
この機会、遠慮なく使わせてもらいます。
「赤宮先輩」
私は被っていたフードを取って、もう一度顔を上げた――。
▼ ▼ ▼ ▼
掛かってきた電話やメールの通知がスマホの画面に表示されている。
私はその通知から目を背けるように、スマホを切った。
……詩音ちゃんを応援するつもりで二人きりにしたけど、余計なお世話だったかな。
二人が乗った水色のゴンドラを見上げる。でも、ゴンドラの窓は夕焼けの光が反射して中が見えない。
詩音ちゃんが赤宮君のことを好きだと知って、私は頭が真っ白になった。
それから、聞かれた。私が赤宮君のことを、一人の異性として好きかどうか。
私はその質問にすぐ答えることができなくて……結局、その質問に答えられないまま、詩音ちゃんが別の話を始めてしまった。
私は赤宮君のことを好きなのか、そうじゃないのか。
ずっと考えて、自分自身にも何度も問いかけてみた。でも、答えなんて出なかった。だから、多分、それが答えなんだと思う。
詩音ちゃんの好きとは意味が違う。友達としての……親友としての好き止まり。私の好きは、その程度の好きなんだ。
……そう、答えを出したのに。自分でも納得してる筈なのに。
胸がチクチクして、苦しい。まるで、胸の奥底にある何かに答えを否定されてるような、そんな感覚。
――知らない。
私は、それ以外の答えなんて知らない。
知らなければ、怖いこともない。辛いこともない。だから、知らないままでいい。
その言葉を、頭の中で何度も反芻する。
楽しい今が、壊れてしまわないように。





