燕巣スープ?いや、子安貝。石上の中納言(三)
日が暮れたので石上の中納言が例の寮に居ると、あのくらつ麻呂とか言う翁が言ったとおりに燕が巣を作っていました。
嘘みたいですが、彼が言ったように燕が尾を浮かせてくるくると回っています。
―チャ〜ンス!―
と思い、石上の中納言は大きなかごを用意して、その中に家来を入れて持ち上げました。うーん、この描写だけじゃ良く分からないでしょうから、補足すると井戸水汲む原理です。紐引っ張ると持ち上がる感じ。この時の為に石上の中納言は前々から用意をしていたのでした。
燕の巣の近くまで持ち上げられた家来は、燕の巣の中に手を入れましたが、何も見つかりません。
「たいちょー、何もないであります!」
「誰が隊長だ。誰が。もういい、僕しか出来そうにない、ちょっと降りろ!」
そう言うなり、石上の中納言は家来を籠から引き摺り下ろすと、自分が籠の中に入り家来達に持ち上げるように命じました。
燕の巣の仲で未だに、燕はくるくる回っています。燕が後ろを向いた瞬間に石上の中納言は巣の中に手を突っ込み、そして歓喜の表情を浮かべました。
「やった!!あったよ!僕は何か掴んだ!!下ろして、下ろしてって……ぎゃ〜〜!!」
テンションの高さといい、子供っぽい言動といい何となくウザくなったので家来は持っていた紐をぱっと放しました。案の定籠は急降下。籠は壊れ、何とも美しくないかたちで石上の中納言は壊れた籠の下から這い出してきました。
「痛いよぉ〜、何するんだよ〜。僕は今とーっても機嫌がいいから何があっても許してあげちゃうけどさぁ、普段の僕だったら切腹とか命じてるよ〜?君の命だけじゃ済まないからね〜?君の家族もみーんな鏖だよー?」
イタイのはお前の頭だと言いたいのは山々ですが、何か物騒なことを言っているので口に出すのは辞めませう。
とにかく、石上の中納言は手に何か握っているようです。本人は確認もせずに伝説の子安貝だと喜んでおりますが、果たして本当にそうなんでしょうか?
それを確認する前に、一つ確認。石上の中納言、立てません。這い出してきた体勢のままです。
「あのー、一体何をなさってるんで?」
「白々しいねー、君たちは!君たちのせいで腰打っちゃったんだよ!」
どうやら落ちた瞬間に腰を強打し立てないようです。ギャグ漫画みたいな展開のくせして、こういうところではしっかり再起不能です。
こんな莫迦殿はほっといて、問題なのはやはり彼の手に握られているものでしょう。
辺りはすっかり暗くなっているので家来の一人が蝋燭を持ってきました。
蝋燭の灯り下で手を開いてみると、そこにあったのは何と!!!
「……殿、これは…」
「………こ、これは……」
その手に握られていたのは燕の古い糞でありました。
「嘘だ〜!よりにもよってこの僕がこんな汚いものを…ってか何で子安貝じゃないんだYO〜」
「おいたわしや、手の中に貝はない…ん?貝がない…甲斐がない!?」
甲斐なしはここから来てるといわれています。
「どーでもいいよ〜、そんなことは〜」