26、ジャックフェアリーの暴走?(2)
初めに不満の声をあげたのはソラだ。
「へぇ? 自分を信じて、壁画の扉に突っ込むってわけ? 一つ言っておくけど、戦いの扉はぜーったいにいやよ」
みんなの視線が一斉にオレに集まる。ちょ、ちょっと待ってくれ。
「ソラが言うには、入りたい道の扉に体当たりするのか? そんなのやって、鼻がつぶれたらどうするんだ!」
「じゃあ、どうしろってのよ」
「うっ……分かった」
全員の意見が一致して、オレは戦いの扉、しかも一番目にぶつかる事になった。でも、どんなやつと戦えるか楽しみになってきたぞ。
三人の話し合いの結果、ソラが迷い、サリィが飛ぶ、ダイスが逃げるになったようだ。悲しいが、この中でまともに戦えるのはオレだけかも知れないな。剣を持ってるのもオレだけだし。そんな事を考えながら、助走をつける。
「がんばってね、ソレイユ~♡」
ズドドー! 甘えた声のトーンで、つまづいて転んでしまった。言い返す前に、ゴロゴロ転がったまま扉にぶつかった……? いや、すりぬけたといった方が正しいだろう。壁にぶつかった感触はなく、立ち上がってみると、まるで違う世界にきていた。
「下がマグマだ……水中なのに」
オレの頭がおかしいんだろうか。前方には一本の道があって、辺り一面がマグマだ。入った時から汗が止まらなかった理由がようやく分かった。
オレは特に何もする事がないから、唯一の道を進み始める。
「魔法ってのはすごいな」
マグマが本当でないくらいはオレにも分かる。壁画も、おそらく呪文によって作り出されたものだ。
「おやっ、あれは……ナオ・チャン?」
少し広い場所に、Aさんことナオ・チャンが立っている。こっちに気づくと、魔法を使ってきた。
「ド。ベギャダ゛゜コ、―ロ=……」
ガッシャーン! すごい音がしたかと思うと、でっかいオノが上から降ってきた。とっさに後ろに飛んだが、刃がオレの腕を切断する。
「ぐ、あああっ!」
むなしくマグマへ落ちるオレの腕。だが痛みに苦しんでる暇なんてない。ナオ・チャンが続けて唱えてきたからだ。
「゜゜゜゜゜゜=、、、、、、、ガゴヂ、ドラドラドラドラ」
くっ。次に来たのは、何千本という剣だ。ESBでかわすが、一本に足をスパンと切られる。わずかなすきもなく、右耳や残った方の手の小指、足の親指に中指。もはや痛みが感じられない。剣が消えると、ナオ・チャンやウェンス、帝王に囲まれる。
「ダウソンゲハレコ」
帝王が言った。何を言ってるのか、さっぱり分からない。
「イナハミタイ。ダウホマテベス」
ウェンスが優しく言う。ん、ちょっと待てよ? こいつらの言葉を、逆から読んでみると……。
最後にいつのまにかいた兄さんが言った。
「ダンルイテレサマダデウホマハエマオ」
ははは。ようやく分かったぞ。
「このマグマも、お前らも、痛みも苦しみも、すべてイカサマだ。オレにこんなせこい真似をしたのは、誰なんだ!」
言い終わると、オレは遺跡に立っていた。マグマなんてなく、たいまつと石でできた壁と床があるだけだ。そして、一人の男がこっちをにらんでるだけだ。
そいつはくやしそうに壁を拳で叩く。
「ちくしょう、どうしてだまされなかったんだ! お前の心の一番弱いところを攻めたのに!」
「オレには、やるべき仕事がある。達成されるまでは、オレの心は魔法なんかでくじけないんだよ」
「私の負けだ。奥に進んでいいぞ」
「おっ、ありがとよ」
オレは走りながら出口へ向かう。やっぱり、あれは幻覚を見せる呪文を使用していたんだな。帝王には感謝できないが、兄さんが助けてくれてよかったぜ。まあ本人は意味が分からないと思うけど、礼は言っておくよ。
とうとう出口だ。外に出ると、仲間たちがもう集合していた。
「みんな! 無事ゴールできたんだな」
「けっこう楽しかったですよ、新しいアトラクションみたいで」
ダイスはずいぶんおもしろかったんだな。人よりもかなり速いから、迫りくるトゲから逃げるのなんて、朝飯前だろう。サリィとソラもいい表情をしている。
「ソレイユはどうだったの? なんだか、元気がないみたいよ……」
