アクシデント、奮闘
文化祭二日目もいよいよ大詰めとなってきた頃、俺達三人は神薙さんと別れ、教室に戻ってきた。当番の時間である。
「――注意事項、それだけ」
「よし、頑張ろうぜ!」
「ああああ緊張してきたああああ」
「あはは……大丈夫大丈夫、気楽にいこーよ」
小谷さんの直前説明が終わり、皆、自分の担当の人と入れ替わりを始める。
「…………(ふんすっ)」
「……気合入れすぎて空回んなよ」
入れ替わる前に、気合十分な様子を見せる加茂さんに一言声をかける。
「…………(ぐっ)」
"大丈夫"と言いたいのだろう。加茂さんは親指を立て、自分の担当の場所に向かっていった。
▼ ▼ ▼ ▼
自分の担当の場所に辿り着いた私は、普段は掃除用具が入っているロッカーを軽くノックする。
――バンッ!
「…………(びくぅっ!)」
ロッカーの扉が勢いよく開け放たれ、私はその音に驚いて反射的に後退ってしまう。
「あ、加茂ちゃんだ」
ロッカーの中に居たのは詩穂ちゃんだった。彼女は自分の顔を下から懐中電灯で照らしながら、きょとんとした表情で私を見てくる。
ここが自分の担当で、驚かされるのも二度目だったから分かってた。
だから、予め身構えてたのに、結局私は驚いてしまった。それが少し恥ずかしい。
「もしかして交代の時間?」
「…………(こくこく)」
「そっかー。じゃあ、はい、これ懐中電灯」
そう言って、詩穂ちゃんは私に懐中電灯を手渡してくる。
「それじゃあ、任せたっ」
「…………(ぐっ)」
私が親指を立てて返事をすると、詩穂ちゃんは出口の方に向かっていった。
早速、準備しよう。そう思って、私はロッカーの中に入った。
後は扉を閉めて、ここの前を通る人を待つ。ここを誰かが通ったら、思いっきり力を込めて扉を開けて驚かせる。
うん、イメージトレーニングは完璧。
「……?」
扉を内側から引っ張って自分で閉めようとして、扉が変な音を立てていることに気づいた。
扉を閉める前に、軽く開けたり閉めたりを繰り返してみると、扉からギィギィと音が鳴っている。動きも少し悪い気がする。大丈夫かな、これ。
「怖いから先進んでぇぇぇ」
「分かった分かった」
「っ」
人の声が聞こえて、私は慌ててロッカーの扉を閉めた。
足音が段々近づいてくるのが分かる。私は息を潜めて、ロッカーの穴からその人達が目の前を通るタイミングを見計らう。
「次はどこから出てくるかな……?」
「ぅぅぅ……」
そして、男子の背中にしがみつく女子が目の前を通りかかったタイミングで、私はロッカーの扉を開け放つ――!
――バンッ!
「うおっ」
「きゃあああ!?」
驚いた様子の二人が、こちらを見て固まる。けれど、暫くして、その二人は不思議そうに私の方を見ながら口を開いた。
「え、音だけ?」
「……みたい、だね?」
扉が、開かない……!?
次の瞬間、私の両手首はジンジンと痛みを訴える。そんな痛みを、私は歯を食いしばって堪えた。声を出してしまわないように。
「……行くか」
「そうだね……」
何で、何で開かないの?
私は何度も開けようと、体ごと扉に寄りかかって力を入れるけど、ビクともしない。
こ、このままじゃ、驚かせられない。どうしよう。
思わぬアクシデントに動揺している間に、次の組がロッカーの前を通りかかってしまう。
私は自分の役目ぐらいは果たそうとして、先程同様扉を勢いよく開け放とうとした。
「っ……」
「……誰かの声聞こえた?」
「気のせいじゃない?」
それすら、できなかった。さっき、手首を変に痛めてしまったせいで。
私はロッカーの中で座り込む。幸い?ロッカーの中は意外と狭くなかった。あまり身動きは取れないけれど、体操座りぐらいならできてしまう。
……手が使えないなら、違う方法を探そう。せめて、自分の役目は果たさなきゃ。
そうだ、さっき渡された懐中電灯、使えるかも。ロッカーの扉の隙間から、光を出したりしてみよう。
今も手首は痛いけど、指は痛めてない。スイッチを付けたり消したりぐらいならできる筈。
…………ない。どこにもない。
足下とか、ポケットとか、お尻の下とか、探してみたけどどこにもない。まさか、扉閉める前に落としちゃった……?
また近づいてくる足音が聞こえる。次の組が来たんだ。
私は慌てて立ち上がる。そして、また、タイミングを見計らう。
見計らいながら、考える。手は使えないし、扉も開けられない。この状況で、どうすれば自分の役目を果たせる?
……驚かせるだけなら扉を開ける必要なんてないんじゃ……?
ふと、一番最初に通った組のことを思い出した。
そうだ。あの人達は音だけでも驚いてくれた。なら、今度は扉を開けようとするんじゃなくて、大きな音を出そう! 音で、驚かせよう!
丁度その時、人が目の前を通り過ぎたのが見えた。
――そのタイミングで、私は扉を内側から思いっきり頭突いた。
「うわっ!?」
「ひっ!?」
私の作戦は成功した。大きな音が鳴って、ロッカーの方を驚いた様子で見つめてくる。
「……ビックリしたぁ」
「な、何だ、音だけか」
驚いてる様子の彼らを穴から覗いて、私は声を出さずにほくそ笑む。
よかった、成功した。これなら、扉が開かなくても驚かせられる。
……でも、次は頭突きはやめよう。音は足で鳴らそう。
ズキズキ痛むおでこに軽く触れながら、私はそう思った。





