25、ジャックフェアリーの暴走?(1)
レインが飛び立つと、まずソラがキングフェアリーに話しかけた。
「アガラス湖で多くの血が流れてしまって、申し訳ありませんでした」
だがキングフェアリーはいたって冷静だ。
「かまわぬ。ところで、なぜここに来たのか、教えてくれないか」
「あ、はい。私たちは、アガラス湖にもしかすると宝石があるのではと思って、こうして立っております」
「ん? まさか、ジュエル・ハンターズがこの中にいるのか」
「ああ。オレがそうだ。名前はソレイユ・ネバル」
「私もそうです。サリィ・ハイブラクといいます」
「僕も同じくジュエル・ハンターズで、ダイス・ローザフです」
最後にソラが自分を指差して言う。
「私は違いますけど、帝王を倒して父を救うという目的で同行しています。ちなみに名はソラ・ヘーレゴニーです」
「さようか。私はキングフェアリー、オスロ。クイーンフェアリーと同じ、フェアリーを統一しているのだ。さっきのソラの質問だが、湖の底に宝石はあるぞ」
「湖の底だって?」
どうやって行けばいいんだよ。エルフなら平気かもしれないが、オレたち人間はせいぜい二分が限度だ。ん? まてよ? サリィにいっその事取ってきてもらうか。
「なあサリィ、宝石を取ってきてくれよ」
しかしサリィは首を振る。
「エルフは水中で五分程度しか息を止められないわ。それに……」
彼女は途中で言葉につまり、無言で湖を見る。キングフェアリーはその姿をとらえ、うなずいた。
「エルフには聞こえるか。私とタレミアム[ (クイーンフェアリーのこと)]の子供の暴走がな……」
「ジャックフェアリーの事ですか?」
「そうだ。ジオスというのだが、最近は反抗期でな」
おいおい。フェアリーにも、反抗期があるのかよ。それも、三大賢者といわれるやつだぜ?
「まことに失礼なのですけど、子供様のお年は」
「三〇九歳だが」
「……」
何も言うまい。フェアリーは、長生きなんだから。
そのあとすぐに、キングフェアリーは話を続ける。
「ジオスは生まれながらにして強大な何かを内に秘めていたのだ。〈神の子〉として同種族からも恐れられるようなやつだ。私はジオスに近づけないから、そなたたちがなんとかするしかない。そこで、そなたたち全員で行ってほしい」
「しかし、水中では私たちは無力です。ましてやそこで戦うとなると……」
「呼吸なら心配ないぞ」
そう言って、キングフェアリーは高貴さを漂わせながら静かに呪文を唱えた。
「ニ・グリーメ!」
すると驚いた事に手の指が魚のひれみたいになり、ESBを脱ぐと、足もそうなっていた。こんな呪文、あってもいいのだろうか。
「魔法の効力で泳ぎが速くなり、呼吸も地上と同じようにできるぞ」
「ありがとうございます!」
「効力は一度水に入って出るまでだ。湖の底に地底遺跡があって、その奥にジオスと宝石があるはずであろう。遺跡の内部は水が入ってこないから、帰る時は息子に頼むがよい」
「わかりました」
「じゃあ行くぜ、みんな!」
オレたちは果敢に水に飛び込んだ。
「魚って、毎日こんなに気持ち良く泳いでるのかな、ダイス?」
「そうですね。魚にとっては日常だけれど、僕たちにとっては、まさに神秘ですよね」
ダイスの言葉通りだ。上を見てみると、日差しがほのかに水を光らせていて、幻想的だ。オレらの近くでは、魚の群れが高潔に泳いでいる。
「びっくりするぐらい広い湖だな」
「あっ、あれが地底遺跡ですよね」
「そうだな」
水にもぐって約五分後、がんばって手足をばたばたさせた末に(オレもダイスもソラも実際全く泳げなかったんだ)、地底遺跡に進入する。湖に比べれば小さいが、それでもやっぱり大きい。
オレを先頭に入口をぬける。すると、少し行ったところに陸地が水面から見えた。とりあえずそこへあがり、空気のあるなしを確認する。よかった、ここで呼吸をする事ができるな。しかも気温もちょうどいい。手足を見てみると、いつのまにかひれのようなものが無くなっていた。サリィが呪文を唱える。
「ファイヤーボール!」
あらかじめ用意しておいたたき木に火をつける。
「さむ……。歯がガチガチいう……」
オレたちはしばらく服を乾かして飯にした。時々、誰かが大声でぐずっているのが聞こえてくる。キングフェアリーの話からすると、正体はジャックフェアリーだろう。横になって寝ようとしても、その声が気になって眠れない。くそー、ウェンスたちとの戦闘の疲れが100%残ってるぞ。サリィも呪文を使いすぎて、だいぶ体力を消費したらしい。他の二人も泳いだせいでぐったりだ。
遺跡内はたいまつで照らされているが、やっぱり暗い。そんなわけでここらへんはたき火の明かりがすごく目立ってるんだ。無意識のうちにオレは言う。
「宝石の力って、どんなものなんだろう」
言葉をきり、清潔で安全な湖の水を飲む。
「二百年前のハイザックにも、〈八ツ星〉というものが存在していたらしいんだ。もしかして、オレたちが集めている宝石で全種族を統一できるんじゃないか、ソラ?」
彼女は、無表情のまま言う。
「んー、でもね、私の理想の王は、国のみんなが自由に、助け合っていけるような王になりたいの。だから、統一とか支配とか、私は絶対許せないわ。その点でも帝王は大嫌いなの」
体を震わせているダイスも、こっちを向いて言う。
「でも、帝王を倒すには、一刻も早く宝石を集めないといけません」
サリィは低い声で告げる。
「私の王、つまりエルフたちの女王は、そろそろ戦争が始まると言ってました」
ん、まてよ。女王と会ったのは、今から約一週間前になるのか? その間にさまざまな事が起きたから、女王との対話が一年前に感じられる。
まず、仲間だったナオ・チャンとザーロックが実は帝王の手下だった事。兄さんが負傷したり、ダイスが仲間になったり、ファントムを倒してマーナリンを救ったり。あ、それから、ドルットから腕輪をもらったりもした。全部、昔の事のようだな。
「オレたちは、そこらへんの冒険家じゃない。これからの旅はもっと苦しくなってくるだろうけど、助け合って一個ずつ宝石を手に入れていこうな、みんな。だけど、今はそんなのよりも重大なものがある」
「それは?」
「……肉をダイスにとられないようにする」
ダイスが骨つき肉を奪ったから、オレも力ずくで彼の肉にしゃぶりつく。笑いがどっとあふれ、たき火が消えた時間とともに出発した。
「もうジャックフェアリーは私たちの存在に気づいてるわ。鳴き声がやんだ」
あ、そう言われてみれば、聞いてていらいらしてくる声がしなくなった。オレらの居場所でも追っているのか?
「そんなの関係ない。どちらにしても、歩き続けなくちゃいけないんだから」
「そうね。なるべく急ぎましょう」
ソラの提案で、歩きのペースを上げる。しばらく行くと、目の前に変な絵の書いてある壁が立ちはだかる。これは……扉の絵や部屋がしるされているな。オレはその壁画をじっくりと見る。
そして、どこからか声がした。
一つは戦い 一つは迷い
一つは飛び 一つは逃げる(トゲが追いかける)
四つに一つ 扉を選び
我に飛び込むべし




