この人ならいけるか!?帝さま!!(一)
さてさて、話は変わりまして、かぐや姫の器量がこの世に類を見ないほど美しいことを帝がお聞きあそばされました。何故、この性格の悪さが伝わらないのか疑問に思いますが、それはこの辺に置いといてっと。
帝がおっしゃるには
「沢山の人の身を滅ぼしてまで結婚や契りを結ばないというかぐや姫は一体どんな人なのか麿は気になって仕方ないおじゃ。内侍の中臣の房子や、見届けてまいれ。」
だそうです。見届けてくるも何も、「沢山の人の身を滅ぼして」なんて言っといて悪女だと気付かないんでしょうか?帝は危険なかぐや姫わーるどに足を踏み入れようとしている状態です。今なら思いとどまれるものを、その姿見たさに使いのものを出してしまいました。
さて、使いに出された房子さん。かぐや姫宅に着くと、お爺さんとお婆さんが驚いた様子で迎えてくれました。帝からの使いですから驚くのも当然でしょう。というより、この爺さんと婆さんは日本一の権力者にかぐや姫を嫁がせれば莫大な富が――なんていう勘定をして驚いているんでしょうが。
そんな二人のリアクションに特別感情を抱くことも無く、房子さんは此処へ来たわけを説明し始めました。さすがエリート、いちいちツッコミを入れるようなキャラではないということですね。
「帝様がですね、『かぐや姫の容貌が優れているようなので見て参れ』と仰せられるので、お宅にお伺いさせていただきました。」
「ならばそのようにいたしましょうか。」
房子さんの言葉を聞き、今まで全然目立たなかったお婆さんが、かぐや姫のところへ言付けに行きました。
かぐや姫はいつも通り、ポテチをかじりながらテレビを見ていました。口の周りには食べかす、手は油だらけ……こら、絨毯で手を拭くんじゃない!
「ちょっと、かぐや姫や…」
「あっ、ばばぁ久しぶりー。何か用?」
「来客ですよ、来客。貴女に会いたいという人が来てるんです。さぁさ、ちゃんと支度をしなさい。」
「それあれでしょ〜?ほら、杓文字持って歩ってー、人の家の晩ご飯見てくおっさんでしょ?えーと、確か〜……隣の晩ご――」
「ちがーう!帝からの使いの者です。早くお会いしなさい。一攫千金のチャンスかもしれないんですよ!」
さすが似たもの夫婦。お金になる話には目がありません。
かぐや姫は内心呆れていました。ストーカー、もとい五人の貴公子たちは誰一人としてかぐや姫の欲しいものを持ってくることが出来なかったですし、どれも大した男じゃありませんでした。どうせ帝もその手の者だろうと思っていたのです。まぁ、あんな無理難題を遂げられた方が凄いというのが一般論ですが、かぐや姫にはそのように考える思考が欠落していたのです。箱入りに育てすぎてしまったようですね。
しかし相手は帝(の使い)。きっとお婆さんも簡単には引いてくれないでしょうから、何か良い言い訳は無いかと思案した挙句、かぐや姫はらしくもなく「ふぅ」と溜息を漏らしました。
「私さー、そんな可愛くもないし綺麗じゃないでしょー?鏡に聞いたわけでもないしー。それなのにそんな期待されてさー、その期待裏切るようなら申し訳ないもんねー。だから会ーわない!」
おやおや、セリフに異国の御伽話の例えが入っています。ここは日本です。しかも昔の日本です。グリム兄弟など存在しません。無視しましょう。
お婆さんはその言葉を聞いて困ってしまいました。けれども此処で引くわけにはいきません。何て言ったって、相手は帝なのですから。その命令に背くわけにはゆかないのです。
「そう言ってもですね、一攫千金のチャンスを逃すわけにはいかないんですよ。あと、帝の使いの者を疎かには出来ません。」
あれ?帝後回し……?
そんなお婆さんの言い分にかぐや姫は呆れ果て
「はぁ?別に帝が側に置いてくれるって言ってもー、嬉しいとか畏れ多いとか思わないしぃー。」
と冷たく言い放ちました。その態度があまりに冷たいので、お婆さんは気後れしてそれ以上強く出ることが出来ませんでした。
「てな訳で、あの親不孝者は思考回路が幼稚な上に強情なので、貴女様にお会いしそうにありませぬ。」
と、お婆さんは房子さんに事情を説明しました。やっぱりお婆さんの頭の中には富と権力のことしかないようです。でなければ、わざわざ親不孝者とか言いません。
ここで房子さんの思考が高速回転し始めました。
―かぐや姫の顔が見れない→任務失敗→帝に怒られる→同僚の笑いものに……―
「わ、私はですね、かぐや姫の容貌を確認して来いと言われてこんな辺鄙な土地までわざわざ来てるんですよ!?それを何もしないで帝様のところに帰ろうものなら、怒られます!同僚からも笑いものにされ、私の地位や名誉も失われ、プライドもズタズタになります!こうなったら慰謝料どころの話じゃなくなりますよ!?何としてでも連れて来てください!」
頭の良さそうな言い回しをしていますが、どちらかと言うと私情中心です。とにかく要約しますと、「何としてでも任務を成功させたいので連れて来い」と言ったところでしょうか?エリートさんは、自分の身の保身のためなら強く出られるのだから怖いものです。
お婆さんは、仕方なくもう一度かぐや姫を説得に行きましたが
「そんなお偉い帝様のー、命令にー逆らってるって言うんならー、早いとこ私を殺しちゃえばぁ?」
なんて言うものですから、なす術がありませんでした。