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4、最高の復讐

「それじゃあ、公爵のいる部屋までの道はフルーナが知ってるってわけね」

「はい。案内できます」

「よーし、出発するわよ、みんな。きっと荷物もそこにあるわ」


 ソラたちと合流して、より一層にぎやかになったな。Cさんは兵士が持ってきてくれたんであろうおむすびを食べながら言う。


「ここまで来るのに大変だったんじゃないか、ソレイユ?」


 ダイスも心配そうに言う。


「兵士とかはいなかったんですか? 脱走したことが城全体に通報されたら……」

「あ、それなら問題ないよ。今頃は酒やビールが入ってるビンを抱いて眠ってるはずだから」

「城中そうなのか?」


 オレはシェードを指差す。


「こいつが魔法で確認してくれたよ」

「そうか。ならば、部屋へ行くのにそれほど邪魔にはならないだろう。そろそろ動くとするか」


 オレたちは堂々と歩いて行く。フルーナの話によれば、夜は全く警備していないようだ。こっそり、城のお宝でも盗んでおくか? やめたやめた。オレなんかが所持してても、豚に真珠だってのは、自分自身がよく知ってるからな。うはは。


 先頭のCさんがいきなり止まった。ガチャガチャ音がするって事は……ドアにカギが?


「私にまかせろ。アンロック」


 カチャ。心地良い音がすると、扉のカギがいとも簡単に外れた。シェードって、昔は盗賊でもしてたんじゃないのか? 彼にきいてみると、笑いながら答えた。


「まさか。私は動きが鈍いからそういうのにはむいてないよ。ちなみにカギをしめる呪文はロックというんだ」

「へえ」


 扉の奥にあった階段をのぼると、かなり大きいホールがあった。何よりおどろいたのは、よっぱらっている兵士たちがそこで寝ている事だった。こいつら、ベットもないのか? そう思っていたときだ。


「あっ。お前らは、公爵様にはむかった連中だな。おーいみんなー、こいつらをつかまえろー」

「おー!」

「な、なんかヤバくないか?」


 Cさんは沈痛な顔だちにして、やはり堂々と言う。


「こういう場合はな、逃げた方がいいんだよ。フルーナ、道を示してくれ」

「は、はい」

「待ちやがれー、脱走犯―っ!」


 マズイ! ホールにいた兵士は全員でオレたちを追跡してくる。追跡の的であるオレらは、死にものぐるいで走る。


「うわあああーっ!」


 すごい大群だから、ほんと怖い。上に行く階段が見えてきたときには、生きてる事を実感した。二階に行く階段をのぼろうとしたときだ。


「追いつめたぜー」


 ちくしょう……。兵士の一部は先回りして階段の近くを見張っていたんだ。逃げ場を失ったオレたちはじりじりと壁側においつめられていく。もう終わりか……と脳裏によぎった瞬間、シェードの声が聞こえた。


「レンクス!」


 な、なんと、壁に穴があいていた。急いで仲間やオレが飛び込むと、穴はふさがってしまった。


 ソラがため息をついた。


「ふぅー。助かったわね。でも、ここってどこなの?」

「大丈夫です。この部屋の奥に隠し通路があります。公爵の部屋に直接つながっています」


 これは便利だな。どうやらこの部屋の上が公爵の部屋だな。だが、キョロキョロしてみても、上に行くはしごとか階段はない。そんなオレを見たフルーナはくすっ、と笑い、本棚にあった一冊の参考書を引っ張る。一秒もかからずに壁の一部が消えて、道があらわれた。少し先にははしごが見える。


「この通路は、公爵様がもしものためにと作った逃げ道なんです」

「まさか、そこから入ってくるなんて夢にも思わないだろうな」


 Cさんが楽しそうに言った。オレの推測も、あのバカ公爵はすっかり安心していびきをかいてると思うな。はしごをのぼって天井の扉にカギがついてないところからしても、間違いない。


 扉をぬけて部屋にたどりつく。寝室はそれほど広くなく、明かりはつけっぱなしだった。ベットの横にはお菓子が山のようにつまれているのを確認して、Cさんの顔を見る。


 彼は驚きの声をあげた。


「おおっ!」


 Cさんは誰よりも速いスピードでお菓子を食い尽くす。おいおい、あんなにむしゃむしゃと音を立ててたら、いくら何でも侯爵が目を覚ますぜ?


