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加茂さんへのご褒美

 ちょっとしたトラブルはあったものの、文化祭は無事に閉幕した。


 ……まあ、全てが無事ではないのだが。

 特に掃除用具のロッカーだ。教室の電気を点けて見たら酷い有様だった。ロッカーの形状が凹凸に歪みまくっていたのである。

 佐久間先生が「何をどうしたらこんなになるんだよ……」と頭を抱えていたのは、見ていて気の毒に思った。


 教室の片付け、取り壊し作業は来週の月曜日に学校全体でやることになっているので、今日は軽く教室を掃除するだけである。




 それも終わり、俺と加茂さんはいつものように帰途につく。

 秀人は部活で、神薙さんも文化祭実行委員の集まりの後、部活があるらしい。だから、今日は加茂さんと二人だった。


『楽しかったね!』

「そうだな」


 未だに文化祭の高揚感が抜け切っていないのだろう。加茂さんはニコニコしながらボードをこちらに向けてくる。


 そんな彼女と目が合い――ロッカーの中での事が俺の頭の中でフラッシュバックされた。


「っ……」


 俺はすぐに視線を前に戻した。

 恥ずかしいことに、俺は加茂さんとまともに目を合わせていられなかったのだ。


 ……切り替えないとな。

 加茂さんは俺を一人の()()()()()見てくれているんだ。なら、俺だけが変に意識するわけにはいかない。


「ふー……」


 俺は軽く息を吐く。そして、もう一度隣を歩く加茂さんに目を向けた。




 加茂さんは既にこちらを向いておらず、正面をボーッとした顔つきで歩いている。

 そして、その横顔から見える頰は、ほんのり赤みを帯びていた。




 これは、どっちだ。

 あの時のことを思い出してしまっているのか、ただ文化祭が楽しかったという感慨に(ふけ)っているのか。

 ……多分、後者だろうな。なんとなく、そう思った。


「なあ」

「…………(びくっ)」


 俺の言葉に加茂さんは体を跳ねらせると、バッとこちらに顔を向けてくる。


「「…………」」


 俺達はお互いに無言で目を逸らした。


 ……目を合わせて話す必要もないか。


「加茂さん」


 俺は前を向いたまま、加茂さんに話しかける。

 彼女の反応はない。そもそも、分からない。俺が彼女を見ていないから。


 ――俺は思い切って訊ねた。


「何か欲しいものあるか?」


 そう訊ねると、キュッキュッとボードにペンを走らせる音が隣から聞こえ出す。

 暫くして、加茂さんは俺の前に回り込んでボードを俺に向けてきた。


『誕生日プレゼント

 なら自分で考えなさい!

 \\\٩(๑`^´๑)۶////』


 加茂さんはご立腹だった。


「誕生日関係ないから」

「…………(ぱちくり)」


 勘違いしているようなので俺が弁解すると、加茂さんは目を瞬かせる。

 それから、再度ボードにペンを走らせた。


『じゃあ

 何で?』


 まあ、そうなるよな。今のは何の突拍子もなくプレゼントの話題を出した俺が悪い。


「今日トラブルもあった中で頑張ってたご褒美みたいなもんだ」


 俺は適当な言葉を並べたが、本当の理由はただの罪悪感である。


 言い訳に過ぎないが、俺も一応、思春期の男子高校生だ。

 そして、二人でロッカーの中に隠れたあの時、俺は一瞬でも彼女を性的な目で見てしまった。


 だから、これはそんな自分への戒めのようなもの。

 理由を言えないのは、彼女に引かれたくなかっただけ。恥ずかしい話、俺は自分のことしか考えてなかった。


 ……自分が嫌になる。

 軽く自己嫌悪していると、加茂さんが俺に訊ねてきた。


『物じゃなくてもいい?』

「別にいいけど、何だ?」


 物以外のご褒美なんて俺には思い浮かばなかったが、加茂さんは何か俺にしてほしいことがあるらしい。

 俺が了承すると、加茂さんはボードにペンを走らせる。それから、少し恥ずかしそうにそれを俺の方に向けてきた。


『なでて』

「そんなことでいいのか?」

「…………(こくっ)」


 加茂さんは頷く。


「……分かった」


 俺は加茂さんのお願いに少し拍子抜けしながらも、彼女に歩み寄り、頭に手を乗せる。

 それから、髪に手を滑らせるように、ゆっくりと彼女の頭を撫で始めた。


「…………(むふー)」


 彼女は満足そうに目を細める。

 そんなに俺の手って気持ちいいのだろうか。それとも、撫でられるのが好きなのか?

 ……分からないことを考えても仕方ないので、俺は加茂さんの頭を撫でることだけ考えることにした。所謂、思考停止である。




 暫く撫で続けた後、俺は頃合いを見計らって加茂さんの頭から手を離した。


「…………(あっ)」


 手を離すと、加茂さんは物足りなそうな顔で俺の手を見てくる。


 俺は少し悩んでから、もう一度加茂さんの頭に手を乗せてみた。


「…………(ぱあっ)」


 手を乗せると、加茂さんは表情を分かりやすく嬉しそうなものに一転させる。


「あと少しだけだからな」

「…………(こくこく)」


 そうして、俺はまた、加茂さんの頭を撫で始めたのだった。

この後

1.赤宮君が加茂さんを撫でる

2.赤宮君が手を離す

3.加茂さんが悲しげな表情で赤宮君の手を見る

4.1に戻る

というループが暫く続いたりしますが、それはまた別のお話……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは可愛すぎてずっと撫でていたい。 しかしそうなると名残惜しくて終わんないな…と思っていたら あとがきで噴きましたw ですよね…
[一言] 更新お疲れ様です〜♪ 宿題頑張ってくださいw 続き待ってます!
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