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ヒロインよ、永遠に!(一)

 『もう一度麿の頬を思いっきり叩いてほしいのでおじゃ。あの感触、病み付きになりそうでおじゃ。』


「うざい、マジウザイ!」


こんな風にして、かぐや姫が帝を手紙で罵り…もとい手紙でお互いが心の慰み合いをしている内に、あっという間に3年が経ってしまいました。

かぐや姫の成長は止まったようで、3年経ったからと言って決してお婆さんみたくはなっていません。美しいまま、その姿を留めております。全く都合が良いですね。


 そんなある春の始めの夜、月が美しく空に輝いているのを見て、かぐや姫は物思いにふけるようなりました。

お爺さんが、月を見て団子を連想してそれが食べたいのかと、お婆さんに団子を作らせてみましたが、どうやら違うようでした。

それどころか


「じじぃったら普段どういう目で私を見てんの?浪漫の欠片も無いじゃん!色気より食気!?」


なんて言われてしまい、どうすることも出来ませんでした。

まぁ、普段は色気より食気のかぐや姫なのでお爺さん達にそう思われても仕方が無いのです。

こんなお爺さん達ではなく、御付きの者が「月の顔を見るなんて不吉な事ですよ。」と、止めましたが、隠れてこっそり月を見ては、涙を流すようになりました。

あの、天下御免のかぐや姫が涙を流しているのです。ただ事ではありません。



時は流れ、その年の七月十五日。

その日は丁度満月でした。その日もまた、かぐや姫は縁側に座り月を見て酷く物思いにふけっているようでした。

御付の者達はそんな様子を見て、お爺さんに


「かぐや姫は最近になって普段より月を良く見て、物思いにふけっているようでございます。」


と言いました。

お爺さんの考えは気楽なもので


「あの丸い月を見て、丸顔ぽっちゃりの帝様でも思い出しておるんじゃろ。やはりお年頃かのぅ、はっはっはっ。」


なんて言っています。

しかもサラリと帝の事を「丸顔ぽっちゃり」なんて言っています。あれだけ恩を受けといてなんていうことでしょう。

御付の者はお爺さんの頓珍漢な発想に溜息をつきながら、今度はこの頭がお目出度いお爺さんにも分かりやすく言ってやることにしました。


「あのですね、私が言いたいのはそういうことではなくて。何やら大層思い悩んでいる事があるようですから、気をつけてあげて下さいってことなんです。わ・か・り・ま・し・た・か・!?」


「あ、あぁ。そういうことじゃったんかいな。」


どうやらお爺さんは御付の者の言葉をようやく理解したようです。凄まないと分からないなんて、普段人の話をまともに聞いていないからそうなるのです。

そう言われたのでお爺さんは一応、かぐや姫に直接憂いの理由を聞いてみることにしました。


「これ、かぐや姫よ。何をそんなに月を見て憂いておるのじゃ?儂が官職に就いたりと色々と満ち足りておる生活なのに何がそんなに不満なんじゃ?」


「金銭的に満ち足りて満足なのはじじぃ達だけでしょー?そういうのウザイんですけどー。」


確かに、贅沢三昧が出来て嬉しがっているのはお爺さん達だけです。そもそもかぐや姫は、帝に求愛されようと、どれだけの富を築こうと、そんなものには興味が無いのです。

でも、ずっと貧乏暮らしならそれはそれで文句を言っていたと思いますが。


「……月を見ると世の中が儚く感じられるんだよねー。月の満ち欠けに合わせ時は移ろってくしー。まぁ、嘆いてなんていないけどさー。」


そう言うとかぐや姫は自分の部屋に下がってしまいました。

いつもは食べ物の事ばっかり言っているかぐや姫が、らしくもないことを言うのでお爺さんは心配になり、部屋に居るかぐや姫の所に行きました。


 かぐや姫は自分の部屋でもやはり物思いにふけっているようでした。


「ほれ、やっぱり何か悩んでいるようではないか。あれか?今の暮らしが不満なのか?もっと金や富が欲しいとか…」


「そう思ってんのはじじぃ達だけって何度言わせんの?マジうざいし〜!」


かぐや姫の口の悪さはいつもと変わりませんが、どこか言葉に力が無く、弱々しい感じでした。

金のことしか考えていないお爺さんも、さすがにそれには気付いたようで、やっぱり何か悩み事でもあるんだろうから言ってみろと詰め寄りましたが、かぐや姫は首を横に振りました。


「別に何も思ってないってばー。ただ何となく心細く感じるだけだっつーの。」


「それはきっと月を見るからじゃ。お前が居る限りあの月のように儂の財力は欠けたりせん。だから安心して此処に居なされ。儂のためにも。」


「だーかーらー、思いっきり私欲じゃーん。この業突じじぃ。そんなんじゃなくてさ。第一、月見ないで過ごせなんて無理だっつーの。」


そう言うとかぐや姫は、部屋から出てまた縁側に座り月を眺め始めました。

お爺さんは、ちょっとお金を強調し過ぎていじけたのかと、今更ながら反省しましたが、かぐや姫はお爺さんの言葉なんか気にも留めていませんでした。ただ、月を見ていると心細くなり、けれども月を見ないことも出来ないなんていう複雑な心境なのです。


 月が出ていない時は、物思いにふける様子は無いのですが、月が出ると物思いにふけり、溜息をついたり、涙を流したりしています。

かぐや姫が涙を流したり溜息吐いたりと、この異常事態に侍女達は


「やっぱり何か思い悩んでいる事があるんだわ。」


「そうよ、きっと思い悩んでいる事が……って私の煎餅取らないでよ!」


「隙がある人が悪いんですー。(バリバリバリバリ……)…って辛ッ!!」


「残念でしたー。私は辛いの好きなんで激辛煎餅なんですよー。――で、何の話だっけ?」


と心配していましたが、この人たちも、もちろんお爺さんとお婆さんも、かぐや姫の悩みが一体何なのか分からないままでした。



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