表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

昏き眠り(2)

 ネット見てたらまた荒れてる。プロパガンダ作るなら作品でやれよ、と思ってしまいます。ちょうど怪人大好きな私が怪人の小説を書くようにね。まあ、同じようにクソつまらなくて人気もまったく出ないでしょうけど。健全な男女が健全な恋愛をする物語…… 案外人気になりそうだなと思うのは私だけですかね。と思ったらもういくらでもあるな。これ以上安いラブストーリーはいらん。

 言葉に反応したのは、芳村だけではなかった。


「記憶を参照してるんだろ?」


 彼が手を向けて玉響に流し込んだ記憶は、つい最近のものだ。紙に向かっている芳村がさらさらと書いているのは、おびただしい数の怪物だ。中心には新たなデザインを書き込むための空白がある。


「そうか……これは」

「友達を作る能力、だよ」


 怪物どもが、窓の外からのぞいている。


 開いて闇を取り出すことのできる六角形の下に、水晶のような六角柱を取り付け、光の紋様のような翼をつけた黒い天使。


 刃を連ね束ねたような、剣のミミズ。節を切り離して爆発させ、鋭い刃物を散弾としてばら撒くという特質を持っている。


 どれだけ恐ろしい姿をしていようが、どれだけ凶暴だろうが、危ないものを握っていようが、決して反抗などしない、するはずがない。彼の心の内から生まれ、誰よりも彼を理解するものが、どうして彼を傷付けるようなことをするだろうか。


「もう本当の僕はいない。玉響真も芳村紫苑も、すでに万魔殿に座する魔の一人でしかないんだ。壊れてしまった僕を、ほかの僕が代わりに支えている。みんな友達だからね。でも、考えることを持っていない彼らは人になれない」


 泉の中から伸びてきてさまざまな用をこなす腕が、いつものように伸びている。より攻撃的な、口がある竜はいないようだった。腕は玉響が倒れそうになっているのを支え、そのショックを多少なりとも和らげようと努力している。


「人に……」


「そうだよ。彼が作り出した中でも、当然「人語を解する」程度の賢い魔物はいた。ただ残念なことに、人間と会話できるのは人間だけだった」


「だから、俺とお前が対話しているのか」


「そうだよ。僕と君以外に会話できる人間がいれば、きっとこの場に出てきただろう。僕と君以外には、人間型の魔はいない」


 嬉しそうで、寂しそうな顔だ。


「……だとしたら、今の俺の体は」

「ああ、いちばん人間に近いのに任せているよ」


「なんだと?」

「大丈夫だよ、問題ないさ」


 芳村の顔は笑みに歪んでいる。


「君だけは知っている。知ることができる、本当の僕を」

「お前は……芳村紫苑、おまえッ」


 そう、と彼は笑う。


「やっぱり君は、自分に都合のいいものばかり見ようとしているんだなぁ……時間も空間も気にせずに閲覧できるデータを、どうして欲しい部分だけ選択的に見るのかな? まずは全体的に見て、特に興味を持った部分をより深く見るのが僕のスタイルだったんだけどな……君には継承されてないみたいだね」


 何度も警告してたんだ、とという青年の顔だけが微笑んでいる。いや、実際に楽しくて仕方がないのかもしれない。ここまで騙しおおせたのだ、という、非人間的な楽しみが彼の心のうちにあふれ出しているのかもしれなかった。


「所詮はおまえも怪人だったということか……」


「彼の暗黒面を、僕が引き受けただけの話だよ。理性はある。でも、それを他人のために役立てようとしない。一面をそれだけ切り出すとこうなるんだ」


 ほかの魔物たちが単なる外道ではないのに対して、芳村紫苑という残虐性を仮託された魔は本体としての権限を以て殺戮を行うのだ。


「まあ、なんだろう……任せたよ?」

「おまえ……」


 今の言葉に対して「どうする気だ」というのは、口から出ない方がよい問いだろう。そんなことを口にすれば、相手はまた増長するに違いない。


「なんちゃって、ね」

「お、……」


 相手はニコニコとした笑顔を崩さないままだった。



 ◇



 急に、怪物が紅蓮とルゥリンの方を向く。一瞬の注意の途切れを狙って天使はそこから脱出した。怪物に満ち満ちていく何かを敏感に察した彼らは、ざわめくことのない静寂にピリピリした殺気を見る。


