第4幕 罠
顔無しが接触してきてからは予想に反して特に何もなく午前中の授業は過ぎていった。
その間にかわった事といえば、海馬が前回の今野の件で行方不明になってしまったので、その代わりに北条七海がサポートとして加わり俺たちのクラスに入り可憐の警護に従事してくれることになった。
多分だが海馬のやつは今野に消されてしまったのだろう。
親父に聞いてもどうやっても本人と連絡が取れないとの事だし望みはないだろう。
確かに俺はあいつとの相性は最悪だったが、可憐を守ろうとして亡くなったならそれは評価を素直にするべきなんだろうな。
そして昼休みの時についに奴らが動きだした。
「あー、柿崎いるか?」
昼飯を食べようとしたら、森崎さんが教室に来ていきなり呼び出された。
「どうしたんですか?」
「それが、柿崎の親族だっていう人から緊急の電話があったんでちょっと来てくれ。」
森崎さんはそういって俺を教室から連れ出して空き教室につくと、
「清十郎確実にこれは罠だよ。あんたの祖父を名乗るやつからこれから迎えに行くって連絡と再会した場所で待っているようにと電話をしてきた。」
・・・その電話は確実にスコーピオンのメンバーの誰かだろう。
「声の感じはどうでしたか?」
「しわがれた感じがしたが本当の声かは判断できなかったな。」
声を変える方法は確かに色々あるからな。
例えば声を高くするならヘリウムを使えばいいし、逆に低くするのならば6フッ化硫黄を使えば可能だろう。
それを使われていれば電話越しでは判断ができない。
「わかりました。」
「清十郎あんたはどうする気だい?」
「・・・電話の指示に従います。」
「罠なのにかい?」
「行かなければ奴らは確実にまわりに迷惑をかけます。それに・・・いえなんでもないです。」
俺と森崎さんは互いに睨み合って牽制をしあった。
やがて森崎さんが折れて、
「はぁ、まったくあんたはいつも腹をくくると言うことを聞かないんだから。清十郎私がボスに連絡して援護を要請してすぐに駆けつけるよ。場所はどこなの?」
「前に襲撃のあった教会です。」
「ああ、あそこね。確かに監視カメラもないわね。何度もセキュリティーを無視して侵入されるのはムカつくわねいつかお返しをしてやるわ。」
「そうですね。早く可憐への襲撃を終わらせたいですよ。」
「清十郎私たちが着くまであまり無茶をするんじゃないわよ。」
「大丈夫ですよ。殺しもせず必ず無力化して情報をはかせます。」
俺はそう答えると、後のことは森崎さんに任せて準備を開始した。
今回は学園での事でもあり銃は使えないだろう。
代わりになる物はナイフは持っていないがかわりに大量の鉛筆は用意してある。
まさか昔に教わった事を今実行する事になるなんて思ってもみなかったな。
俺は持っている新品の鉛筆を全て削って、先が尖った状態にしてキャップをかぶせ、仕込めるだけ体のいたるところに仕込んでおく。
これだけでも俺は知識から相手を殺害する事ができるが今回は捕縛が目的だから使い方を変えないとだな。
そう、昔に教わった方法は削って先が尖った状態の鉛筆を中指と薬指の間に挟んで持ち、相手の顎よりやや首に近い位置から脳にむけて差し込むとちょうど先端が脳に到達して仕留められる。
まあ、その際に途中の骨が堅焼き煎餅並みの硬さのため強く差し込まなくてはいけないし、やった後では掌に鉛筆の跡が残ってしまうんだけどな。
それといくつかの直ぐに調合できる薬を準備して俺は指示された場所へと向かった。
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目的の場所に着くと姿を見せてはいないが隠しきれないほどの狂気に満ち溢れている。
「なあ、いるんだろ姿を見せろよ。」
俺が声をかけると、
「ああ、名無し少しぶりだな。今日は心いくまで楽しもう。」
毒蛇のやつがいるのか!
わかってはいたが真っ先に仕掛けてくるなんてな。
「儂もおるよ。男の肝臓なんぞ不味くていらんがお主のはコレクションにでもするわい。」
臓物食いまで一緒に仕掛けてくるのか。
そんな事を考えているといきなり強烈な殺気が後ろから来たので素早くしゃがんでかわして、伸びてきた腕を掴んで投げ飛ばす。
相手は何事もなかったように着地をすると、
「ああ、名無し貴様はどんな声で鳴いてくれるんだ?さあさあさあさあさあ壊れてしまえよ狂ってしまえよ!」
目を血走らせた男が俺に向かって攻撃をしようと構えている。
「お前破壊者か!」
「呼び名などどうでもいい!さあ壊れろ!すぐ壊れろ!狂い死ね!」
おかしい!
俺の知っている破壊者はもう少し理性があったはずだが、今の感じでは完全に狂ってしまっている。
「つぅ!」
いきなり肩に鋭い痛みが走りそこを見ると、スズメがくちばしを突き刺している。
「まさか!獣狂いまで一緒に動いているのか!」
まずいな!
こいつらは基本的に己の欲望を優先するから、共闘なんてできないと思っていたのに、まさかやってくるなんて。
「はっはっはっ!この私こそが絶対なる正義!アイアムジャスティス!」
この頭の悪いセリフは絶対正義か!
「そして我もここにいる。」
「ちっ!」
背後からナイフが突き出され頬をかすった。
そして振り向くとそこには深淵が立っている。
「最悪だな。まさかお前ら全員で仕掛けてくるとは思わなかった。」
「お主は危険じゃからの。排除には全力じゃよ。」
「そうだな。まあ、俺の毒にどこまで耐えられるか楽しみだ。」
「どうでもいい早く壊れろ!」
「・・・・・・」
「正義は絶対に勝利する!」
「ともに我と沈み込もう。」
くそ!
なんとかしてこの状況を崩さないと!
俺は鉛筆と試験管を両手に持つとこの状況を打破するために行動を開始した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は2018/5/12に更新予定です。