23、隠された真相
「さあ、ジャックフェアリーをこちらに渡すのだ、キングフェアリーのオスロよ」
キング・オブ・マスターが言った。周りにいる部下よりもけっこう高級そうな仮面、鎧、マントに剣と盾を装備しているやつが、おそらくキング・オブ・マスターだろう。フェアリーの王を面前にしても、退くような行動は見せない。
「こいつら、ジャックフェアリーが目的だったんですね」
木の影からダイスがぼそっとつぶやく。オレも部下とかに声が聞こえない程度の音量で言う。
「ジャックフェアリーって、あの三大賢者のうちの一人、て事だよな」
「はい。その話はどこで知ったんですか」
「兄さんやソロイが教えてくれたんだ。三大賢者がいる限り、帝王や隣国がヘーレゴニーを支配できないぞって」
「フェニックスがファンジャウの軍隊を食い止めた伝説は、あまりにも有名ですからね」
「そんなのがあったんだ。教えてくれよ、ダイス」
「僕より、彼女がくわしく知ってますよ、きっと」
ダイスは、ソラを見て言った。いきなり話をしてくれ、と言われたから、彼女は少し慌てた。その時の音が鳴り響き、なんと一人のマスターがこっちを向いた。なんとか草むらや木などで隠れたが、キング・オブ・マスターと話して、歩いてくる。もちろん方向は、オレたちのいる場所だ。
「し、しまった。みんな、身を隠せ!」
小さい声で言って、オレ自身もどこかに隠れられないかきょろきょろする。ここの長い草は遠くからだとエルフでなければ見つからないが、近くまで来れば簡単に見つかってしまうという。そこでオレたちは木の後ろに潜んでいた。
心臓のバクン、バクンという音と、マスターの足音で、気が狂いそうだ。しかも、じっとしていなければいけないから、とてもきゅうくつだった。
仮面がオレの横からにゅっと出て、体が凍ってしまった(まだ春の終わりなのに!)。相手の表情はわからないが、絶対にバカな小僧だな、と思っているはずだ。湖で、しかも鎧の集団が近くにいる状況で木に隠れていたんだから。
「ガキ、ちょっと私と来い。アメあげるからよ」
完全に、五歳の子供と同じ扱いじゃないか。しょうがないから、俺が十七歳ってところを思い知らせてやろう。
「あのー、あんたもあめが欲しくないか?」
「えっ?」
オレは、瞬間的にニヤッとする。
「降りそそぐ血の雨をプレゼントしようかとたずねたんだよ!」
「ひ、ひえっ」
これで、あっちにいるやつらにも声が届いたはずだ。オレはそいつが剣を抜く前に首を折る。OSGをはめていたから楽にポキンといく事ができた。
「何者だっ! 姿を現せ!」
あれはキング・オブ・マスターの声だな。すでに死んだ部下をそこらへんに捨てて、ダイスとソラに謝る。
「ごめん、話の続きはまた今度な」
「そうですね。僕たちが生き残れればの問題ですけど」
「ちょっと! まだ戦うとは決まってないでしょ」
「ソラ。オレたちは、あいつの仲間を四十人も殺したんだぜ」
オレの言葉をサリィが否定する。
「いいえ。AさんとBさんは生きているから、正しくは三十八人よ」
「そうか。まあとりあえずやつの言葉に従おうぜ。どうせ逃げようとしても、すでに情報をうけたマスターが包囲してるだろうよ」
「じゃあ行くわよ」
草むらから出ると、キング・オブ・マスターと十人の強そうな部下が腕組みをして立っていた。
キング・オブ・マスターはオレたちの顔をひととおり見た。オレが何か言おうとすると、先にそいつが言った。
「自己紹介はいらない。もう、きみたちの名は知っているからな」
「なんですって?」
ソラの言葉に賛成だぜ。あいつ、オレらの知り合いなのか? 仮面をつけていて分からないが、声からすると男のようだ。
「私の顔が見たいか。だが、その前にもう一人パーティーに招待したい人物がいるんだ」
「おい、いったい何をしようとしているんだ!」
「おとなしくしていろ。死にたくなければな」
そういうと、やつの左の部下に命令をした。そいつはうなずくと、魔法の紙を取り出して叫ぶ。
「ネオン・ザ・クラウド!」
紙を裂くと、なにやら空が曇ってきた。雲を呼んでどうするつもりなんだ? 心配するあまり、仲間の顔を見た。そしたら、サリィがいきなりびくっと反応した。彼女はまっ青になって言う。
「こ、この気は……」
「サリィ! どうしたんだよ!」
彼女はおそるおそる口にする。
「バン……パ……イア……」
「えっ? バンバンジー?」
冗談のつもりで言ってみたが、全くうけなかった。心底しょんぼりしてもう一度きいてみた。彼女は空のある場所を指差す。だが、空が暗いせいなのか、何も見えてこない。キング・オブ・マスターは感心したように言う。
「ふっ。さすがはエルフだ。感覚が鋭いな。しかし、気づいた時点でもう手遅れだ」
しばらくすると、オレにもその正体がわかった。生き物の血を吸って永遠に生きる闇の住民。そいつは、キング・オブ・マスターの隣に降りてきた。背中には黒い翼が生えていて、ずいぶん大きい。