「……なんだ?」

「まずいっ」


 水晶でできた巨人が、微妙に黒ずんでいる。天使の予測通り、その手の棍棒は二人に向かって振り下ろされた。配下としては強い方だが、スピードはさほどない。回避するのが難しいわけもなかった。


「部下の教育がなっていないようだな」


 紅蓮は余裕そうな声であざ笑っているが、その手は燃える双剣を回し闇の弾丸を弾いている。敵にあえて問おう、と紅蓮はそこだけ真剣な声音で言う。


「何が起きている? 見境なしの大暴走は、しないのではなかったのか」

「何らかの心理的なリミッターが……外れた、んじゃないかしら」


 魔級程度の攻撃が通る体でもなく、当てさせもしないが、数だけに捌くのは面倒だ。ルゥリンのもとに飛んできた槍を弾くと、空中で爆裂した。


「……!?」


 そして分裂し、伸びて彼女を拘束しようとする。これまでとはケタ違いの数の多さと丈夫さに押され、彼女はそれを捌ききれず、ついに捕まってしまった。


「くっ、まずい……!」


「ふん、エセ裁定者めが。力が伴わぬなら黙って歯噛みしておればよいものを」


 ごう、と炎を倍加させた紅蓮は魔物どもを切り裂き、破壊し、退ける。そこだけは、さすがに四神級の怪人である。


「ふッ! せぁっ!」


 赤熱した双剣から放たれた炎の衝撃波が、怪物を溶断した。


「ようやく見つけた純粋なる魂を、貴様は穢れた思い出で汚した……それも、ひとつやふたつではない。私の美しき大地へ泥を撒いたその罪、命で贖ってもらう!!」


 長い槍と双剣、どちらの扱いも難しいが、より経験が足りず下手なのはヨシムラの方だ。しかし、その動きがだんだんと洗練されたものになっていく。


「隠していたのか?」


 瞬間、黒い五つ目の怪人が停止する。


「がんばれー!」

「そいつを倒して!」


 見れば、怪人たちが集っている。手に手に武器を持ったり手をこちらに向けたりしているのは、現実的であれ理想的であれ、何らかの働きかけをしたいという心だろう。


「哀れだな……天使と協力して悪を狩っていたはずの貴様が。人を狩り喰らう私の方が正義の味方だと思われている」


 考えてみれば、当然のことなのかもしれなかった。


 紅蓮を遥かに超える天級の罪の波動がもう一度広がり、あの日に見た黒い怪物どもと同じものがここにいる。そうなれば「黒い怪人=特殊災害の原因」という認識に至らない方が不思議だろう。


 手数が続く限りの連撃をぶつけ続ける。それを完全に受け止めきることができず、ゆっくりと相手の傷は増えていった。ぎりぎりのところで首を落とせず、顔に擦れていないか心配になるくらいの至近距離で槍が双剣を受け止めている。


 双剣を擦り傷付ける槍が、急にデザインの一部にしか見えなかった棘を横に伸ばす。首を曲げて避けた紅蓮は、その応用力に物理的には存在していない舌を巻いた。武器を使った戦いで武器だけ使っているのは愚か者だ、ということを知らしめてやらねばならない。


 かなり重い攻撃が続く。槍を剣のように扱う、という根本的なところで扱い方に問題があるが、そうあってさえスピードも威力も一級品である。ただし、隙は多い。刃の長すぎる剣として槍を使っているのはいいが、取り回しづらいのが見て取れる。


 双剣を回した紅蓮の三撃を連続して受け止める。隙ありとばかりに双剣を弾き上げるが、それは回し蹴りを繰り出すための布石だと気付き、急いでその足へ槍を振り下ろす。導きに沿って現れた動作を、接近しながら回した双剣で止める。何しろ、双剣の刃はふたつあるのだ。ひとつを弾き上げられたということは、すなわちもうひとつが下がり、勢いを付けて振り上げやすくなったということである。