ソラが唐突にきいてきた。背後のフェアリーに気づかずに。
「その話はあとにしようぜ。オレはもっと重要な事があると思うんだよね」
「えっ?」
「後ろだよ、後ろ」
彼女はようやく、三大賢者の一人がいるのを認識できた。ゆっくりとふりかえる。
全員がジャックフェアリーを見る。すると彼はにっこり笑って言う。
「ようこそ、我がフェアリーの遺跡へ」
えっ? 反抗期で凶暴になってたんじゃなかったのか? もう何が何だか全く分からん。どこかに通訳はいるかー。
オレがしんちょうにきいてみる。
「あ、あのー、反抗期はどうなたんですか」
「それならもう克服した」
「何だってー?」
四人が驚きの声をあげた。ジャックフェアリーはあいかわらずにこにこしながら話す。
「おっと、自己紹介がまだであったな。私はジャックフェアリーのジオス。そなたたちの名は?」
オレたちは落ち着かないまま言っていく。全員が終わると、また人のよさそうな笑みをうかべて言う。
「そなたがヘーレゴニーの王位相続者か。若くて大変な時もあるだろうが、あきらめないでほしい」
「わかりました。ところで、私以外の三人はジュエル・ハンターズなんです。宝石はどこにありますか」
「ジュエル・ハンターズだと……」
ジオスは下を向いたまま、動かなくなった。オレたちは、静かに言葉を待つ。
彼はとうとう重い口を開ける。
「私は三大賢者。宝石との関係が最も深い者たちだ。すべて天空の城に納めた時……私たちは真の姿になるのだ」
難しい話だな。しかも、天空の城って何だよ!
「あの、ちょっといいかな。天空の城ってどこにあるんだ」
「この大陸を見下ろせるところ、つまり大空だ。ジュエル・ハンターズなのに知らなかったのか」
「全然」
ジオスはこっちに近づきながら言う。
「そなたたちはまだ知らない方がいいだろう。少なくとも、今は。宝石を全部集めれば、自然と導いてくれるぞ」
「誰が?」
「ルクシーノとハンドルートだ」
「えっ?」
意外にも反応を示したのはダイスだ。オレも多少は驚いてるけど、そこまでびっくりするなよ。
「ルクシーノといえば、とっくに死んだんじゃないんですか? 五百年前の人物ですよ」
あ、そうか。ダイスは一つ目の宝石を手に入れたあとに仲間になったから、シュナイドの話を聞かなかったんだっけ。でも、ソラは別に動揺する様子がない。
「ソラはルクシーノが生存してるのを聞いた事あるのか」
「えっ? だって、エルフの森とかで話してくれたじゃない」
そうだっけ。そうだ、思い出したぞ。寝る前のあいてる時間にきかせてあげたんだ。オレはそのあとのキスを思い浮かべてくくくっと笑った。
オレは笑いをおし殺して言う。
「で、宝石はどこにあるんだ? あ、その前に、頼み事があるんだった」
「言ってみろ」
「地表に戻る時に、〈ニ・グリーメ〉を唱えて、オレらを魚人間にしてくれないか」
「魚人間? わかった。宝石はというと、私の後ろの通路の奥にあるぞ」
「じゃあ行くぞ、みんな」
「そうね」「そうですね」「そうしましょう」
ジオスに背を向け、歩き出す。よし、とうとう三つ目の宝石が見つかったんだ。わくわくしながら、目の前を見る。
そこに、紫に輝く宝石がある。少し意地をはりながらも堂々と光っているな。
「じゃあ、触れる準備はいいか?」
「いいわ」「OKです」
「せーの!」
シューン!
同じように異世界に来たな、おそらく。近くにはサリィとダイスが上から舞い降りてくる天使を見ている。天使は話し始めた。
ジュエル・ハンターズは残り五人
宝石も残りは五個
帝王が動きだしています
さらに追っ手も近づいてきています
ソレイユ、そしてサリィよ
その腕輪はあと数時間であなた二人の
自由を奪います
つけている方の腕をこちらへ……
オレとサリィは言われるままに腕を差し出す。天使が言葉をつぶやくと、腕輪が光り出し、黒いものがどんどんぬけていく。どうやら、呪いが解けたようだな。
これで大丈夫
あなたたちに幸運を……
「ま、待ってくれ! あなたの名前は!」
私は 聖天使アルティマです




