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敢え無い!阿部のみむらじ!!(二)

 右大臣安部のみむらじは早速、王慶が送ってくれた‘火鼠の皮衣’とやらを見るために包んであった風呂敷を解きました。

その品は箱に入っていたのですが、まぁその箱というのもとても立派で様々な瑠璃を混ぜて細工してあります。この箱だけでも相当な価値があるものと思われます。

そして、肝心の中身である‘火鼠の皮衣’ですが、こちらもまた立派で紺青でありながら毛の先は金色に輝いてました。

こんな立派なものは見たこともありません。

鑑定に出せば必ず「いい仕事してますねぇ〜」なんて言われそうなくらいすごい貴重な品のように思われました。

もう、火に焼けないとかそんなのが問題じゃなく、どう言ったら良いかわかりませんが、とにかく凄いんです。

その美しさには右大臣安部のみむらじも惚れ惚れしてしまいました。こんなお宝は私の家で保存しておきたいと思いつつも


―嗚呼、成る程。このような品ならかぐや姫もさぞ欲しがるだろう。毛皮店に行ってもこのような品は拝めまい。―


などと考え、この品を送ってくれた王慶が居る唐の方を向いてもう一度お辞儀をしました。

その後、すぐに‘火鼠の皮衣’を箱の中にしまい、木の枝につけ、自身の化粧をして、


―今日はこのままかぐや姫宅にお泊りだな。うっしっしー―


と思い、歌を添えて持っていくことにしました。

その歌は


『かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣袂かはきて今日こそは着め(訳*今までの思いは火のように燃え上がって、濡れていた衣も乾くでしょう。心地よい着物で初夜が過ごせそうですねぇ。)』


と、詠んでありました。


 右大臣安部のみむらじは皮衣を持って、かぐや姫宅の前で立っていました。

近所の人に「あの人何かしら〜?門番かしら〜」という目で見られていても、まったく気にしません。

そのうち、お爺さんが出てきて例の品を受け取り、かぐや姫に見せるために家の中に入っていきました。

かぐや姫は、おじいさんからそれを受け取り、せっかく右大臣安部のみむらじが詠んだ歌は「何か下心まーるみえー」と言ってポイッと投げ捨て、箱の装飾も気にせずに‘火鼠の皮衣’の品定めを始めました。


「立派な皮に見えるけどー、立派過ぎるっていうかイメージと違うっていうかー。てかー、本物かわかんないしー。」


そんな事をぼやくかぐや姫に対してお爺さんは


「とにかく!あのお方を招き入れてあげなさい。世間では類を見ない立派な衣じゃ。お前がそうやって結婚を断って世間の人を惑わせるのはよくないことだぞ。なんせ儂の夢見たリッチな生活が中々果たせないのじゃから。」


「思いっきり私欲じゃん!!」


そんなこんなで右大臣安部のみむらじを座敷に呼んで座らせました。




―今度こそ、今度こそかぐや姫を結婚させて豊かで安定して安心した生活を!―


と、お爺さんだけでなく厚化粧して出てきた以来出てこなかったお婆さんもそう思っていました。

夢の生活が出来ないこと…いえ、かぐや姫が結婚しないことを二人は大変嘆かわしく思っていたのです。

「身分の高い人と結婚させて、自分達の身分も高く!」なんて思って画策するのですが、かぐや姫が遠まわしに「嫌〜」というので、強制できずに居ました。

だからこの期待も最もなのです。

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