♥ 出会い
8年前の作品です。
◎ 作中のルビは正しくないかも知れませんが敢えて使っています。
そのまま読んでください。
◎ 全ての漢字にルビを付けました。
森の中に〝 それ 〟は居る。
〝 それ 〟が何時から森に居るのか誰も知らない。
〝 それ 〟の姿を見た者は誰もいない。
〝 それ 〟の声を聞いた者は誰もいない。
それでも〝 それ 〟は森の中に居た。
〝 それ 〟は少女を見ていた。
何時も見ていた。
毎日、毎日、毎日……飽きる事なく〝 それ 〟は少女を見ていた。
少女は何時も1人だった。
何時も1人で遊んでいる。
村を走り回り、野原を走り回り、林を走り回り、森を走り回る。
誰も少女と遊ばない。
誰も少女と話さない。
誰も少女と関わらない。
それは少女が奇姫だからだ。
少女は狂っていない。
それでも少女は何故か、村の皆から『 奇姫 』と呼ばれていた。
奇姫は今日も、村を、野原を、林を、森を1人で走り回る。
〝 それ 〟は奇姫を見ている。
奇姫は〝 それ 〟を知らない。
ある日、森の中で、見慣れない色の林檎を見付けた。
奇姫は丈夫そうな木の枝から林檎をもぎ穫り、一口食べた。
奇姫は生まれて初めて涙を流した。
奇姫は、赤いブカブカなマントで全身を覆っている〝 それ 〟が自分の目の前に居る事に気が付いた。
〝 それ 〟は笑っているのだろうか?
「( 妖精さん……? )」と奇姫は思う。
だから、奇姫も〝 それ 〟に笑った。
奇姫は丈夫そうな木の枝から1つ林檎をもぎ穫ると〝 それ 〟に差し出した。
〝 それ 〟は嬉しいのだろうか?
奇姫から林檎を受け取ると、一口で食べた。
奇姫は〝 それ 〟を気に入った。
その日、奇姫と〝 それ 〟は友達になった。
奇姫は〝 それ 〟から沢山の林檎を貰った。
村に帰って来た奇姫が両手で抱えて持っている林檎に気が付いた老婆。
老婆は奇姫に声を掛けた。
奇姫の周りに村人達が集まって来た。
奇姫の持つ、あまりにも美しい林檎を見た村人達は、奇姫から林檎を全部、奪い取ってしまった。
村人達は奇姫に林檎を「 もっと穫って来る様に 」と話した。
奇姫には理解が出来なかった。
何故、村人達が其程迄に林檎を欲しがるのかを……。
だから、奇姫は、深く考えずに頷いた。
森の中に入ると林檎をもぎ穫り、村に帰ると村人達に林檎を渡す日々が続いた。