「貴様の敵は雑魚ばかりだったようだな。スペック任せの負け知らずというのもある意味で可哀想なものだ……成長を知らぬ子供とは」


 双剣自体は両手で掴まなくてはならないうえに込められる力には限界があり、構造的に強度にはやや問題がある。それを察知した紅蓮は、一気に戦闘を終結させようとして剣に高熱の炎を纏わせた。大きく距離を取ったヨシムラは、受け止める構えだ。


「超絶奥義……!」


 刃を形作る宝石の牙は真紅を超えて赤熱し、赤い光と白い熱のかたまりになる。


「紅蓮!」


 炎が寄り集まり、灼熱の橙、純粋の青、超越の紫、三体の龍へ変化していく。地面と水平に構えた双剣を中心に、龍たちは紅蓮の背後へ集った。


「爆龍、剣ッ!!!」


 すっと引き、叩き付けるように双剣を振るう。衝撃波だけで地面が裂けて燃え上がり、周囲のがれきの山が灰になって消滅した。炎の龍たちが一体、二体と突撃し炸裂するたびに黒い煙がもうもうと舞い上がる。


 紫の龍が大爆発を起こして炎をばら撒くと、集まっていた怪人たちは巻き込まれないために逃げたのか、静寂が戻っていた。


「……愚か者め。自分の力を過信しすぎたか」

『グ、ガァ……』


 人のものでも、獣のものでもないうめき声が垂れ流されている。甲殻には亀裂が走り、わずかながら血のような色も見えた。少なくともそれだけで受け止めきれるほどの強力な装甲ではなかったのだ。それを確認した紅蓮は、ピシリと音を立てた双剣を全力で投げる。立ち塞がった魔物を五体ほど消滅させ、紅蓮の相棒たる双剣ラプターファングは砕け散った。新たにそれを作り出す能力も残されていない。


「……我が牙よ、しばし休め」


 変化しなおす時間はない。もとより、次があるからと愛着ある双剣を使い潰すような真似をしたくなかった。


「残されたこの五体のみで……貴様を倒す」


 迫りくる黒い手を、体に纏う炎で焼く。巨人の棍棒を横っ飛びに避け、闇の弾丸を腕の甲殻で弾き飛ばした。


 しかし、抵抗はそこまでだった。


「もうやめて! あなたは、こんな……!」

「無駄だ。リミッターが外されたこの男は……貴様の言うことなど聞き入れん」


 幾多の竜に噛みつかれ、まるで鎖で繋がれたように空中へ吊り下げられた紅蓮は、誰に向けたものかもわからない少女の言葉を否定する。


「我が至高の宝物を傷付けたその罪を……償わせるまでは……ッ」

「やめて!!」


 ミシミシと龍の牙が紅蓮の体に食い込む。新たに数百伸びた手が赤い怪人の全身を掴み、ゆっくりと損傷させていく。もはや自分を害しない程度の炎など子供騙しに等しかった。そう悟った紅蓮は炎の温度を上げるが、気休めにもならない。


「ヨシムラ、シオン……ッ!! 私は貴様を許さない……私が喰らうはずの人々の幸せを穢したことを、絶対に許さん! 今この場で私は死ぬ。しかし……因果の先、煉獄で貴様を待っているぞ!! そのときぐぉ……」


 ぐきん、と音がして紅蓮の首が延びた。全身から血が吹き出し、赤い甲殻が弾け散るのと同時にぱらぱら雨のように降る。張り詰めていた力が一気に抜けて、ぐにゃりと手足が垂れ下がり、ぼたぼたと液体をこぼした。そして白く燃え上がり、投げ出された荷物のように地面に落ちて転がる。


 こうして快楽殺人犯、四神級怪人「紅蓮」は死亡した。

 紅蓮さん死亡。言ってることはかっこいいのになあ(内容無視


 最後の紅蓮爆龍剣は出力マシマシ、大砲とかの一斉射撃に匹敵する威力だと思われます。描写的にもめっちゃ強そう。殺人者なので無理ですが、主役になっても映えそうですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