プロローグ2・万魔殿封印(2)
質問は受け付けます。設定とかは後でまとめて説明するつもりです。
飛び散った血のようなものは、予想に反してすぐに消える。獣の唸り声とガス漏れの音を混ぜ合わせたかのような声を上げた「万魔殿」は、ぎりぎりのところで拳をまともに受けることなく避け切っていた。腕の装甲が削れてはいるが、さほどの重症ではない。のろのろとした緩慢な再生が始まっている。
ただし、天級破壊に耐えきっていると評価するのは的外れであるようだ。再生部位はミシミシと不気味なきしみを上げ、穢い空気が漏れることを止められていない。あと少しでもダメージを受ければ、少なくとも止まるふうに思われる。
『……処理はまだか』
「当たっていません」
『何だと?』
上司の言葉に耳を貸す余裕もないほど、超高速の戦闘が繰り広げられていた。
素人のそれではあっても、怪物の本体である怪人の蹴りはひどく早く、そして重い。空気とともに髪の毛が数本持っていかれる。もともと危険な職業、髪の数本程度なら気にはしないが、問題はこちらから仕掛ける攻撃の方だった。
突き出した拳が細いものに巻かれそうになり、引かずぶつけに行けば回避され、回避が間に合わなくても瞬時に出てきた配下が身代わりになって、本体には決して当たらない。外道の戦い方にも見えるのだが、砕けていく配下に悲壮感はまるでなく、むしろ誇らしげだ。何度砕いても斃れることはなく、同じ見た目のものを何度か倒したこともあった。手のようなものや触手のようなものは、数百本がセットになっているらしい。
軌道の分かる拳や蹴りだけを繰り出しているので、武道の経験も殺し合いの研鑽もないことはすぐに知れる。しかし秘めた威力はやはり天級である。遅いから、軌道が分かるからといって避けないわけにはいかない。
本体に当たる攻撃を何とかして浸透させればよいのだろう、ということは分かっていた。言ってすぐできることであれば片付くのだが、そうもいかなかった。
鋭い二回の突きは強化された反射神経で余裕を持ち回避される。勝負を付けようとして繰り出した手刀も結晶の棍棒を砕くにとどまり、肝心の本体には衝撃の余波しか届いていないようだ。堅固な装甲にはその程度の衝撃波は通じない。
『……昇天!?』
「そんな……!?」
上司が叫んだのも当然だ。怪人の足元の影から、見慣れた地獄が透けて見え始めたのだ。怪人がこの世ならざる存在になってしまえば、手出しできなくなってしまう。
『なんとか昇天が終わる前にかたを付けろ』
ここまで深刻な事態になっても冷静さを崩さないところはさすがに上司だが、声まですべて冷静というわけでもなかった。天級の怪物を昇天させたなどという不祥事は、あってはならないことである。管理上の問題ということもあるが、厄介な邪神が増えるとなると咎めもただではすまない。怪人を取り逃がしただけでなく、さらに強くしたうえほかの部署の厄介事までも増やすことになるからだ。
地面から棒切れが突き立ち、怪人がそれを手に取る。掴んだ時点でどろどろと液体が流れ出て、甲殻の欠片がぱらぱらこぼれ落ちる。
『自傷か?』
「どうでしょうか」
上司は能力全てを分析し、それがどのような心から来ているのかをおおむね知る。もしもこれが自傷行為であるなら、相手は天級に昇格するにふさわしいだけのストレスを溜めていることになる。戦いにおいて自傷をするなど、普通は有り得ないのだ。
両手持ちの剣と考えるには長すぎ、長柄の槍にしては少し短い。全体的な形は確かに槍なのだが、安全そうな持ち手はほとんどない。そして穂先は武骨で、石を割ってたまたまできた形をそのままくっつけたかのようだ。
棒を振り回す子供のように自由な軌道を描くそれは、容易く空気を切り裂く。かすめただけで肌が裂け、血が滲み、どす黒いあざに変わっていった。
『早く片を付けろ!』
腐食が進んでいる。あと半時間もすれば、天使は腐り果て黒い肉塊に変わるだろう。戦力を失い怪人を昇天させるという、大きすぎる結果が現実になってしまう。上司が焦るのも無理はなかった。
『ルゥリン、浸食が……!』
「心配ありません」
少女はあえて振り下ろされた棒の下に入り、そして拳でそれを叩き折る。籠手が削れて皮膚にもやすりで切ったような傷跡がつくが、気にしない。ほんの少しひるんだ一瞬の隙に、腕のばねを使い、しゃがんだ姿勢から逆立ちするように蹴りを放った。棒にかなりの力を割いていたのか防御できなかった胸部の甲殻が鋭く裂け砕ける。
頭部を狙った拳、腹を狙う膝蹴り、その足が着地する前にもう片方で回し蹴りを繰り出し、手刀を首元に刺し込む。怒涛の連続攻撃はすべてフェイントだ。手刀を捌こうとした手を素早く巻き込んで関節をねじ曲げ、苦鳴を上げた瞬間を狙ってすっと拳を引き――
