加茂さんとカレー
※今話には少々テンション高めな前書きがありますが、本編と全く関係ない話なので読み飛ばしてもらってもOKです。
第8回ネット小説大賞のコラム『本山らのとネット小説大賞を読みませんか?』第4話にて、『加茂さんは喋らない』が紹介されました!
やったね!\\\\٩( 'ω' )و ////
(本山らのさんは「ライトノベルの魅力を発信」するべく活動しているバーチャルYouTuberの方です)
このコラムでは本作の魅力がいっぱいに詰め込まれて紹介されています!
第8回ネット小説大賞のホームページから見ることができるので、気になった読者の方は是非、覗いてみてくださいねっ!
↓本編!
しばらくして復活した加茂さんは、机の端に置かれていたガムシロップの籠から片手いっぱいに掴み取ると、自分のコーヒーに入れ始める。
「…………(せっせこせっせこ)」
「加茂さんって本当に甘いの好きだよなぁ」
次々にガムシロップを入れていく加茂さんを見て、秀人は苦笑しながら言う。
「く、九杉、無理しなくていいのよ? ドリンク一杯ぐらい奢るわよ?」
「…………(ふるふる)」
神薙さんは心配しているのか加茂さんに提案するが、彼女は首を横に振った。
そして、加茂さんが4つ目のガムシロップに手をつけたところで、俺も口を出す。
「加茂さん、虫歯になるから3つでやめとけ」
「…………(えー)」
加茂さんは不満げな表情で俺を見てくる。
彼女が取ったガムシロップは5つ。まさか、本気で全部入れるつもりだったのだろうか。
「コーヒーの味消えてなくなるぞ……」
『コーヒー苦手だから
消えるのなら本望』
「……程々にしとけよ?」
俺は最後の忠告をした後、それ以上は口を出さないことにした。結局、飲むのは加茂さんだし。
「…………(そーっ)」
「それは入れすぎ」
でも、いつの間にか5つのガムシロップを入れ終えていた加茂さんが、6つ目のガムシロップに手を伸ばそうとしていたので、俺はその手を掴んで止めておく。
物事には限度というものがあると思うのだ。
「カレーお待ちどぉさま♡」
「お、来た来た」
しばらくして、お待ちかねのカレーが運ばれてきた。カレー特有の良い匂いが鼻をくすぐる。
「じゃ、いただきまーす」
「「いただきます」」
「…………(ぱんっ)」
一応、形式的に食前の挨拶を済ませて、俺達は早速カレーを頬張った。
「うまっ」
「……これは、想像以上だな。神薙さん、これって、もしかして隠し味みたいなの入ってる?」
「その辺りは企業秘密って言ってたから、私も分からないわ。でも、普通のカレーの作り方じゃないとは言ってたけど」
「じゃあ、このカレーのレシピ聞くのは」
「まあ、無理ね」
カレーのあまりの美味しさに驚き、レシピが気になってしまったのだが、どうやら教えてもらうことはできないらしい。少し残念だが、仕方ない。
……だからせめて、十分に味わって、隠し味を自力で探るとしよう。このカレー、どうにか俺も作ってみたい。
「九杉、大丈夫?」
味覚に集中してカレーを食べ進めていると、神薙さんの加茂さんを心配する声が聞こえて顔を上げる。
――加茂さんは、何故か自分の鼻をつまんでいた。
「どうした?」
「九杉、辛いのも苦手なのよ」
「これ、辛いか……?」
ピリ辛ではあるが、俺はそこまで辛くは感じなかった。しかし、加茂さんは違うらしい。
『辛いけど
おいしい』
「……そっか」
苦いものほどではなくとも、辛いものも加茂さんは苦手らしい。嫌いではないみたいだが。
となると、弁当作る時は気をつけないといけないか。頭に留めておかなければ。
「でも、何で鼻つまんでんだよ?」
これはカレーである。わさびが入っているわけではないので、ツーンとくるような辛さではない筈だ。
すると、加茂さんは鼻をつまんでいない方の手で、ボードにペンを走らせる。そして、無言で書いた文字を指差した。
『はなみず』
「……はい、ティッシュ」
単に鼻水をせき止めていただけだった。俺はポケットからティッシュを取り出して加茂さんに渡す。
加茂さんはそれを受け取ると、片手で器用に紙を一枚引き抜き、チーンと鼻をかみ始める。
「ティッシュはここに置いとくから。好きに使え」
『ありがとう』
そうして再び、俺はカレーを食べ始める。
……分からん。このコクと深みを引き出しているものは、一体何なのだろう。生クリーム……違う。りんご……コーヒー……も違うよな。本当に何だ……?
「…………(ひー)」
「はい、お水飲んで」
「…………(ごくごくごく)」
「噎せないようにね」
「……大丈夫か?」
正面の忙しなさに意識を持ってかれて、味覚の集中が途切れる。
「…………(ほけー)」
加茂さんは水を飲んだ後、一休みするように呆けた表情で虚空を見つめている。
彼女のカレーの皿にはまだ半分以上のカレーが残っており、まだまだ完食は遠そうだった。
「食べれるか?」
「…………(きょとん)」
訊ねてみると、加茂さんは目をぱちくりさせてこちらを見る。そして、ボードで返事を返してきた。
『食べるよ!
おいしいもん!』
「そ、そっか。じゃあ、頑張れ?」
「…………(ぐっ)」
無理はしていないようなので声援を送ると、加茂さんは親指を立て、カレーを一口頬張る。
「…………(ひー)」
やっぱり辛いのだろう。加茂さんは手でぱたぱたと自分の顔を仰ぐ。
それから、彼女は手近にあったコーヒーカップを掴んだ。
「あ、九杉、それ」
「…………(ぐいっ)」
「私のコーヒー……」
――加茂さんがピタッと動きを止める。
「……っ、っ……っ……(ばたばたっ)」
「九杉!?」
「とりあえず水……このタイミングで空かよっ」
「す、すみませーん、水の追加くださーい!」
その後暫く、水の追加が届くまでコーヒーの苦味に悶え苦しんだ加茂さんだった。





