どうか私の嫁になって下さい!(三)
はてさて、日が暮れる頃に五人のストーカー、もとい貴公子たちは集合しました。
ある人は笛を吹き、ある人は歌をうたい、ある人は扇を鳴らし、人の家の周りでどんちゃん騒ぎをしている結構迷惑な奴らです。
あきらかに近所迷惑です。
近所の家のおばさんが心なしかこっちを睨んでいるように見えますが、貴公子たちはそんなのお構いなしで騒いでいます。
そこへ、お爺さんが家から出てきて貴公子たちに
「こんなボロ屋に長い間、通ってくださり恐縮ですじゃ。かぐや姫に『早く孫の顔が見たいから貴公子たちの誰かに嫁いで儂を安心させておくれ』と言いましたところ、かぐや姫は『私が希望するものをちゃんと持ってきた人と結婚することにします』といいました。私はそれに賛成しましたが皆様はどう思われますかな?」
と、嘘ばっかり並べ、貴公子たちに合ってるような、合ってないような説明をしました。
貴公子たちは、話を聞いて
―まぁ、金に物言わせりゃなんとかなるだろう―
と思い、その条件を飲みました。
貴公子たちも性格が何だか最悪な予感です。
お金持ちの考えることは分かりませんね。
して、それを聞いたかぐや姫はにやりとほくそ笑み、自分が欲しいものをお爺さんに伝えました。
「噂に聞いたんだけどさー、天竺辺りに‘仏の尊い石の鉢’とか言うのがあるらしいのー。『石』繋がりで、石造りの皇子に頼んでー。でさでさ、何かね東の海に蓬莱って山があるらしいのー。そこに‘茎が金で、実が真珠の木’があるらしいの。この前通販で頼んだら偽物で、みんなプラスチックでできてたから、本物のそれがほしいなぁー。あ、それ庫持の皇子だっけ?そいつにやってもらおうっと♪あ、一枝でもいいからさ。」
何だか現実に無いようなものばかり頼むかぐや姫。
実際、噂話で本当にあるか疑わしいものを希望しています。
お爺さんは、まさかこんな難題が出てくると思わず、唖然としてしまい、返す言葉がありません。
そんなお爺さんのことなぞ眼中に無いかぐや姫の要望はまだまだ続きます。
「あと唐にある‘火鼠の皮衣’だっけ?それを、あーあれ。あの人にやらせて。大伴の大納言とか言う人には、‘龍の頸に五色に光る珠’を取ってこさせて。石上の中納言には‘燕が持ってる子安貝’を一つ。そんなところかなー。」
お爺さんは、かぐや姫の要望を聞いて、たいそう驚きました。
こんな現実離れしたもの、誰が持ってこようかと、儂の老後の暮らしはどうなるのか、と思いまして、かぐや姫に再確認することにしました。
こんなこと言われたら誰だって嘘であって欲しいと願うものです。
「不可能なようなことばっかりじゃのう。そもそもこの国に無いものばかりですじゃ。今一度考え直してみなさらんか?」
お爺さんがなるべく優しく、かぐや姫の機嫌を取るようにそう言いました。
が、かぐや姫は不機嫌そうな顔をして
「はぁ?難しいわけないじゃん。私のこと好きなら簡単でしょ?愛は地球を救うってよく言うじゃん?だったらそのくらいお安い御用じゃないのー?」
なんて言うものですから、お爺さんは仕方なく貴公子たちに事情を説明することにしました。
この事をお爺さんから聞いた貴公子たちは
―せめて『二度と家の周りに来ないで下さい。次来たら警察行きです』とでも言ってくれたほうが気が楽だったのに…―
と思い、しょんぼりして帰っていきました。