神薙さんと思い出の眼鏡ケース
――9月10日、木曜日。
手首の痛みもかなり引いたらしい加茂さんとの会話は、いつものボードを使ったものに戻っていた。
そして、帰りのSHRが終わり、放課後。
加茂さんから聞いた話では、神薙さんの部活は今日は休みらしい。だから、俺は加茂さんといつものように二人で下駄箱まで向かい、そこで彼女と合流することになった。
「早いな」
「…………(ふりふり)」
下駄箱まで来ると神薙さんは既に居て、俺達を待っていた。
「今日は先生の話短かったのよ」
「そっか。じゃあ、いきなりだけど神薙さん」
「何?」
俺は鞄から包みを一つ取り出し、神薙さんに手渡す。
「誕生日おめでとう」
驚いた様子で目を瞬かせる彼女は、俺にとあることを訊ねてきた。
「私、赤宮君に誕生日教えてた?」
「秀人に聞いた」
「……そういうことね」
俺が正直に答えると、神薙さんは何かを察したらしい。深いため息を吐いた。恐らく、ここには居ない誰かさんに向けて。
『何あげたの?』
「ああ、それはな……神薙さん、開けていいぞ」
「そうさせてもらうわね…………えっ」
神薙さんは包みから俺の選んだプレゼント――眼鏡ケースを見て、固まった。
『眼鏡ケースだ!』
「ああ、神薙さん眼鏡だし、よく使ってるだろ?」
そして、俺は前に一度、神薙さんの眼鏡ケースを見たことがあった。
それはかなり使い古されていて、寿命も近いように見受けられた。だから、文化祭でこれを見かけた時、ピンと来たのだ。
「あ、ありがと、赤宮君」
――しかし、そんな俺のプレゼントは、神薙さんにとってはいまいちだったのだろうか。
微妙な表情でその眼鏡ケースを見つめていた。
「もしかして、なんか駄目だったか……?」
「え? あ、違う違うっ。プレゼントは凄い嬉しかった、けど……」
「けど?」
神薙さんは鞄から、使い古された桃色の眼鏡ケースを取り出した。
「この眼鏡ケースが使えなくなるまでは、私、これしか使わないって決めてるから」
その眼鏡ケースを見た加茂さんが、ボードを書き始める。そして、神薙さんに向けた。
『まだこわれて
なかったんだ』
「九杉が初めてくれた誕生日プレゼントだもの。簡単には壊さないわよ」
そう言って、神薙さんは加茂さんに柔らかい笑みを浮かべる。
それから、俺を見た彼女は申し訳なさそうに言ってきた。
「そういうことだから、折角貰ったプレゼントだけどごめんなさい。これが使えなくなったら使わせてもらうわね」
「そんなことなら気にすんな。すぐに使ってほしいって願望もないし」
「ありがと」
どうやら、神薙さんはすぐには使えないことを気にしていたらしい。気に入らない訳ではなかったようなので、俺は心の中で安堵した。
それに、物を大切に使うのは良いことだ。それが思い出の品だというなら尚更。
今の話が聞けて良かったと思いながら、俺は二人に言った。
「じゃ、帰るか」
「そうね」
『\(๑╹ω╹๑ )/』
笑って返事を返してくる二人と共に、俺は下駄箱で靴を履いて外に出た――。
加茂さんが教室に忘れ物をして取りに戻ることになったので、彼女を待っている間の二人の会話の一部をお送りします。
「加茂さんからも誕生日プレゼント、もう貰ったのか?」
「朝にね」
「因みに、何だったんだ?」
「ぬいぐるみ」
「ぬいぐるみ?」
「ええ、大きな……今年は兎のぬいぐるみね。毎年起き抜けに届けに来るのよ」
「……起き抜け?」
「そう、起き抜け。それで玄関開けたら私と身長同じぐらいの大きさのぬいぐるみの顔が目の前に……」
「ホラーかよ」
「もう慣れたわ」