「こいつは私の協力者でありクイーン・オブ・マスターである、シオンという者だ。そしてこの私……」
仮面をとって、にやりと笑う。オレたちは立ちつくしたまま、動けなくなった。オレはがまんできなくなってそいつに言う。
「お、お、お前は……!」
「そう。私こそがマスターのリーダー、ウェンス・ヒューチャルだ」
太陽は見るよしもなく、厚い雲だけがオレたちのいるアガラス湖をおおっている。
「私の目的はな……三大賢者を手下にして、帝王をもひざまづかせるようなヘーレゴニーの王になるのだ」
「私の息子、ジオスはそなたでは力を支配できないであろう。おそらくその夢は実現不可能だ。現実を見るのだ、ヒューチャルよ」
ああ、そういえばキングフェアリーもいたんだっけ。今まで忘れていたが、やっと彼の存在感がただよい始めた。キングフェアリーの子供、ジャックフェアリーの名前はジオスというのか。
「ははっ。残念ながら、私の心はもう定まっている。ヒューチャル家の初代ヘーレゴニー五騎士、ローネン・ヒューチャルの頃から、王家侵略のためにヒューチャル家はいろいろ行動してきたのだよ。たとえば、ヘーレゴニー五騎士が結成された日に、大規模な王城でのうちこわしがあった。この事件を操っていたのが他でもないローネンだったのだ。民衆の国王に対する信頼感を、多くの人によって外側からゆさぶったのだよ。お分かりいただけたかな、王女様?」
ウェンスの腹がたつ言い方に、ソラは落ち着いて答える。
「あの事件は、長年謎にされていたけれど、ようやく理解する一歩手前までいったわ。でも、これだけはききたい」
彼女はひと呼吸おいて言った。
「なぜヒューチャル家は、そこまで王家が憎いの?」
「それはな、ハイザックの初代王の弟がヒューチャル家をだましたんだよ」
声は、後ろからした。答えたのは、ウェンスではない。こっちに歩いてくる、白のマントをはおった男が答えたのだ。
「あんた、空気読めないな」
「おおめに見てくれよ」
男は照れくさそうに答えた。おい、ちゃんと〈空気読めない〉の意味を理解してるのか?
「くっ、レインかっ! なぜ生きている」
えっ? このレインという男とウェンスは知り合いだったのか。なぜ生きているのかって? そりゃ死んでいないからだろ。だがオレの考えはずいぶんせまいものだと、レインの言葉で痛感した。
「たしかにオレは、ヒューチャル家の口封じのために殺されかけた。でもな、魔法というものをお前は甘く見すぎていたんだよ」
オレたちは話の内容を理解できないまま、二人を目を丸くして見ている。
「あなたはヒューチャル家のすべてを知ってるんですか?」
ソラがレインに質問する。だが、代わりにウェンスが答えた。
「そうだ! こいつの祖先はな、昔ハイザックの王立図書館(王族しか入れない図書館)で、いろいろ調べていて、ハイザックやヘーレゴニーの知識をすべて奪ったのだ!」
「という事は、盗んだのね」
「ああ。理由と祖先の正体はあとで教えるとしよう。まずは、ここで宿命ともいえる対決をしなくちゃいけないぞ」
そう言うと、レインは剣を抜く。刀身がおそろしいくらい長く、銀色の輝きが特徴的なかっこいい剣だ。
「よし。すべてに決着をつけよう。シオン」
バンパイアはウェンスの言葉にうなずき、呪文を唱える。
「ラドン! リザレクション!」
シオンは右手をキングフェアリーに、そして左手をさっきオレたちが殺したマスターの死体に向けた。両手がそれぞれ違う色を放っている。
初めに動きが変わったのは、キングフェアリーだった。
「何をするのだ、バンパイアよ」
湖の水上で浮かんでいたキングフェアリーの動きがぴたりと止まった。シオンは吐きすてるように言う。
「フェアリーがいちいち邪魔をするな。これはそなたが関わるものではないのだ。そこで見ているがいい。私たちの勝利をな……」
右手の光が消えていく。キングフェアリーの行動は完全に停止し、もはやしゃべる事もできずにいる。
次に、左手がまばゆい光を光線のように出し、死体どもを包む。そしたら、死体がむくっと起きあがり、オレたちの方に行進してくる。
「だが決着をつけたければ、このアンデットを始末してみろ、ヘーレゴニー五騎士の一人、レインよ!」
ふむ。だったら、相当強いだろうな。レインは剣を高く振り上げ、オレたちに言う。
「お前たちまで巻き込んでしまって、すまないな」
「いや、オレらも喜んで戦うぜ。じゃないと、あんたがウェンスと戦う前にアンデットに殺されちゃうからな」
オレが言うと、仲間も武器を取り出した。
「僕は、ソレイユさんやレインさんをしっかりサポートします。あいつらとの対決で、マスターの目的を止めましょう」
「レイン。そして他の仲間たちもがんばりましょう」
「絶対に生きて、図書館の本を盗んだ罪はしっかり受けてもらうわよ」
「ん? まさかお前はソラ・ヘーレゴニーなのか?」
「そうよ。まあ、話はあとにしましょうよ」
「よし、行くぜ」
すべてをはっきりさせるため、オレは戦ってやる!
「ミストルテイン!」




