この人ならいけるか!?帝さま!!(三)
お爺さんは家に帰るなり、早速お婆さんに事情を説明しました。
「婆さんや、実はな。いや、耳を貸してくれ……(ごにょごにょごにょ)」
「うんうん……え〜!?…うん…ぐはっ!!」
「ちょ、じじぃ!それどういうことよ!」
仲睦まじく内緒話をする2人の間にかぐや姫が無理矢理割り込んできました。お婆さんは、うつ伏せに床に倒れこみ、お爺さんは腰を抜かしています。
「か…かぐや姫や、いつから其処に――」
「最初から居たっつーの!最初からー!内緒話とかちょーウザいんですけどー。しかも丸聞こえだしー。じじぃは爵位欲しさに私を帝に売るんだー。」
この言葉にお爺さんは何も返せませんでした。言い方が悪いですが、お爺さんがしようとしているのはまさにそういうことなのです。しかし口篭ったのも一瞬のこと。直ぐに「いや、儂らの夢の生活が」と、小声でごにょごにょ言い始めました。
「宮仕えとかー、私向いてないしー。そんなのしたくないんだよねー。でも確かにじじぃ達には世話になってるしー――」
「じゃ、じゃあ!」
「でもー、だったら私、じじぃたちに爵位が手に入ったらその後は死ぬからねぇ?」
一瞬淡い期待を抱いてしまったお爺さんですが、再びかぐや姫が自分たちを突き放すようなことを言うので酷くがっかりしました。
でも良く考えてみてください。お爺さん達は金銭目的でもありますが、かぐや姫に幸せになって欲しいだけなのです。けれども、かぐや姫はそんな事を望んでいません。かぐや姫の為を思うならその意見を尊重し……ってそれが出来れば苦労はしない、やっぱり金銭目的中心ですね。どうやらこの場は良い話で丸く治める事は不可能なようです。
しかもお爺さんは、かぐや姫の「宮仕えするなら死ぬ」っていうのは嘘だと思っているようです。ですから、もう少し説得すればかぐや姫も折れてくれると思っていました。
「爵位が手に入ったからと言って、我が子と会えなくなるのは儂とて辛いのじゃ。それに何も死ぬことはなかろうに。何が嫌なのじゃ?どうして儂達の事をもっと考えてくれないのじゃ!」
最後の一言がいつも余計です。これさえなければいいのにと思いますが、そこがお爺さんの短所でもあり長所でもあるのです。良く言えば自分に正直、悪く言えば自分の欲に正直。
――プツン
「もしかしてさぁー、じじぃは私が死ぬって言ってるの嘘だとか思ってるでしょー?」
音を立て、ついにかぐや姫がキレました。こうなると誰も手がつけられません。暴走モード突入です。
「ええよ、ええよー。だったらー、わてを宮仕えさせてー、死なないかどうか試せば良いだけの話じゃろがい!わてはなー、色んな人の思いを無駄にして此処に居るんじゃい。それなのに、相手が帝だからと言って2つ返事で受け入れたら人聞きが恥ずかしいじゃろがい。分かってんのかぁ?ゴラァ!」
もう一人称とか喋り方とか色々変わっています。いつもギャル語を話している人が急にこんな喋り方を始めたら誰だって驚きますし、怖くなります。
お爺さんもそうなったようで
「こ、これでは逆らわない方が良さそうじゃ。帝にかぐや姫の意向を伝えてこようぞ…」
と行って、逃げるように帝のところへ向かいました。