24、宿命
オレがくり出した新呪文は、かなりでかい槍だった。神の槍といってもおかしくないほどの神々しさをかね備えている。オレはそれをアンデットの群れにつき刺そうとする。だが、シオンが黙っちゃいなかった。
「ブラックホールX―1!」
何だ、この魔法は? シオンの出した黒い物体は、いとも簡単に神の槍をうちのめした。
「くっ、神の槍がとかされた?」
「そうだ。こいつは触れたものがなんであってもとかす、最強の魔法だ」
「ならば、最強の対呪文用の剣はどうだ?」
レインは剣で黒い物体をあっさりと切断した。そのままシオンに飛びかかったが、そばにいたウェンスが進撃を止めた。
「レインー、大丈夫かー」
「もちろん。とりあえず、自分の心配でもしてろ」
「へっ?」
レインの助言によって、シオンのレイピアを防げた。シオンは漆黒の翼で空へ上昇する。あれじゃあ、オレの剣が届かないぞ。だから、呪文でむりやり地面へ落としてやる。
「ライジングタワー!」
希望の腕輪によって魔力が高くなっていたから、ものすごいでかさの柱になった。しかし、思っていた以上に素早くあっさりよけられる。
「この野郎。せこい方法を使うんじゃねぇ!」
「はははっ。人にはそれぞれ戦いのスタイルというのがあるのだ」
かなりむかつくバンパイアだぜ。オレは仲間たちの様子を確認する。
レインは、今もウェンスと剣どおしでの戦いが勃発している。あまりにスピーディーで、互いの剣が見えないほど速い。剣のぶつかり合う音がずっと聞こえていて、こっちがひやひやさせられる。実力は同じだから、あとは持久力の問題ってわけだな。
一方、サリィ、ソラ、ダイスの三人は四十体……じゃなくて三十八体の死体を相手に奮闘中だ。
ソラはどうやら魔法の紙が尽きたらしく、槍でどんどん突き殺していく。ダイスも敵に包囲されないように動きながら、矢を連射している。サリィは今、強力そうな魔法のために唱えている途中だ。
あっ、そういえばウェンスのところにいたマスターたちはとっくに逃げ出していた。オレらの人間ばなれしたバトルについていけなくなったのだろう。それとも、殺されるのがいやかのどちらかだな。
「アルシード!」
おっと、余計な事を考えてるうちに、シオンはあの悪夢のような呪文を唱え終わった。いったい、何の魔法で攻めてくるんだろうか。
「ジェット!」
今度は上からの竜巻だ。しかも、三つかよ! オレは状況を察知して、一番適切なのを唱える。
「フライト・ボルテックス!」
オレはすごい速さで竜巻の一つにつっこむ。そう、竜巻の中心は無風、つまり弱所なんだ。そして見事に攻略し、勢いそのままでシオンに体当たりをしようとする。
だがシオンはすんでのところでよけた。その代わり、オレの体は左翼を貫通し、バンパイアと共に落下する。
ドシーン。シオンは悪い姿勢で落ちたのか、右翼も完全にダメになっていた。オレはESBのおかげでエルフみたいに華麗に着地した。本当に、なんでもありの世の中だな。
「くそっ、右手が折れた」
「さあどうする。降参すれば、逃がしてやってもいいぞ」
「私はあいにく左利きでね」
「ちっ、そうだったのか」
人間とバンパイアの対決は、第二段階に突入する。どうやらシオンは呪文を使うための魔力がからっぽのようだ。オレは魔法剣での呪文使用、しかも腕輪の力で無限に唱え続けられるが、あえて剣での勝負にする事にした。相手側に踏み出そうとした、その時だ。
「ヘル・ガイア・プロミネンス!」
声は、アンデットの場所から聞こえた。となると、サリィか!
