ヒロインよ、永遠に!(六)
お爺さんが、大粒の涙を流し泣き伏せっているところに、かぐや姫は駆け寄りました。
「じ……お爺様、泣かないで下さいまし。私だって別に行きたくないのに行くんだしー…です。せめて見送るくらい見送って欲しいのです。」
『!?』
上の括弧は皆の驚きを表しています。
なんせ、あのかぐや姫が敬語を使ったのですから、そりゃあもう驚きますとも。
きっと普段見たく「じじぃ、ばばぁ」とか、「○○だしー」なんていう言葉遣いをしていると、月の都の人に「こいつ、全然反省して無い!もとは罪人なのに!」とか思われるのが嫌だったんでしょう。
けれども、上手く敬語が使えてません。馴れない事をすると、普段の癖がぽろっと出てしまうものです。皆さんも面接などの時は気をつけましょう。
皆は驚いていても、お爺さんはそんなこと気にしちゃいません。我が子が天に行ってしまうのですからそれどころではは無いのでしょう。かぐや姫を引きとめようと必死です。
「どうして儂を置いて行ってしまうのじゃ。儂はもっとかぐや姫の傍に居たい!もっと家を繁栄させて、もっとお前に色々なことをしてやりたい!そんな高貴な人たちならば仲間入りしたいから一緒に連れて行ってくれはしないか!」
もう「お爺さん=俗世の穢れ」みたいな方程式が見えます。我が子が大事なのか、それとも富が大事なのか。天秤にかけたら富のほうが重いような気がします。月の都の人たちも、お爺さんのこういうところが嫌なのでしょう。
「じゃあー、手紙を書き残しましょうです。私の事がー、恋しくなったら読むようにー…なのです。」
「金ー!姫ー!」と泣き喚くお爺さんに、かぐや姫はしどろもどろの敬語でそう伝えると、筆を執りました。
『私がー、月の生まれじゃなかったら悲しませることもなかったんだろうけどねー、ごめん…。゜(ノдヽ)゜。いつまでも一緒に居たいけど、どう考えても無理っぽいしー(´-ω-`;)ゞ私も帰りたくは無いんだけどー。:゜(;´∩`;)゜:。 じゃあさ、この手紙と着物を置いてくからーそれで時々私のこと思い出してくんない?ε-(´・`)私も悲しくて、月に帰っても月から落ちそうな気分だしー(´A`。)じゃあね、今まで本当に有難う、マジ感謝ー\(^-^ 。)♪』
……本当に悲しいんだか何だか分からないほど、顔文字がふんだんに使ってある手紙です。
しかも、手紙には敬語の欠片も見えません。こんな文章を月の王が見たらきっと「やっぱ反省してねーんじゃねえか。」なんて思うことでしょう。
こんな手紙でも、お爺さん達にとっては、かぐや姫から貰う最初で最後の手紙です。喜んでいいのやら、悲しめばよいのやら、考えれば考えるほど涙が止まることはありません。
王以外の宇宙人と言う名の天人の中に、何やらに箱を持っている人がいます。
一つの箱には天の羽衣、もう一つの箱には壺に入った不老不死の薬が入っています。
「壺の薬をお舐め下さい。こんな穢れた者達と一緒に穢れた世界で穢れた食事を摂っていたのですから、さぞかし気分がお悪いでしょう。穢れてるから。」
天人の一人がいやに「穢れ」を強調してそう言いました。聞いている方はイラっとします。
かぐや姫は、それを一口舐めると、残りを脱いだ着物に包もうとしました。きっと形見の品にとでも思ったんでしょう。
けれど天人が包ませませんでした。それも当然です。不死の薬なんてやたらに出回っては大変な事になりかねません。
もう一人の天人が、かぐや姫に天の羽衣を取り出し着せようとしました。すると…
「待って」
とかぐや姫が言うので、天人の動きはピタリと止まりました。
「その衣を着るとー、地上の人とは違う風になっちゃうしー……なるそうです、はい。その前に一言言っておきたいことが。」
と言うと、かぐや姫はまたもや筆を執りました。
迎えに来た宇宙人ご一行はどこか苛々しているようです。




