第1幕 過去
ビルが建ち並ぶ街の裏路地にて、俺はとある男の暗殺を実行しようとしていた。
俺の名前はヴォルフで所属している組織は、スコーピオンであり主に暗殺を取り扱っている。
何故俺がそんな所に所属しているのかと言うと、正直わからない。
気がついたら所属をしていて優秀な兵器へと造りあげられていた。
今までも数え切れないほどの人達を、俺は命令されるままに狩ってきた。
今回の命令もただ一言上の人間から「こいつを仕留めろ。」と言われただけだった。
しかし今回は相手が悪かったようだ。
いつものように俺がまだ子供なのを上手く利用して、相手に近き相手が油断したところでWASPナイフで刺しガスをその先から吹き込み臓器を駄目にして仕留めようとした。
演技も組織で教え込まれた通り完璧だったし、相手の動作も油断するのを待ち絶妙なタイミングで仕掛けた。
しかし結果は、
「残念だなガキ。」
俺は暗殺しようとした相手に捕まり地面に抑え込まれてしまった。
動こうとしても相手は完全にこちらの動きを封じている。
俺はすぐに「ああ、これが最後か。」なんて気分になっていた。
思い返しても実につまらない人生だった。
来る日も来る日もただ暗殺者としての教育しかされてこなかった。
最後に何か思い浮かべることはないか無駄に考えてみてふと気になった事がある。
「なぁ、あんたってどんな人なんだ?」
そうだ、俺は暗殺する人がどんな人なのか一度も考えた事がなかった。
ただ殺せば組織の人達が喜んでくれていたからそのために考えもせずやっていた。
「お前はほんとガキだな!嫌ガキにも慣れてない人形か。」
そいつの言う通りだった。
俺は指示に従うだけで考える事も放棄していた。
なんせ考えたところで最後は変わらないからな。
「まぁ、せっかくだから教えてやるよ。俺はボディーガードだ、簡単に言えば他人を守る盾だな。」
俺には理解できない。
何故他人を守るなんて無駄な事をしているのだろうか。
俺がそう尋ねると、
「そんなんただ殺すより守る方がはるかに難しいが、守れる力と守りきったという誇りが最高に気持ちいいからだ。」
やはり俺には理解できないようだ。
そいつの言ってる事がわからない。
他人を守ると言うことは、自分の命を危険に晒すと言うことじゃないか。
そんな事してなんの意味があると言うんだ。
「どうやら理解出来てねぇみたいだな!まぁお前みたいなガキには大切な人がいないだろうし無理だな。」
大切な人?
誰だそれは?
もしそれがわかれば俺は今とは違う結果を選べたのだろうか?
悔しいな結局俺には、何もなかった。
自然と涙がでてきた。
「ガキ。お前はお前のいた組織に、使い捨ての駒として利用されてたのに気づいていたか?」
いきなりそいつは俺にそんな事を言ってきた。
俺が組織の使い捨ての駒だったと、そんな馬鹿な!
だってあの人達はお前ならできると言って俺に命令をだしたのだぞ。
それがなんで使い捨ての駒に繋がっていく。
「やっぱりお前自覚なかったな?普通に考えて現役のボディーガードにガキの暗殺者をぶつけたって結果はわかりきってるだろうが!」
「そんな事ない!自分があんたの隙を読み間違えたせいで負けただけだ!」
俺は認めたくない!
俺を育ててくれた組織に捨てられたなんて絶対に嘘に決まってる。
「そもそも暗殺するにしても普通はツーマンセルで保険をかけとくだろうが?」
俺がこれ以上抵抗しないとおもったのか体の拘束が少し弱まった。
その瞬間残る力全部で何とか拘束から抜け出し、一度引く事にしてその場を逃げ出した。
「はぁ、馬鹿野郎だな。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どれくらい逃げたのだろうか?
俺にはわからない。
ひとまず標的の男は追ってきていないみたいだ。
悔しいがひとまずは組織のアジトに戻って再度暗殺するために準備をするしかないか。
俺がそう考えていると、
「ぐああああ。」
いきなり俺の体に強力な電流が流れた。
たまらずにその場に倒れてしまうと、サングラスをした男達が近づいてくる。
「やはりヴォルフではダメだったか。使えないガキだったな。」
「仕方ないさ所詮消耗品だからな。」
「しかもターゲットに諭されるとか役立たずにもほどがあったな。」
男達はそんな事を言いながら俺を蹴ってきている。
何故だ何故俺がこんな事をされなきゃならない。
俺が何をしたと言うんだ!
俺は結局抵抗などできずにひたすら蹴られ続けていた。
正直もうどうでもよくなっていた。
自分の生きてきた意味は何だったのだろうか?
ただ無様に殺されるためだったのだろうか?
ふとさっきの標的の男のセリフがよみがえる。
「守れる力と守りきったという誇りが最高に気持ちいいからだよ。」
俺もそんなセリフが言えるような生き方がしたかった。
ただ暗殺するだけで何も意味のなかった人生よりいい。
しかし現実は残酷だ。
今更そんな事を思ったとしても自分がここで今まで殺してきた人達と同じ運命を辿るのだろうな。
俺を蹴っていた男達は蹴り飽きたのだろう。
ついに手にナイフを持ち自分に振り下ろしてきた。
体が動かないため、その光景を見ていることしかできなかった。
「ああ、つまらない人生だった。」
「おいおい?まだ終わってないだろ?」
今にも俺の体に刺さりそうだったナイフは、横からの蹴りによって妨害された。
「貴様なにも「バキャ」」
男達が何か喋ろうとしたがあっという間に首のほねを折られて死んでしまっていた。
「ガキ何か言い残すことはあるか?」
俺を助けたのはさっきの標的の男だった。
そいつは、自分にそう告げてきた。
「なぁ、出会いが違えば、自分もあんたみたいに人を守る生き方ができたんだろうか?」
俺は心の底からそう願った。
だが全ては遅すぎた。
人を守りたくても俺は殺しすぎた。
「そうだな。そんな未来もあったかもしれないな。」
そいつは俺に少し優しい顔を見せ俺の首に手を添えた。
次の瞬間には俺の意識はなくなった。
こうして暗殺者のヴォルフは死んでいった。
更新速度は今のところ一週間に一回を目標にしてます!
次回は7月22日の予定です。