 それから十五分。お菓子が全部なくなっても、やつは気づかずに眠っている。しょうがない。オレはそうっと剣を抜く[どうして武器を取り上げられたはずのソレイユが剣を持っているのかは疑問である]。ライジングソードの先端がピカッと光る。フルーナは軽く「ひえっ」と言った。そうか、彼女にまだライジングを見せてなかったんだっけ。オレはみんなに向かって人差し指を口もとで立てて、公爵に近寄る。ゆっくりと彼の体とライジングとの距離が縮まっていく。


 そして、接触。


 バリバリバリッ!


「ぎゃ――――」


 公爵の骨が一瞬だけ見えたかと思うと、寝たままの姿勢で一メートルほど飛び上がり、床に思いっきり叩きつけられた。公爵はしばらくうんうんうなっていたが、オレたちに気がつくと顔がまっ青になった。


 Cさんが説得する。


「さあ、夜中に悪いがグッグルの人々を解放してくれ」


 公爵はにやにや笑っただけで答えない。オレはついに我慢できなくなって、拳を振り上げようとしたとき、シェードが止めた。


「こいつには荷物のある場所を聞かなくちゃいけないだろう。それに、もっといい方法がある。見ててくれ」


 そう言って呪文を唱える。


「シンク!」


 シェードの手が公爵に向けられると、公爵はびくんと体を震わせる。いったい、何が起こってるんだ? しばらく待つと、シェードは手を下ろして言った。


「今のは心を読む魔法だ。やつに人々を解放する意志は全くなしで、城を返す気もないようだな。ちなみに、私たちの荷物のある部屋も分かった。サリィ、ソラ、ダイスは取ってきてくれないか」

「分かったわ」

「分かりました」

「で、その部屋はどこに?」


 シェードが伝えると、すぐに三人は行ってしまった。シェードは向き直り、公爵に言う。


「人々を自由にしなければ、力ずくでもあなたを従わせます。もう一度聞きますが、グッグルを解放してもらえませんか?」


 公爵は一気にしゃべりだす。


「何だと? ハエの集まりが、きやすく人間様に命令するとはな。殺してやるぞ。そのちっぽけな命で、さっさと城から、いやグッグルから出てゆけ!」

「出てゆくのはあなただ。ゼノス!」

「黙れ、この……」


 お? いきなり、公爵の口がふさがったぞ。ゼノスっていう魔法の効果かな? 話の主導権をにぎったシェードは、何もしゃべれない公爵をほっといてオレとCさんに言う。


「あの三人に荷物をとらせにいったのは、私が彼に邪悪な事をするからなんだ。とりあえず見ていろ」


 シェードは再び呪文を唱え始める。


「ラ・シンク!」


 また新呪文か。シェード、あんたいくつ魔法が使えるんだよ。いろいろなものに精通しているから、よほどの上級魔術師だとわかる。この呪文も、おもしろい能力があるんじゃないか?


 時間が過ぎるにつれ、公爵の顔がゆがみ始める。ついには、頭をかかえて床でじたばたしているありさまだ。Cさんはとうとう反論する。


「シェード!」

「うるさい! 静かにしてろ!」


 あまりの声の鋭さに、Cさんは絶句した。けどどなったシェードの声はどこか悲しげだったのは、オレの気のせいだろうか。


 さらに時間がたつと、公爵は苦しむのをやめた。それを見たシェードもだらりと力をぬく。ひざをついてはあはあ言っている。オレ、Cさんは彼のところに行く。


 まずオレがたずねる。


「なあ、あいつ、どうなっちゃったんだ?」


 するとシェードはうっすら笑いを浮かべて答える。


「心に暗示をかけたんだ。これでやつは一生良い人間になったんだ」

「えっ? という事は!」


 シェードはうなずき、短い言葉をつぶやく。すると公爵はいつのまにかしゃべれるようになっていた。


「君たち、私は何をしていたんだ? 予想だが、とんでもなく悪い事をやってたと思うんだが……」


 Cさんがそれに答える。


「あなたは今、人々を自分勝手に支配していたんですよ。さらに持ち主から城を奪ったりもしました」

「おおっ、それはいけないじゃないか。今すぐ、明日にでもグッグルのみんなに謝らなくちゃならんな」

「明日のために、今日は寝ておいた方がいいぜ」

「そうだな。ありがとう。おやすみ」


 部屋から出ると、急に涙があふれてきた。Cさんも涙声だ。


「シェードにはまいったよ。一つの都市を救っちゃうなんてな」

「話からすると、グッグルの明日は輝いてるってわけ?」


 びっくりした。部屋から出たすぐ横に、ソラたちがいたとは。オレは荒っぽく涙をぬぐってうなずく。だが涙は止まらない。それに気づいたソラは自分のハンカチで涙をふきとってくれた。寒い廊下が温かい空気に包まれる。


