一方的な宣戦布告
「先輩にとって、赤宮先輩は特別ですか?」
――"特別"。その言葉を、私は頭の中で反芻する。
……分からない。分からなくて、私はさっきの詩音ちゃんの言葉を思い返す。
詩音ちゃんの言葉は、目から鱗が落ちるものだった。
私は今まで、親友は赤宮君だけだと思ってた。でも、親友が大切な友達って意味なら、その大切な友達は赤宮君だけじゃない。そう、はっきり言える。
「私にとって、赤宮先輩は特別です」
私が返答する前に、詩音ちゃんは喋り始めてしまった。
「家族や友達以上に、今の私にとって赤宮先輩は特別な人です。勿論、加茂先輩よりも」
そうはっきり言われると、ちょっと寂しいなぁ……。
「あ、あの、へこまないでほしいんですけどっ。別に加茂先輩が嫌いって訳じゃないですからっ。むしろ好きですっ」
……顔に出ちゃってたみたい。詩音ちゃんは慌てて弁解してきた。
「って、違うっ。そこじゃなくて……加茂先輩、まだ分かりませんか?」
「…………(?)」
「先輩達って結構鈍感ですねっ……!?」
私は素直に首を傾げると、詩音ちゃんは少し疲れたように言う。
鈴香ちゃんにもたまに言われるけど、私ってそんなに鈍感? そこまで酷くはないと思うんだけどなぁ……。
少し反論しようか考えていると、詩音ちゃんは小さくため息を吐く。
――そして、私に問いかけてきた。
「先輩は赤宮先輩のこと、好きですか」
………………へ? 好き? like?
……likeだね、うん。
いきなりの質問にビックリしちゃったけど、私はすぐに"好きだよ"って文字をボードに書き始めた。
「私は好きです」
でも、私が"好"の文字を書き切る前に、詩音ちゃんはそう言った。
私は文字を書く手を止めて詩音ちゃんを見る。
詩音ちゃんは笑ったり照れたりすることもなく、真剣な表情だった。
「私は、赤宮先輩が好きです。一人の異性として」
それから、はっきりと宣言した。
私は今までの詩音ちゃんの言葉を、ここで初めて、ちゃんと理解することができた。
――だから、頭が真っ白になった。
そんな私をよそに、詩音ちゃんはボードの書きかけの文字に目を向ける。
「先輩の好きは、どっちの意味ですか?」
そんな言葉を私に投げかけながら、詩音ちゃんはまた私に視線を戻す。
私は答えられなかった。
自分でも答えが分からなくて、手が動かなかった。
▼ ▼ ▼ ▼
「すみません、いきなりこんな話して」
加茂先輩はペンを持って、自分のボードを見つめている。けれど、その手は完全に止まっていた。
そんな先輩を待たずに、私は話を続ける。
「たとえ先輩が赤宮先輩を好きだとしても、私は引くつもりありませんけど。一応、確認しておきたくて」
私は覚悟していた。
この話をしたことで、加茂先輩が自覚してしまう可能性を。
私は自覚していた。
これが自分の首を絞めている行為であることを。
加茂先輩にこの話題を切り出した理由は、ただの私のエゴに過ぎない。
そして、もしも勘違いじゃないのなら、打ち明けておくべきだと思った。
打ち明けないと、卑怯だと思った。
「私、今日、告白しようと思ってます」
私の覚悟を。