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3、支配人の企み(2)

「ここがおそらく公爵のいる部屋だろう」

「入るぞ」


 ガチャ。ドアを開けて入ってみると、庭みたいに広い室内がそこにあった。奥には金色の服を着た中年の男が一人座っている。あいつがドレン公爵か? そいつはいきなり立ち上がり、手を広げて言った。


「ようこそ、我が城へ」

「盗んどいて、よく言うぜ」


 オレが遠慮なく言うと、ドレンのまゆ毛がぴくっと動いた。


「礼儀知らずのチビは、水遊びでもしてるがいい」


 こいつ、オレと言い争いをしようってのか。いいだろう、受けてたとう。


「水遊びをするのは、ひな鳥みたいなあんたの私兵なんじゃないか?」

「ふん。本当に礼儀を知らないようだな。だったら、ひな鳥かどうかを自分の目で確認してくれ」

「えっ?」


 ドレンは指をパチンとはじいた。やつの悪意に満ちた笑みを見た時には、すでに私兵に包囲されていた。


「どうするつもりよ?」


 ソラがおそるおそるきくと、ドレンはさらににんまりと笑う。


「一生牢屋に入れておくつもりだ。ん……? 貴方はもしや、ソラ・ヘーレゴニーか?」

「そうよ。だから、今すぐ解放しなさい! これは王家に対する反逆になるわよ!」

「非力な権限でこの私の意志を止めようとするな」


 ドレンはよゆうをもって言い返す。あいつ、まさか馬鹿か? ここまで来れた実力を知らないからあそこまで堂々としていられるんだろう。オレは剣を抜いた。


「公爵だかなんだか知らないが、オレらが要求するのは、人々の自由だ。要求に答えてくれれば、あんたを許してやってもいいぜ」

「死ぬ事になるが、いいか?」

「ごちゃごちゃ言うな! シェード、頼む」

「ギガ・ドラクス!」


 破壊光線が四方向に発射されると、私兵の3分の2が倒れて動かなくなる。


「この状況を見ても、まだつっぱってられるかな?」


 ライジングをドレンに向ける。やつはぶるっと体を震わせたが、今度は口笛をふいて言う。


「こっちも魔法だ! あいつらを殺せ殺せ!」


 すると横の扉からローブを着た男たちが十人くらい出てきた。あいつ、いったい何人手下がいるんだ? さっき百五十人()ったのに、まだ三十人はいる。魔術師十人の前に、なんとかドラクスから逃れた私兵が並ぶ。しかし、シェードが呪文を唱え始めると、一斉にどこかに行ってしまった(魔術師も含めて)。これであっちはドレン一人になった。シェードが呪文をドレンに使おうとした、その時だ。


「魔法を使えば、この少女を殺す」


 ちくしょう! やつは、偶然通りかかった下女を人質にとりやがった。手には、ダガーがにぎられている。シェードが唱えるのをやめると、逃げたと思っていた私兵たちがオレたちをとり囲む。


「おとなしくしていなければ、こいつの命はない」

「この卑怯者!」

「はっはっは。うわーっはっはっは。ぎゃはははは!」


 ドレンのむかつく笑い声をききながら、オレたちは牢屋に連行された。


「ちっくしょー!」




「厳しい夜になりそうだな」


 シェードがふるえながら言った。オレもできるだけ体を丸めているが、サリィだけは大丈夫だ。


「サリィ、寒くないのか?」

「ええ。私たちエルフは、どんな天気にも調和するから」

「そうだった」


 しかし、本当に冷えるな。砂漠の夜と変わらないくらいだ。オレは息で手を温めながら、辺りをよく見る。


 ドレンに連れてこられたのは、グッグル城の地下牢だ。さらにあいつは、なぜかは知らないけど2グループに分けて閉じこめたんだ。こっち側にはオレ、サリィ、シェードの三人で、あっち側にはソラ、ダイス、Cさんがいる。そして、外は兵士がうろついてるから怪しい行動はとれない。シェードは「とりあえず、兵士がいなくなるのを待とう」って言ってるが、まるで立ち去る気配がない。オレは暇だからシェードに話しかけてみる。


「早くここから出ないと、ソラたちが心配だ」

「んー、よし、そうだな。そろそろ脱走するか」


 彼はそういうと、呪文を唱え始める。だが城の兵士どもは声に気づき、四人が弓矢を持ってくる。


「お前、口をふさがないと矢が暴れだすぜ」


 シェードはおとなしく唱えるのをやめる。兵士がどこかへ行くと、オレはOSGのついてない拳で壁を叩く。


「ちくしょう! ドレンの野郎、あんな幼い少女を人質にするなんてな。あの子は無事かな」


 サリィも暗い顔で言う。


「私たちが来たせいで危険な目にあってしまって……」

「グッグルの警備兵は何やってんだ」

「きっと多額の給料を与えて、自分のものにしてしまったんだろう」


 オレはドシンと床に座る。くそっ、このままつかまってたら、その間に帝王は力をつけていって、戦争をしかけるだろうな。指導者とかリーダーのいないヘーレゴニー軍は、帝王側に負けてすべてを支配されてしまうだろう。そんな事、許されてたまるかよ!