「明日公爵がみんなに謝るって」

「それじゃあ、僕たちは宿に戻りましょうか」

「フルーナも来いよ。いや、お前は来なくちゃいけない」

「ど、どういう事、ソレイユ?」


 オレは答える代わりに彼女の荷物を見る。その荷物の中にはオレのも入ってて、宝石も確かオレの荷物にあったはずだ。


 今、何かが力強く光っているのがフルーナの持っている荷物を見て分かる。


 そう、言い伝えでは、ジュエル・ハンターズが宝石を持つとき、強く光るんだ。もう分かっただろ?


 他のみんなもフルーナを見て言葉を失う。オレが彼女に説明すると、意外にも真正面からこの事実を受け止めてくれた。


「私……母に言われたわ。あなたはジュエル・ハンターズだぞって。だから、もう覚悟はできてるわ」

「よし。これで四人目か。ありがとな、フルーナ」

「そんな。だって、ヘーレゴニーの危機なんでしょ? 私も協力したいの」


 その後宿に着き、軽めの夜食をとって風呂に入り、倒れるようにベットに横になった。




 朝だ。まだ眠たかったが、外がうるさかったからなんとなく起きて、顔を洗う。仲間は全員疲れてまだ起きない。オレは窓から外の様子を見る。


 やっぱり、公爵が人々に謝っているのが見えた。人々は解放される喜びを拍手で示している。


 おっ、ついに終わったみたいだな。民衆はうたい、おどり、食べて楽しんでいる。まるでお祭りだな。公爵は完全に生まれ変わったみたいだな。これでひと安心だぜ。


「ん……? この騒ぎは何だ……?」


 目を覚ましたのは、Cさんだ。それから次々とみんなも起き始める。ダイスは寝グセのついた髪をいじりながら言う。


「このまま出発しちゃいますか?」

「待て。その前に話さなくてはいけない事がある」


 シェードが大きい声で言った。Cさんがもじもじしながら言う。


「オレにその話は関係ないかな? 実は、急ぎの用があって……」

「ああ、Cさんは関係ないから、行ってもいいよ」


 彼はすぐに宿から飛び出した。そんな姿にほほえみ、[オレは]シェードに言う。


「で、話す事は何だ?」

「まず、これを見てほしいんだ」


 ボウン。シェードが立っていたところには、一人の老人がいた。


 こいつは……ドル・スペラーじゃないか?


「じいさん、あんただったのか!」

「ふほほ。魔法で姿を変えて行動するのは大変だったわい。ソラよ、ファントムは?」


 いきなり質問されたソラは少したじろぐ。


「はい?」

「ファントムはどうなったんじゃ」

「ドル老人からもらった魔法の紙で見事撃破しました」


 するとドルは暗い顔になる。


「わしの本名はドルではなくてジェレムント。ジェレムント・ティンカーじゃ。わしはおよそ二百年間生き続けてきた。アルティマに不死身にされたんじゃよ」

「アルティマ? 聖天使アルティマか?」

「そうじゃ。ジュエル・ハンターズを導けと命じられたんじゃ。それと、ソラ・ヘーレゴニーにもちっとは助言してやれるぞ」


 ドル……じゃなくてジェレムントはそう言い残して消えてしまった。フルーナにはあとでゆっくり説明してやるか。オレはつぶやく。


「どこに消えたんだろう」

「ルアンパバーンだと思うわ。導きさせるためには、まず私たちからおもむいていかなければならないようね」

「そうだ。オレらが動かなければ、チャンスをつかみそこねてしまう」


 オレたち五人は幸福にうたう人々を横目でちらっと見てから、ルアンパバーンに向けて走り出した。

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