4、ファーザン・ドウアーの出会い
オレたちは途中休憩をしながら、登り続ける。まだ夏に入っていないのに、すごい暑さだ。ソロイとサリィは静かに語り合っている。オレはサリィを後ろから見た。
助けた時は気がつかなかったが、よくよく観察してみると、サリィは背がでかいし、耳がとんがっている。昔話で見かけるエルフか。髪は海のように青く、さっき見たところ、目はエメラルドの色だ。オレはそんな事を考えながら進む。
サリィの話では、この山のてっぺんには、誰も知らないお宝が眠っているそうだ。遊び半分でここに来たけど、お宝と聞いたら立ち止まれないのがネバル家の特徴だ。ははは。
オレは上を見る。山頂まで、まだまだありそうだ。すでに三時間ほど歩いたが、まだ半分にも到達していない。ソロイが言う。
「ここは地形がいいから、休憩しやすい場所だな。ここらでちょっと足を休ませよう」
「あと何時間で山頂に着くんだ?」
「高さからすると、あと二時間半だな。上に登るにつれ、道が短くなっていくからな。半分まで来てなくても時間はそれほどかからないはずだ」
「ソロイの言う通りだわ。でも、道はだんだん悪くなっていくから、もう休憩できないかも知れないわ。だから今のうちに休まなくてはいけないわ」
「はい、そうやってー!」
最後の言葉はオレら一行が言ったんじゃない。向こうから痛快な笑い声とともに聞こえたんだ。
オレらは変な気持ちになりながら、声の聞こえた方へと行ってみる。ソロイはひゃっくりをし始めた。ひっく、ひっく。
そこには、二人の男が岩に腰掛けながら、話をしていた。一人は背中に剣をせおっていて、時々聞いていて気持ちのいい笑い声を出している。声のトーンからすると、こいつが「はい、そうやってー!」なんて意味の分からない言葉を言ったんだな[実際にそういうセリフを言う友人が、中学生時代の作者には存在していた。いわゆる身内ネタ]。身長はソロイくらいあって、二メートルいくかいかないかくらいあって、体格はちょっと太っている。もう一人の男は姿からすると聖職者のようだが。
ソロイが声をかける。
「あなたたちは、ここに何をしに来たんだ?」
すると剣をもった男が言う。
「まあまあ、そんな事言わないで、すわれよ。少し話そうナン」
ナン? オレとソロイは顔を見合わせた。ナンと言えば、ファンジャウとか南国の地方でしか食べることのできない、一種のパンだ。主にカレーをつけて食べるんだが、なんでこの変な男は語尾に「ナン」をつけるんだろう?
その男はすごい視線でもう一人の男をにらみつけている。そしたら、にらみつけられた男は笑いながらある物を取り出す。これは……ナンとカレーだ。どうやら、変な人たちに会ってしまったらしい。
まず、向こうから自己紹介をした。片方[の手]でナンにカレーをつけ、もう片方でそれを口に運んでいる男はナオ・チャンというらしい。オレが「なぜナンを食べているんだ?」と聞いたら、ナオは「好きだからだ。悪いか?」とつっかかってきた。なんなんだよ、この男は? だ、誰か説明してくれぇ!
