ヒロインよ、永遠に!(三)
このような事を帝が聞いて、「なんということおじゃ!麿のかぐや姫が!」なんて言ったかどうか定かではありませんが、かぐや姫宅に帝からの使者がきました。
「一体何があったんですか!?」
「儂の、儂のかぐや姫がぁ〜〜〜……」
使者は、お爺さんに詳しい話を聞こうとしましたが、泣き止まず、話になりません。
泣いて、喚いて、嘆いて、腰は曲がり、髪は白くなり、目もただれ、とても今年50歳を迎える人には見えません。
……ん?ちょっと待ってください。確か、お爺さんはかぐや姫に言い寄る五人の貴公子たちの件の時に「儂はもう70歳を越えた。とっくに定年してる歳だし、竹取るのもきついし。」なんて言ってましたよね?
実は70ではなかったんです。全然定年しているような歳では無い筈です。そう、あれはかぐや姫を嫁に出すの為の嘘だったのです。「私はこんなに年取ってるんだから早く嫁に行け」と急かす為のものだったんですねー。早いとこ玉の輿にさせたかっただけでしょうが。
「はぁ、いきなり自分の娘が居なくなるなんてさぞお辛いでしょうね。」
そんな事は露知らず。使者は、そう言うとお爺さんの肩をポンと叩きました。
「かぐや姫を帰したくはないでしょう?」
「は、はい。かぐや姫は…ぐすっ、今月の十五日に月から迎えが来るとか申しております。儂がかぐや姫を失うと悲しいように、帝様もきっと悲しいおはずですじゃ。ですから、その日に合わせてかぐや姫の身辺に警護をつけて欲しいのじゃ。そして月の都の者とやらをとっつかまえるのじゃ!!」
何だかお爺さん、急に元気になってしまいました。
帝の力を借りて、かぐや姫を月へは帰さないように何とかしようと意気込んでいるようです。
一方、これに対する帝様のお返事はと言うと……
「あの拳、でへでへ……////おほん、ではなくて一目惚れした麿でさえ帰したくないでおじゃ。なのにお爺さんはどんなに辛い思いをしてるでおじゃか、想像もつかないでおじゃよ。ええぃ、者ども出合えぃ!!至急かぐや姫宅の警護に当たるのじゃ!今すぐでおじゃ!」
「帝様、大変申し上げにくいのですが――十五日まではあと何日かありますよ?」
こんな具合で、当日帝はかぐや姫宅に沢山の兵を派遣しました。
中将鷹野のおおくにと言う人を筆頭に、約2千人もの人が警備に当たりました。当然、この人たちの給金は、民から巻き上げた年貢で出るのですから、たかが女一人のためにこれだけの兵を動かしたと民が聞けば、帝といえどもただてはすまないでしょう。
でも、そんな事なんてこれっぽっちも考えない帝様(むしろ袋叩きになっても喜ぶかもしれません)は、ちゃっちゃと兵の配置を決めました。
まず家の周りに千人、屋根の上に千人……誰でも考え付くような配置ですね。
しかし、ここで良く考えてみてください。「千人乗ってもだいじょーぶ!」なんていう家なのですから、その壮大さが良く分かるでしょう。とにかく、すっっっっっごい屋敷なんです。
家の中の警護はと言うと、元々使用人の数も多かったので、その人たちを隙間無く敷き詰め、警護に当たらせました。当然のことながら警護の者は皆武器を持っています。
かぐや姫宅は、城砦と化し、これから一戦交えるかのような雰囲気です。
さて、肝心のかぐや姫は何処にいるかと言いますと、お婆さんに抱きかかえられ、周囲を厚い壁で囲われた部屋におります。戸には当然の如く、錠前がおろしてあります。その前に控えるのはお爺さん……って、最後の守りがお爺さんなのは、ちょっと危ない気もしますが、お爺さんの言う事には、
「かっかっか。これほどの守り、天人にもまける気がせぬわー!」
だそうです。
更にお爺さんは、屋根の上に居る人たちにも一声掛けました。
「おーい、ちょっと聞いてくれんかー。何か少しでも空を横切るものがあれば構わず射殺してくれーい!」
「はーい、分かりましたー!蝙蝠一匹だって見逃しませんよ?もし蝙蝠が来たら射殺して、見せしめにその辺に吊るしておこうと思います。」
鳥や、蝙蝠たちにとっては迷惑な話です。
かぐや姫のせいで、人間界だけではなく、動物界にも害が出ようとしています。
まぁ、こんな厳重な警護になったのは、お爺さんの計らいなので、一概にかぐや姫が悪いとは言えませんけどね。
動物達の事なんて、これっぽっちも考えず、お爺さんは「これは頼もしい」と頷いていました。