第9幕 蛇
応援席に戻ると、恭子さんが居て、
「柿崎遅いぞ!次は借り物競争だから実況中継するよ!まあ、わたしとあんたじゃ華がないからそうだなー、月城おまけできな。」
「えっ?私ですか?」
「他に月城はここにいるのかい?」
「いえ、いませんけど。」
「なら、行くよ!」
恭子さんはそういうと、俺と可憐の手を掴んで引っ張って行った。
そして、障害物競走の時に使ったテントについて選手の準備が終わるのを待った。
「なあ、柿崎。あの箱はなんなんだ?」
恭子さんが指さしたのは、トラックをスタート地点から半周走った位置にあるものだった。
「森崎先生、あれは箱ですよ。」
「いや、私が聞いているのはそういう事じゃない。封筒はどうしたんだ?」
「あの中ですけど?」
「・・・そうか。」
恭子さんは、何がそんなに気になったんだろうか?
ようやく選手の準備ができ、借り物競争がスタートした。
「いよいよ、借り物の第1レースが始まりました。選手達覚悟はできているな!これは障害物競走のヤツが作ったものだ!」
まあ、確かに真剣に作ったから覚悟はして欲しいかな。
そう考えているうちに、第1走者が箱にたどり着いた。
「なんだこれ?」
「あー、その中に指示の紙が入っています。」
「なんかくじ引きみたいだな。とりあえず引いてみるか。」
そうして、選手が手を入れて紙を取り出す。
そして、その紙を見た選手は、
「なんだこれー!意味わからん、ガマガエル顔のおじいさんってピンポイントすぎだろ!」
叫びながらも応援席へと走って行った。
「ちなみに無理そうだったら、トラックをもう一周して引き直してください。」
可憐がちゃんと放送でフォローを入れた。
それからはまた、選手の悲痛な叫びが響き続ける。
「うわきたよ、このシリーズ!シロヘラコウモリなんていないだろ!」
「ヅラを5個って鬼か!」
「ハズレって、もう一周かよ!」
「御厨先生の車の右前輪のタイヤか!これはいけるな!」
「えっ!俺の車!ちょっと待て!取りに行くな!」
全員楽しんでいるみたいでなによりだ!
もっとも中継は恭子さんと可憐に任せているから、俺自身は暇なんだよな。
なんとなく俺は周りを見渡した。
その時だった。
「!!あいつは!」
俺は一瞬見た事のある人物を発見した。
相手も俺に気付いたのか、こちらをみると移動を始めた。
俺は席を立って追おうとした。
恭子さんと可憐は中継に集中していて気付いていないみたいだな。
結局俺はその人物を追いかけて行くことにした。
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追いかけて行くと、どんどん人気のない場所に進んで行く。
しかし、この先にあるのは確か体育館だよな。
一体そこに何の用があるんだ?
案の定追いかけた先には、体育館があり閉まっているはずの扉が半開きになっている。
俺は用心しながらその中へと、入っていった。
その人物は体育館の中央に立っていた。
「やっぱりきたんだな。久しぶりと言うべきかな?俺はてっきりあの時に処分されたと思っていたんだがな。」
「あいにく、まだ生きてますよ。それより何故あなたがここにいるんですか?」
「答えると思うか?まあ、いい。用事は済んだから教えてやるよ。単純に実験だよ。」
「実験だと?」
「ああ、成果を知りたかっただけだからな。もう済んだ以上帰るよ。」
「そのまま帰すと?」
「ほう?俺とやり合うと言うのか名無し?」
「そうですよ毒蛇!」
そう、俺の目の前にいる人物は俺が所属していたスコーピオンのメンバーの1人だ。
「まあ、少し遊んでやるよ。」
毒蛇は一気に俺との距離を詰めると、素早く掌底を打ってくる。
俺はそれを横から合わせてずらし、逆に足払いをする。
それをジャンプで避けられるが、素早く追撃をしていく。
「ほう?平和ボケしているかと思えばそうでもないな。」
「当たり前だ!」
「いいねー、今のお前は生き生きとしている。やっぱり楽しいだろ?殺し合いはよ!」
「そんな事はない!」
「けど、今使っているのは殺すための技だ!お前の本質は今も殺し屋のままなんだよ!」
「!!」
「もっと楽しみたいところだが、俺が本気を出すとすぐに殺しちまうから、次回会ったらお前も本気を出せよ?」
毒蛇は地面にガラス瓶を叩きつけた。
するとそこから一気に煙が発生して、何も見えなくなってしまった。
すぐに煙は収まったが、はれた時には毒蛇の姿はどこにもなかった。
あいつの目的はなんだったのかは、結局ちゃんとは分からなかった。
それにしても、俺の格闘技はあの頃のままか。
わかってはいるんだ。
これは標的を狩るためのもので、守るためじゃないことぐらい。
わかっては、いるんだが俺にはこれしかないんだよ!
けど俺はこれで、もう殺しはしない。
いつかまた毒蛇と対峙することがあっても絶対に生かして捕まえてやる。
いつも読んでいただきありがとうございます!
次回は2017/11/18に更新予定です。