これまで大きな痛みを感じたことがなかったのだろう。優しい心で生き、大きな傷を負わないように用心して、安全に平均的に生きてきたに違いない。
そんな心臓の真上に、都市を灰に変える拳がぶつかった。
『ォオオオオォォ――――ッッ!!』
三割までは恐らく怒りだ。しかし、悲しげで苦しげな叫びには、どちらかと言えば痛みの方を大きく感じられる。そして威力が浸透し、ピ、ピシ、と大きな亀裂が走る。
激突から数秒、天級怪人「万魔殿」の左半身は爆裂した。
信じられないほどの量の何かが飛び散り、とうてい収まらないような容積の真っ黒い液体が吹き出す。あるいは体の一部かもしれないが、力のうちいくらかが削がれたことは確かだった。
『確認できたか』
「いえ、飛散の範囲が広すぎて……」
欠片を回収できたか、という問いに関して答えはノーだ。あれだけの容積の液体、そして飛び散った多量の肉片や泥のようなものの中から手のひらサイズのものを探すのは、やや無理がある。不可能だとは言わないが、怪人もどうやら闇で形だけ再現しているらしく、余裕はあまりなかった。
『……倒したようだな』
怪人は、ようやく人間の姿に戻る。五つ目のバケモノはどこへやら、そこに転がっている体はいかにも優しそうな好青年だ。とうていこんな恐ろしいことをしたとは思えない。それどころか、もっぱら危険な目に遭い続けている不運な青年とでも言われた方がよほど信じられる。もっとも、実際にそうだったからこうなったのだろうが、それはこのさい別問題である。
『人間が近付いている。とっととそれを連れて移動しろ』
「分かりました」
あとに残されたのは、黒いすすに汚染された瓦礫と砂の山のみだった。
◇
行方不明少女遺体発見 「プレデター」か?
17日から行方が分からなくなっていた市立明花高校の女生徒(18)が19日、遺体で見つかった。遺体は背中を巨大な刀のようなもので深く切りつけられており、失血死したものとみられる。なお同様の事件が今年に入って30件近く起こっており、警察は一連の事件の犯人に「プレデター」と命名。捜査のめどは立っていない。
※情報提供のお願い
明花市において起こった大規模爆発事故の詳細について少しでも情報をお持ちの方は、どのような情報でもいいので、お寄せください。連絡先000-XXX-xxxx
行方不明者名簿(50音順)
アカイ レオ カイトウ タツル サトミ ユカ シムラ ケント
タタキ カイ タニモト ユウジ ナカムラ シノブ ニシザワ シゲキ
ハラダ リュウキ モリ タイセイ モリサキ ゼン ヤマガタ コウヘイ
ヨシムラ シオン
質問:「ジビエの美味しい食べ方」
このあいだ鹿の肉を分けてもらったのですが、美味しい食べ方が分かりません。とりあえず焼肉かなと思ったのですが、臭くてちっとも美味しくありませんでした。焼き方を工夫してみても脂ばかり出て、あわや火事騒ぎになるところでした。あの人はこれからもこのお肉をくれるそうで、どうしても断り切れなくて、美味しく食べたいのです。
画像を載せておくので、いい食べ方が分かる人は教えてください。
(Hiroshiさんの解答)
とりあえず焼いても、ニオイがきつい&ちょっとかたいので、本来のおいしさを知っている私から言うとぜんぜんおいしくないです。焼き方が上手ければいいのですが、失敗すると硬くなってしまって本当に……。スライスしてタレに漬け込み、味が染みたところで焼肉にするとすごく美味しくて、しかもとっても楽ですよ。
画像を見ましたが、これはシカではないですね。かなり運動不足になっているようですから、よくない養豚場の豚でしょうか? 一見したところ私が知っている肉質のものには当てはまらない珍しい肉みたいなので、ここ以外でも質問してみるとどうでしょうか。
(BodyEaterさんの解答)
いいお肉です。脂をつけたままスモークにして、酒のつまみにするととても美味しいと思います。食べる直前にひちりんであぶると最高になります。年齢的にもバランス的にもとてもいいものなので、美味しく食べないともったいないです! ちなみに、とても美味しく食べたいときはレタスとトマト、デミグラスソースでハンバーガーにするといいです。手間はかかりますが、味は素晴らしい。
かっこいい怪人が大好きなのでこんなものを書いているわけですが、最近はかっこいいのが多くて嬉しいですね。クワガタアマゾンとかグラファイトバグスターとか、好みに直球なのがたくさん。この前には別の作品でオルフェノクっぽいイメージのを出しましたが、今回もです。
主人公の怪人モチーフを画像で見てみたら、死ぬほど雑魚そうでした。まあ、いいか。