表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/315

弁当

「ボード持ってない加茂さんって新鮮だなー」


 昼休みになり、弁当箱の包みを解いていると、秀人がそんなことを言う。


「ねー。手首の話はちょっとびっくりしたけど」

「朝来た時には包帯ぐるぐる巻きだったもんな」


 そう言って、桜井さんと山田は苦笑しながら加茂さんの包帯を見る。


 ――今日の昼食は修学旅行班の面々で取ることになった。

 いつもは神薙さんと食べている筈の加茂さんだが、神薙さんは文化祭実行委員の仕事で忙しいらしい。だから、一緒に食べられないのだとか。


「…………(うぐぐ)」


 そんな彼女は現在、お弁当箱の包みに苦しめられていたりする。


「加茂さん、解いてやるから貸せ」

「…………(ぱちくり)、…………(ぺこり)」


 自分の弁当箱の包みを解き終わったところで加茂さんに言うと、彼女は軽く頭を下げてから俺に弁当箱を包みごと渡してくる。

 ……手首のこともあるし、明日からは結びを少し緩めるべきだろうか。

 

「そういえば、加茂ちゃんって箸持つのは平気なの? 手首、痛くなったりしない?」

「…………(こくこく)」


 桜井さんが加茂さんに訊ねると、彼女は頷く。

 昼食を取る分には支障はないらしい。それが分かって桜井さんは安堵するように息を吐く。俺も内心、ほっとした。


「よし、私があーんをしてしんぜよう!」


 ――のも束の間、西村さんがそんなことを言い出す。


「おーい西村ー? 話聞いてたかー?」

「聞いてたとも! ってことで、赤宮君弁当箱プリーズ!」

「お、おう」


 秀人の突っ込みを華麗に受け流す西村さんの勢いに気圧され、俺は加茂さんの弁当箱を彼女に渡してしまう。

 すると、そのタイミングで皆のスマホの通知音が一斉に鳴る。


[自分で食べれるよ!]


 既に作っていた修学旅行用のライナーのグループに、加茂さんから送られてきた抗議文。


 加茂さんを見ると、西村さんに両手のひらを上に向け、指をクイクイッと動かしている。恐らく、弁当を返してほしいのだろう。

 そこで、見かねた桜井さんも口を開いた。


「詩穂、加茂ちゃん困らせないの」

「違うよー。少しでも加茂ちゃんの負担を減らす配慮だよー」

「本音は?」

「一回やってみたかった」

「普通逆だろ……」

「え?」


 あっさり自白した西村さんに思わず突っ込む。

 すると、西村さんは一瞬面食らった表情で俺を見た後、笑って言った。


「無理無理。やる側ならともかくやられる側とか恥ずかしいって」

「そういうもんか?」

「そういうもんだよ。桃もそう思うよね?」

「え? ……私はどっちも恥ずかしいけど……一回くらいやってみたいかも」


 西村さんが桜井さんに話を振ると、彼女は山田の方をチラリと見る。


「いきなり惚気んな」

「痛っ……いや俺悪くなくね!?」


 秀人の理不尽など突きが山田を襲うが、俺は敢えてそれをスルーして西村さんに言う。


「で、その恥ずかしいことを加茂さんにやらせようとしている、と」

「バレたか」

「バレるわ」


 むしろ何故バレないと思った。

 おどける西村さんに呆れていると、彼女は「まあ」の後に加茂さんに一度視線を送ってから言う。


「配慮っていうのも本当だよ。少しでも手を休ませてあげれば、少しでも早く治るかなって」


 一応、加茂さんのことを思ってのことであるのは確からしい。

 ……まあ、決めるのは加茂さんだ。彼女が嫌がるのなら俺は止めるし、そうでなければ俺はどうもしない。


 どうする、という意を込めた視線を加茂さんに送ると、丁度よく彼女と目が合った。


「…………(うー)」


 少し悩んでいる様子の加茂さんは、少し間が空いた後にスマホに何やら打ち込み始める。

 それから暫くして、再びライナーが送られてきた。


[いいよ]

「やたっ」


 ガッツポーズをする西村さんを見て、加茂さんは苦笑している。

 加茂さんって善意に弱いよな。悪いところではないけど、丸め込まれやすい気がする。


「加茂ちゃん何食べるー?」

「…………(それ)」


 西村さんは弁当の蓋を開けて加茂さんに訊ねると、彼女は弁当のおかずの一つを指差す。

 ずっと見てるのもあれなので、俺も自分の弁当の蓋を開けて食べ始めることにした。


「はい、加茂ちゃん」

「…………(あ、あーん)」


 西村さんに差し出された玉子焼きに、加茂さんは少し恥ずかしそうに、控えめに口を開けて齧り付く。

 ……こうして見ると、なんだか微笑ましい。女子同士のやり取りだからなのだろうか。不思議だ。


「赤宮君って凄いよね」


 一人で勝手に和んでいると、桜井さんに小声で話しかけられる。


「何が?」

「加茂ちゃんから前に聞いたんだけど、お弁当、自分で作ってるんでしょ? しかも加茂ちゃんの分も。大変って思うことない?」


 桜井さんに訊ねられて、俺は一考してみる――が、特にこれといって大変と思うことはなかった。


「あんまり」

「……因みに、朝って何時起き?」

「6時過ぎ」

「朝練なしでその時間かぁ」


 答えると、桜井さんは独り言のように呟く。俺は要領を得ない彼女の言葉に首を傾げる。

 そして、彼女は更に質問してきた。


「もう一ついい?」

「ああ」

「お弁当作るのっていつもどれくらい時間かかってる?」

「……大体30分ぐらいだな」


 基本的には前日の夕食の残りとか、卵焼きとか、切って焼くだけのウインナーとか、簡単なものが多い。だから、20分以内に作り終わる時だってある。


「あ、ごめんねっ、質問攻めしちゃって」

「別にいいけど……桜井さん、弁当作りたいのか?」


 桜井さんに訊ねると、彼女は山田の方をチラリと目を向ける。見られた当人は話を聞いていなかったのか、何の話か分かっていない様子で目を瞬かせる。

 ……成る程。ようやく話が見えてきた。同時に、尽くすタイプなんだなと、驚き半分、感心半分な感想を口に出しかけ、寸でのところで踏み留まる。


 それから、一つアドバイスしておくことにした。


「最初は前日の残り物とか、冷食詰めるだけでもいいと思う。それも(れっき)とした弁当だから。んで、作るのに慣れてきたら何品か自分でも作ってみるとかな。卵焼きとか簡単でいいぞ」

「あ、ありがとっ。頑張ってみるっ」


 桜井さんは意気込むように胸の前で拳を作る。

 愛されてるなぁなんて思いながら、俺は水筒のお茶を飲んで一息吐く。


「…………」

「ちょ、痛い痛いっ、え、何っ、何!?」


 秀人に無言でど突かれ続ける山田のことは、暫く放っておくことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] どもです('ω')ノ 石村くん、自分がイチャつけていないからって妬みはよくないよ(ˇωˇ) 加茂さんの性格につけ込むとは……やりおる。まぁ加茂さんはかわいがられがちだから仕方ないね(?) …
[良い点] 加茂ちゃん大人気ですなぁ。 光太くんがあーんしていたらどうなっていたのか 小一時間考察したい( ╹ω╹ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