そして、もう一人の男はザーロックと呼ばれている、と答えた。やっぱり聖職者、つまりプリーストで、エーデルブローにつかえているといった。
次にオレたちが名前を順番に言った。ナオとザーロックは自己紹介を受ける度に、うなずいている。ナオは言う。
「ほお、少年にエルフに屈強な戦士か。冒険家にしてはちょっと不安なメンバーだが」
「違うって。オレたちは冒険家じゃなくて、近くの領地に住んでいるただの少年と青年だよ。あ、こっちのエルフさんは遠くから山のてっぺんにある宝を探しにはるばる来たけど」
「でも、その手袋、OSGだろ。よほどの事がないとそんなものを手に入れるのは難しいナンよ」
「なんで、言葉の語尾に『ナン』をつけるんだよ!」
「ナンは、ボクの命の源だからだ。ところで……」
ナオは、休むことなくしゃべり続けている。時が三〇分ほどたったところで、突然ザーロックが言いだした。
「ナオ、何かが来る。おしゃべりを止めるんだ」
「まあ、待て待て。この出会いこそ、ファーザン・ドウアーの運命的な出会いだ。こんな時は……」
「しゃべるな!」
ザーロックが言うと、ナオは言った。
「はい、そうやってー!」
そして、口を閉じて、「みんな、戦闘できる準備をしろ」と言った。
しばしの沈黙のあと、姿を現したのは人間ではなかった。魔法を使う闇の魔物、ダークロストだ。
ダークロストはオレたちに気づくと、早々と呪文を唱えた。
「ロックブラスト!」
唱え終わった瞬間、なんと上の岩が崩れた。くそっ、岩がでかいし、数もはんぱじゃないから、どこにも逃げる場所がない。オレたちはあわて、どうすることもできなかった。
ただ一人、ザーロックを除いて。
ザーロックはプリーストだ。神力を使うことのできる数少ない一人だ。ザーロックは手を落ちてくる岩に向けて、呪文を唱えた。
「ディバインバリアー!」
すると、盾のような膜ができ、岩がそれに当たると、はね返ってどこかへとんでいってしまった。
そして、すぐさまナオがダークロストに向かって走った。あの太った体で、なんというスピードだ! そして、剣をぬき、呪文を唱える。何、ナオが、魔法を?
「ドレットスマッシュ!」
そう言って、剣を振った。すると、剣から、全長二・五メートルはある鮫の形をしたものが、ダークロストの体に当たった。ダークロストの体は、一瞬で骨になった。
オレたちは、言葉を失ってナオとザーロックを見ている。あの痛快な笑い声を出していたナオ・チャンはどこへ行ったんだ?
「まったく、ここらへんは魔物にとっても住みやすい場所だということを忘れていたナン」
「そうだな。おい、ソレイユ、ソロイ、サリィ。ここから早く立ち去るぞ。さっさと立て」
「ち、ちょっ、ちょっと待ってくれよ。ナオが魔法を使えるなんて、全然聞いてなかったんだけど」
「ああ、ごめん。できれば、その事実は知られたくなかったナン。さあ、はやくここを去ろう」
「……分かったよ」
オレはそう言うと、立ち上がった。ソロイとサリィも立ち上がると、ナオとザーロックを先頭にオレたちはまた登り始めた。
オレたち五人は、日差しに手をそえながらも、楽しく登っていた。時々、ダークロストや、その子供のロストなど、それにオークやスライムが大量でオレたちにおそいかかってくることもあった。しかし、ナオの魔法で殺すか、逃げるかして敵から身を守ってきたが、逃げる方が多かった。
「なんで逃げてばっかいるんだよ? 魔法でぱっぱとやっつければいいじゃないか」
オレの質問だ。それにナオが答える。ナンを食べながら……。
「魔法には、一日に使えるエネルギーの数値が決まっているんだナン。攻撃魔法、防御魔法、回避魔法のうち、回避魔法が一番消費するエネルギーが少ないんだ。だから、逃げてばっかりいるんだナン」
オレはサリィを見た。サリィは、ナンという食べ物に夢中になっている。いろんな角度から見たり、食べたりしながらも、時々オレたちの話にはいってきたりする。エルフってのは、不思議な種族だと思いしらされた今日この頃だ。
ソロイに時間を聞いてみると、午前十一時半を過ぎている、と言った。ちくしょう、腹が減った理由でオレが足を引っ張るわけにはいかない。ということで、オレの腹は限界に近い状態だ。
ん?
今、ブーンっていう音がしたぞ? みんなも、それに気づいたようだ。
「この音は何だ……?」
しかし、オレらは無視して歩くことにした。時間がたつにつれブーンという音は大きくなる。
ついに、ナオがキレた。
「ちくしょう、この音は何だナン?」
この状況で『ナン』と言えることに少し疑問を感じたが、そんな事よりも、音だけがこの静かな山に響きわたる。
ブーン、ブーンという声に混じって、呪文の声がひびく。
「ハイドキュロード!」
その瞬間、オレは気を失った。




