第6幕 決意
俺と親父は今墓の前にいた。
「なあ清十郎、もうわかっているだろう?」
親父が何を言いたいかは、確かにわかっている。
たぶんだが、さっきの高柳さんの話から考えると、きっと目の前の墓は俺の両親のものなのだろう。
「なあ親父。自分は生きていていいんだろうか?」
「それは誰かが決める事じゃないよ。・・・ただ、望まれて生まれてきたのは確かだな。」
俺自身の迷いはきっとそこなんだろうな。
記憶のある限りで俺は暗殺者として生きてきた。
そして、過去となった今でもそれに囚われていて、どうやって生きればいいのかがわからない。
親父はきっと俺が質問する前から気づいていたんだな。
だからこそ、それよりも前について調べてくれて教えてくれたんだな。
「なあ、清十郎。人の生き方っていつ決まるか知っているか?」
親父がそんな事を逆に聞いてきた。
「生き方ですか?正直わからないですよ。」
「だろうな。人の生き方っていうのは20歳になるまでの経験によって決まるものだよ。俺の場合には20歳になるまでには今の仕事のために訓練してきた。だからこそ俺の生き方はボディーガードをベースにできている。けどお前はまだだろう?」
「はい。」
「ならまだ大丈夫だ。今のうちにいろんな経験をしてなりたい自分を見つければいい。」
親父が言いたい事はきっと過去ばかりに囚われず前を向けって事なんだろう。
けど俺は結局過去の自分の力に頼っていたことが最近よくわかってしまった。
「なあ、俺は別に過去を捨てろって言っているわけじゃない。むしろ過去を受け入れてやれ。」
・・・どういう事だろう。
過去を受け入れてやれって、昔の自分がしてきた事を認めろって事か?
「お前は難しく考えすぎだ!ただ自分がしてきた事をなかったことにするな。そうでなければ犠牲にしてきた人達の死が意味のないものになるだろ?」
「・・・・・・」
「今はまだ認められなくていい、いずれはちゃんと受け入れろ。まずはお前が今何をしたいのかをここで決めよう。」
「どういう事ですか?」
親父はここで何を決めるっていうんだ?
「清十郎目を閉じろ。」
俺は言われた通りにした。
「よし、それじゃあ大切な人や物を思い浮かべろ。」
俺は頭の中に大切だと思う事を思い浮かべた。
「できたか?ならそれを優先度の低いものから消していけ。」
指示通りに、優先度の低いものから消して行く。
仕事道具だったり、自分の好きな食べ物、同僚、友達とどんどん消えていく。
「最後の1つになるまで消していけ。」
どんどん消えていき、やがて最後に1人だけが残った。
「何が残ったかは聞かない。清十郎それがお前の本当に大切なものだ。まずはその大切なものを守る事だけ考えてみろ。」
俺の最後に残ったものは、可憐の笑顔だった。
・・・ああ、そういう事だったんだな。
俺はきっと可憐に知られるのが怖かったんだな。
今の関係が壊れてしまう事を恐れて逃げていたのか!
「おっ?予想以上にいい顔になったな。」
「ああ、親父俺はやっぱり守りたいみたいだ。」
「なんだ、決意ができたのか。もしもダメだったら、高柳さんに頼んでお前を受け入れてもらうつもりだったんだがな。」
「それは、今は必要ないよ。いずれちゃんと俺から話したい。」
「・・・そうか。」
ちょうどそのタイミングで親父の携帯がなり、親父は軽くやりとりをすると俺に振り向き、
「清十郎、月城可憐が危ない!すぐに向かうぞ。」
「わかったよ親父!」
もう俺は迷わない。
絶対に可憐を守り抜く!
いつも読んでいただきありがとうございます!
次回は2018/3/10に更新予定です。