加茂さんと間接
短めです。
加茂さん母と別れて再び歩き始めた俺達は、チュロスを売るクラスに立ち寄る。
そこでシナモン味のチュロスを一つ買った。加茂さんが。
そうして、食べ歩きをしながら俺達は神薙さんのクラスに向かっていた。
「…………(むぐむぐ)」
加茂さんは特殊メイクが汚れないよう、器用に避けながらチュロスを食べている。
俺は彼女のホワイトボードを代わりに持って、隣を歩く。
「美味いか?」
「…………(こくこく)」
人参を食べるウサギを眺める気持ちで、隣を歩く加茂さんを眺める。
美味しそうに食べるなーと思って彼女がチュロスを齧る横顔を見ていると、彼女は俺の視線に気づいてこちらを見てくる。
「…………(はい)」
それから、自分の食べていたチュロスをこちらに向けてきた。
更に、加茂さんはポケットからペンを取り出して片手でキャップを開け、ペンを俺の方に向けてくる。
彼女が何をしたいのか察した俺は、ホワイトボードの表を加茂さんに向ける。すると、彼女はそこにペンを走らせてきた。
彼女が書き終わったのを見計らい、俺はボードに書かれた文字を読む。
『一口どうぞ』
「……俺はいい」
欲しかったらさっき一緒に買っている。
……勘違いさせてしまったのは俺のせいか。
逆に俺が何か食べているところを加茂さんに見つめられたら、俺だって勘違いする。物欲しげに見ていた覚えはないのだが、俺は少し申し訳なく思った。
「…………(じー)」
加茂さんは未だに俺にチュロスを向けている。いいって言ったのに。
……でも、まあ、加茂さんがそう言うなら、一口ぐらい貰っておくか。
「んじゃ、一口だけ」
そう一言入れてから、俺は加茂さんが差し出してきたチュロスを齧る。
「ママ、間接ちゅーだよ!」
「私も昔はパパとやったわぁ……青春ねぇ……」
「せいしゅんってなーにー?」
横を通り過ぎた親子の会話が耳に入った。
――今更、自分達の行動を自覚して顔が熱くなる。
俺は極力顔に出さないように表情筋に力を入れるが、顔の熱だけは力を入れようが抜こうがどうしようもない。
隣を歩く加茂さんの様子を窺ってみる。
「…………(んっ)」
再び、加茂さんはペンをこちらに向けていた。俺がボードの表を向けると、加茂さんはそこにペンを走らせる。
『私は大丈夫だよ
分かっててあげたんだもん』
そこに書かれた文を読んだ俺は思考停止に陥った。
「…………(あむっ)」
その隙に、加茂さんがチュロスに齧り付いた。俺が思わず声を漏らすと、彼女はこちらをチラ見する。
そして、再びチュロスをこちらに向けてきた。
落ち着くためにも、一旦情報を整理しよう。
加茂さんは元々、間接キスになってしまうことを分かっていた。その上で、俺にチュロスを食べてもいいと言ってきた。
……別にこれが初めてじゃないけど、そっか。加茂さん、慣れてしまったのか。
なら、俺も気にしないようにしよう。彼女に合わせよう。そう思って、気持ちの切り替えという意味で、俺は加茂さんが差し出してきたチュロスにもう一度齧り付く。
視界に入り込んだ加茂さんの頰の色は、見なかったことにした。





