いつもと同じで、いつもと違う
いつもと同じ部屋。
いつもと同じ壁、床、天井。
いつもと違う、匂い。
俺の部屋に、女子高生がいる。
もっと詳しく言うと、俺のベッドで横になっている。
いつの日か、こんな経験したかったなと思っていた願いが叶いました。
もしかすると神はいるのかもしれない。
「ふふっ、なにニヤついてんの、きもー」
「悪かったな、こんな経験なくて戸惑ってんだよ」
「なに、女の子とか家に連れてこないの?」
「連れてこないんじゃない、連れてこられないんだ。 日本語っていうのは少し文字が違うだけで悲しい程意味が変わってしまうことを覚えておくといい」
「ははっ、なにそれ、面白いね」
本当にそう思ってるのかと思えてくるような、鼻で笑ったような反応だった。
「じゃあさ……私がここにいて、襲いたくなるんじゃない?」
「え、いいんですか?」
「ちょ、真顔やめてよ」
「ダメだったら言うなよ!期待するだろ!」
「下心出し過ぎ! そんなだからモテないんじゃ?」
「まぁ、いつもはこんなに剥き出しではない」
「なんで私の時だけ剥き出しなの……」
何故だか、今日初めて会ったというのに、とても落ち着いて話せる。
いつもは女性というだけで少し飾ってしまいがちな俺が、普通に話せる。
この子には、何かそういう意味で惹かれるものがあるな。
「……したいなら、いいよ」
「……は?」
俺が色々と考えていた間に、なんて言った?
「私のこと、襲っちゃえばいいじゃん。 警察にも言わないよ。 自分から来てるんだし自業自得じゃん」
「お前……」
強がっているのが見え見えというか、こんな悲しそうな顔をした強がりを見たのは、人生で初めてだ。
「だって私は……」
「やめろ、怒るぞ」
「なんで? 私が良いって言ってるんだよ?」
「そういう問題じゃない。 何があったのかは、正直分からない。 だけど、そんな簡単に許しちゃダメだ」
「ましてや初めて会った人間にそんなこと言うなんて。 俺じゃなかったら、今ので大変なことになってたかもしれないんだぞ」
「……うん、ごめんなさい」
「え、あ……うん、分かってくれたなら、いいんだけど」
思っていたより簡単に引き下がり、謝罪までしたことにどんどん困惑していく。
もしかしてじゃないけど、この子、相当変な子なんじゃ……。
「あー、そうだ、俺まだ君の名前を聞いてなかったな」
面倒な話題になりかねないので、話を逸らして切り替える。
「……沙耶」
「俺は裕太、よろしくな」
まぁ、よろしくできるかどうかは、この子次第なんだが。
余りにも変な事を言い出したら、警察を呼ぶしかない。
そんな気持ちだけ整えていると、沙耶から提案があった。
「ねぇ、裕太」
呼び捨てだった。
「世界の果て、一緒に探そうよ!」
この屈託のない笑顔に、俺は拒否の二文字を忘れてしまっていた。