ヒロインよ、永遠に!(五)
くだらない事をしているうちに、宵も過ぎて、午前零時を知らせる鐘が鳴りました。え?硝子の靴?それはまた別の話です。
――と、その時!!
家の周りが急に昼間以上の明るさになりました。人の毛穴まで見えるほどです。想像しただけでどれほど気持ち悪いか……いえ、どれほどの明るさかお分かりいただけるでしょう。
そして、空から雲に乗った人が降りてきました。その人たちは、地上から2mくらいの高さのところに整列しました。
「番号ー!」
「いち!」
「に!」
「さんしよんごろくななはちきゅう……」
「こら、一人で言うのではない。」
こんな馬鹿なやりとりをしながらも皆真顔です。かぐや姫が以前「あいつら頭固いし、感情なーい」と言っていたのが頷ける光景です。これだけ美男美女が居ると言うのに、笑うことも無く、怒る事も無く、皆張り付いたような真顔の表情なのです。まるで仮面を被っているかのようでした。
この様子を見て、警護に当たっていた人は皆、物の怪に襲われたような気持ちがして、戦う気力をなくしてしまいました。殆んどの人が手や足に力が入らなくなり、ぐったりとしてしまい、とても武器を持って戦おうなんていう雰囲気ではなくなってしまいました。かぐや姫が言っていたのはこういうことだったのですね。
さて、人を見下すかのように空中に立っている人たちは、とても素晴らしい衣装を纏っていました。この世の人とは思えません……あ、この世の人ではありませんね、何て言っても月の都の人ですから。
その人たちは空飛ぶ車も伴っていました。円形の傘が付いているとか、色々と説明が面倒なので、ここでは円形の空飛ぶ円盤とでもしておきましょう。こういう細かな設定は気にしたら負けです。それに月の都の人なんて、言い方変えれば宇宙人なんですから、こんな感じで良いと思います。うん。
その円盤の中にいた宇宙人…いえ、月の都の王と思われる人が家に向かって
「造麿よ、出て来い!」
と、威厳たっぷりの声で言いました。初めて会ったはずなのに、作者さえ忘れかけていたお爺さんの本名を知っているなんて驚きですね。
これを聞いて、お爺さんはふらふらと外へ行き、王らしき人の前でひれ伏してしまいました。今まで威勢は微塵も感じられません。
この様子を見て、王らしき…しつこいので王にしましょう。王が言う事には、
「汝は、心が幼くてちっぽけでどうしようもないな。昔は細々と、地道にお金を稼ぎ正しい生活を送っていたから、少しでもお前の助けになればと、少しの間姫を預けた。お前は、見違えるような金持ちになり、十分に良い生活を送っておる。それなのにまだ、姫を手元に置き、富を築こうとはなんたることだ!姫はこちらの都で罪を犯した罪人、その罪を贖う期間が過ぎたので迎えに来たのだ!それを引きとめようとは、叶わぬこと。早く姫をお出しせよ!!」
確かに、今のお爺さんは富を築き裕福な生活を送っています。
王が言うように「まだまだ富を築くのじゃー!」なんていう願望は、このお爺さんの事ですから全く無いとは言えないでしょう。しかし、かぐや姫を帰したくないというのはそれだけが理由ではないはずです。誰が好き好んで実の子と同じように育てた娘を手放しましょうか?
お爺さんが、答えて言うことには、
「かぐや姫から恩恵を受け……いや、養うこと二十何年になりました。ただの一度も儂のかぐや姫で富を築こうなんて考えたことございません。それに、今『少しの間』とおっしゃいましたよね。私たちにとってかぐや姫との時間は長い時間です。きっと別のところに居るかぐや姫のことでしょう。此処にいるかぐや姫は閉じ込……じゃなくて、病気、そう病気、しかも重病で寝ております。だから行けないでしょう。」
所々に本音やら、苦しい嘘やら――もう、ここまでくると出鱈目を言っているのがバレバレです。
こんなダメダメなお爺さんの言い訳なんか、さらっと聞き流し、空飛ぶ円盤を寄せ、月の都の王は、お爺さんとは正反対の威厳たっぷりな声で、こう言いました。
「さあさ、姫よ!こんな薄汚れ、欲にまみれた人間界にもう居る必要はありません!出てらっしゃい!」
すると、錠を下ろし、かぐや姫を閉じ込めていた筈の部屋の戸がぱっと開いてしまいました。
下ろしてあった格子なども、人が手を触れてないのに開いてしまいます。
さすが、宇宙人。やることが違います。
お婆さんが抱きかかえていた、かぐや姫も外へ出て行ってしまいました。
お婆さんは、空を見上げただ大粒の涙を流すばかりでした。
さて、月の都の王は「欲にまみれた」なんて言ってますが、皆が皆お爺さんみたく強欲だって目で見られるのも、正直迷惑極まりないんですけどねー。