「あの……助けてあげましょうか」


 何だ? あっ、さっき人質になった少女だ! 手には食料とカギを持っている。オレたちは、ゴキブリのようにその少女のところに集まる。


「どうしてここが?」


 少女はひかえめに答える。


「ドレン公爵様に……食べ物を運べと命じられて……」

「そうか。さあ、オレたちを出してくれ」

「い、今はダメです……兵士さんたちが、私を見張ってます」

「じゃあ、食べ物とカギを渡してくれ。もちろん、気づかれないようにな」


 少女は体で隠しながら、怪しまれない程度の時間でオレたちに渡した。これで、いつでも脱出できる。サリィもにこにこしているし、シェードもすごく喜んでいる。


「きみの名前は?」

「あの……私はフルーナ。フルーナ・ヒャラドです」

「ヒャラドだと?」


 シェードだ。彼は目を丸くしてフルーナを見ている。顔は、ずいぶん青ざめている。


「ん? ヒャラドがどうかしたのか?」

「……」


 シェードはしばらく黙ったままだった。がまんできなくなってオレがしゃべろうとすると、ついにシェードが話しだした。


「ヒャラド族。昔ヘーレゴニーにいくつもの領地を持ってた伝説の魔族だ。人間離れした魔力を持ち、中でも回復能力に優れていると聞く。しかし、およそ三百年前のセリヒュラデン戦争のときに全滅したはずだ」


 フルーナはうなずく。


「言い伝えではヒャラド族は全滅しました。けれども、わずかに生き残った者たちは能力を捨てて、人間社会にとけこんでいったのよ」

「まさか……今までの歴史観ががらりと変わってしまうぞ……」


 シェードはとうとうひざをついて、うなだれてしまった。おいおい、これじゃあ、オレの居場所がないじゃないか。そこで、共感するフリをしてうなずくしかなかった。気になることをまずフルーナにきく。


「なあ。まだ、魔力って持ってるのか?」

「ええ……。小さい頃、親によく練習をさせられたから。私が十歳のときにドレン公爵にバレて、両親に私をゆずってくれと頼んだらしいわ。それに応じない親を……ドレン公爵は……」

「ま、まさか、殺したのか?」


 フルーナは泣きくずれてしまった。おろおろするオレに兵士がひやかしをとばす。


「お、フルーナを泣かしちゃったよ」

「あーあ。泣きやむまで、お守りしてくれよ」

「泣きやんだら、脱走できる電車に乗せてやってもいいぜ。ただし、終点は天国だけどな。ぎゃははは!」


 くそっ、さんざんやってくれたな。武器とOSG、ESBを取り戻したら、ぶっころしてやる。復讐する方法を思い浮かべていた、その時だ。


 兵士たちが空にうかんでいるぞ? とっさにフルーナの方を見る。やっぱり、彼女が魔法でうかばせてるみたいだ。手を前に出して、そこからは青白い光が出ている。


「すげえ……サイコキネシスだ……」


 オレが感嘆している間に、シェードが呪文を唱える。


「ラギージア・ウン・ガーキャリー!」


 シューン。一瞬で兵士たちはどこかにとばされてしまった。不幸にも呪文の的となった兵士に幸運がおとずれますように。


「フルーナ、君もオレたちと来い!」


 彼女はどうしたらいいか分からないみたいだったが、ドレンへの憎しみが行動の指針になったようで、すぐオレらについてきた。ソラたちがつかまってる牢屋を探しているときだ。


「お、おいソレイユ。何か、静まりかえってないか? まさか、もうみんな寝たのかな」


 シェードがふとつぶやいた。フルーナがそれに答える。


「ええ。城のみんなは早寝早起きがモットーだから。この時間だと、おそらく起きてる人はいないと思います」

「チャンスってわけだな。よーし」


 オレたちの足どりが軽くなった。この調子なら、またつかまる心配はないだろう。


 少し食べ物を口に入れながら、四人は地下を進んでいった。

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