無事成功した魔法は、すべてのアンデットを焼き払う。なんと、大地から劫火が噴射されたんだ。その日は三十メートルほど上昇したあと、また大地に戻った。
「すげぇ……。こんなに強いのがあったなんてな」
アンデットは、骨まで燃やされ、何も残っていない。三人は無傷で勝ち、オレとレインの手助けを試みる。
「おっと、危ない」
シオンがレイピアを振り回してきたから、横にとんでかわす。
「この、すばしっこい小僧め」
「あんたも言ったよな。人にはそれぞれ戦いのスタイルというのがあるって。さあ、仲間が助けにくるぞ。翼なしでオレの剣とか仲間の矢や魔法、槍をよけられるかな、うひひ」
シオンはしばらくうつむいて考えていたが、やがて結論をだした。
「……仕方ない。今回は私たちマスターの負けだ。ジャックフェアリーはあきらめてやる。行くぞ、ウェンス」
「何? ……くそっ、わかった。だがな」
ウェンスはレインの方を向く
「宿命は終わっちゃいないはずだ、レイン。またどこかで会う時、そこがどちらかの死に場所、つまり墓だ」
ウェンスの言葉に、レインも堂々と言い返す。
「そのつもりだ、ウェンス」
ウェンスは満足したようにうなずくと、魔法の紙を取り出した。そして、それをシオンと裂いて言う。
「テレポート」
「さあ、レイン」
「えっ?」
「さっきの話の続き、してくれよ」
「私も、ぜひ聞いてみたいものだな」
「しょうがないなぁ」
レインはオレや、シオンの呪文から解放されたキングフェアリーの必死のおねだりの末、ようやく話をしてくれた。
「まず、ヘーレゴニー五騎士の誤解を改めなくちゃいけない。名前をすべて言える者は、いるか」
「ロス、ハック、センディー、ニス、コロニサーでしょ」
ソラが当たり前に答えた。まあ彼女は王族だから、五騎士の名前を知らない田舎者のオレとは違うみたいだな。
「そう。その中のハックというものがヒューチャル家からの出身だ。ソラはもうお分かりだろうが、ハックの名の人物は、ハイザックでいうとルクシーノの時代に活躍した人物だ。ところが、五騎士結成の当時は二百年前。つまり、ハックというのは偽名で、本当の名はローネン・ヒューチャルだったんだ」
「そうだったのか。でも、なぜ偽名で五騎士になる必要があったんだろう」
レインは肩をすくめる。
「分からない。だが確かなのは、ハック・ヒューチャルという人物は五百年前、ルクシーノ大王の兄弟であるロクシーノが原因で自害したんだ」
「自害……。あの、一つ質問していいですか」
ダイスが堂々と言う。
「さっき、ウェンスはレインさんとの関係を宿命だって言ってましたよね? あれはどういう意味なんですか」
まだまだ未熟だな、ダイス。もうほとんどレインが答えを言ってたじゃないか。ハックとロクシーノの関係が同じく宿命だってのを理解できなかったのか?
レインは簡単に答えた。
「オレがロクシーノの子孫だから、五百年前と二百年前の因縁がまだ残ってるんだろ」
その時、ソラがまた質問する。
「あのー、五百年前の因縁はロクシーノだけれど、二百年前には何があったの?」
「当時のハイザックの王、ニルシアーノがローネン・ヒューチャルを外国へ追放した。国王の補佐だったカール・ヘイルタイトの必死の説得にもかかわらずな。ローネンはハイザックに反逆したネクソス・ヒューチャルの育ての親だったのが原因でヘーレゴニーに強制的に送られた。そしてヘーレゴニーでもローネンは差別されていたため、魔法で顔を変え、名前もハックという名にして、すべての国に復讐するためにヘーレゴニー五騎士に入団した。たぶん自分の正体が見つかりにくいと考えたんだろう。まあオレが知ってるのはこれくらいかな」
話が頭の中でぐるぐる回っている。いくつか知ってる名前があったな。ニルシアーノとかカール・ヘイルタイト、それからネクソス・ヒューチャルか。
「それでは、五百年前の事を話してみてください」
サリィは完全に話の内容が分かったのか。オレも少しは納得できたけど、こんな昔話は、眠たくなってくる。オレはどうやら伝記とか歴史は苦手なようだな。
レインの話によると、ロクシーノは反逆気味のヒューチャル家を王家に忠誠を誓わせるため、ハックにお前の子供を殺すとおどしたようだ。非常ともいえるこの行為にハックはしだいにおいつめられ、ついには自殺をしてしまったという。レインとの宿命って、こういう事だったんだ。だからウェンスの本当の目的って、王になるんじゃなくて、レインを殺す事だったのか!
「ははは。ようやくパズルに最後のピースをはめられたぜ。レインがウェンスを追っていたのは、ヒューチャル家の復讐を自ら受け止めようとしてたのか?」
「そうともいえる。だけど、なぜかは知らないけどヘーレゴニーの三大賢者の力を欲しがっているんだ、マスターは。オレはそれを止めさせようとしている」
おっと、その疑問なら、オレだって答えてあげられる。
「ウェンスはレインが来る前、三大賢者の力で帝王もひざまずかせるようなヘーレゴニーの王になるって言ってたけど」
「そうなのか? 彼は王家に特別な思いを持っているのに、王になるだって? ちょっとそれはおかしい。彼は王家に復讐しようとしてるんだぞ」
うーん、考えてみれば、これは明確な矛盾だな。じゃあ、これはうそっていう結論になる。
「じゃあ、なぜ?」
「そんなの知るか。会った時にたずねてみるんだな。オレもそれが気になるから、もうウェンスを追いかけなくちゃならない」
「もう行くんですか?」
「ああ。じゃあな」
行ってしまうのか。仲間になってくれたら、心強いんだけどな。
レインは一度もふりかえらずに湖から姿を消した。
「ダークマター!」
彼はにあわない黒い翼をはばたかせながら、すごい速さで大空へ飛翔した。




